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第41話 新しい一員として◆

 そんなこんなで、クエスト受注を終えて酒場に戻って来ると、海賊団のエルフたちは相変わらずどんちゃん騒ぎを続けていて、ステージ上ではピアノの人が椅子の上で飛び跳ねながらソロで演奏されていました。これもまたすごい迫力で、思わず見入ってしまいます……


「――あっ! イイこと思い付いちゃったんだけど!」


 すると、突然ニーナさんがそう叫んで、演奏中のステージの上へ駆け上がり、大声で叫びました。


「はいみんな、ちゅうも~~~く!! 今夜は集まってくれてありがとね~~っ! さてさて、場も盛り上がってきたところで、私の海賊団に入団したての新人ラビっちが、ここで一曲歌ってくれるそうで~~~す! みんな拍手拍手~~~~~っ!!」

「えっ⁉ ちょ、ちょっとニーナさんっ⁉」


 いきなりそんなことを言われて、慌てて「違います!」と声を上げようとした途端、周りからドッと歓声が沸き上がり、辺りは凄い熱狂に包まれてしまいました。


「ほれほれ、みんなラビっちの歌が聴きたいって! 早く応えてあげなきゃ!」

「そんなこと言われても、私こんなところで披露できる歌なんか――」


 「いいからいいから」とニーナに背中を押されてステージに立たされてしまった私。何もできずにもじもじしていると、「歌え歌え!」「小鳥みたいにさえずってみろよ!」「楽しませろ新入り!」とあちこちから声が飛んできます。周りの目線が全て私に注がれて、恥ずかしさのあまり自分の顔が熱くなるのを感じました。


 こんなとき、どんな歌を歌えば彼らを喜ばせることができるの? 混乱する中でひたすら考えていたとき、ふととある一つの歌が思い浮かびました。


 その歌は、かつて船乗りだったお父様から教えられた歌で、嵐に遭って遭難しかけたとき、乗組員たちを元気付けるために皆で歌ったものだと聞きました。幸い歌詞は覚えていたので、私はピアニストの人に曲名を伝えると、その方も曲を御存じだったようで、小さくうなずき返してくれました。


 辺りがしんと静まり返る中、ピアノが前奏を弾き始め、私は恐々《こわごわ》とその曲を口ずさむように歌い始めます。みんなこの歌を知っているのかしら? この雰囲気に全然合わない歌だったらどうしよう? 頭の中で不安が渦巻いて、ドキドキが止まりません。


 ――けれど、歌い始めてから少しして、それまで静かに聴いていた海賊団たちが次々に立ち上がり、私の後に続いてその歌を歌い始めたのです。最後にはその場にいた全員が立ち上がって大合唱となり、ピアノや、ヴァイオリン、バンドネオンも演奏に加わって、店内が丸ごと一つのステージになってしまいました。


 このとき、私は感動を覚えました。歌を通して、海賊団の人たちと心を一つにできたような気がして、こんな自分でも、海賊の一員になれたのだと強く実感することができたのです! これほど嬉しいことは無くて、家族を亡くしてからずっと一人だった私の周りに、新しい家族が生まれた瞬間であるようにすら思えました。


 私は胸を張って、皆の合唱に負けないくらい大きな声で歌いました。こんなに楽しく歌ったのは何時いつぶりだろう? 本当に楽しかった。


 歌い終わると、皆さん盛大な拍手で私をたたえてくれました。


「最高だったぜ嬢ちゃん!」

「すげぇな。いい声してるぜ!」

「航海中にもまた歌ってくれよな!」


 みんな口々にそう言ってくれて、中には「良かったぜ! これは俺からのおごりだ!」とエールの入ったジョッキを手渡してくれる人もいて、私の座ったテーブルの上は瞬く間にエールのジョッキで埋め尽くされてしまいました。


「さぁみんな! 夜はまだまだこれからだよ! エールは持ったか~~~~っ⁉」

「「「「オオ――――――ッ!!」」」」


 ニーナさんが音頭おんどを取り、周りの海賊たちが歓声を上げる中、私もその場の雰囲気に合わせてエールの入ったジョッキを一つ手に取り、大きくかかげて見せました。


「じゃあ、私たちニーナ海賊団の健闘を祈って、カンパ―――イ!」


 店内にジョッキを打ち合う音が響くとともに、ステージ上で演奏が始まり、再び店内はお祭り騒ぎ。私も負けてられないと、手に持ったエールを思い切り口に流し込みました。カッとのどと胸が熱くなって、異様な爽快そうかいさが頭の中を突き抜けます。苦くてシュワシュワしていたけれど、嫌いな味ではありませんでした。むしろ飲めば飲むほど止まらなくなって、もっと欲しいと体が求めてくるようにさえ感じます!


「これ、すごく美味しい……」

「あはは! ラビっち口に白いひげ生やしてるんだけど~。ウケるwww」


 私は慌てて口元の泡をぬぐいました。そして、さらにもう一つのジョッキへ手を伸ばし、今度は一気に飲み干しました。なんだかすごく体が軽くなって、フワフワして気持ち良くなります。


「も、もう一杯だけ……」


 ぼんやりする頭でさらにもう一杯、もう一杯――と続けているうちに、最後はもう何杯目なのかも分からなくなって、気付けば体の感覚も飛んでしまって、自分が立っているのか座っているのかも分からなくなって………


 こうして、この日最後に私が目にしたのは、ランタンが吊り下がるお店の天井と、そこから覗き込むようにしてあきれ顔でこちらを覗き込むニーナと海賊団たちの顔でした。



「―――あっ、やっと目ぇ覚めた?」


 そして、次に気が付いたとき、私は師匠であるクルーエル・ラビ号の中にいて、船長室のベッドに寝かされていました。


「あれ? 私は……」

「あははっ、覚えてないの? 酒場『スラッシー』で飲み過ぎていきなりひっくり返っちゃってさ~。それで私がここまでラビっちを運んであげたんだよ」


 そうニーナさんから言われて、私は酒場での出来事を思い返そうとしましたが、最後の方の記憶が全くなくて、代わりにひどい頭痛が襲ってきました。


『翌朝になって、ニーナがラビを抱きかかえて俺のところに戻って来たからびっくりしたよ。何かあったんじゃないかって』


 師匠も私のことをかなり心配してくれていたようで、私はとても申し訳ない気持ちで一杯になりました。


「師匠、心配かけてしまってごめんなさい……」

『別に謝らなくていい。無事に戻って来てくれたならそれでいいさ』


 でも、心のうつわが広い師匠は、そんな私の至らないところをとがめもせず、すぐに許してくれました。師匠の優しさに、私はいつも甘えてばかりです。


「私も、ラビっちのおかげで昨日の夜はマジテンアゲだったし、海賊団の連中も結構楽しんでたみたいだから、結果オーライじゃない?」


 ニーナさんもそう言ってくれて、私は少し嬉しくなりました。海賊団の一員になったその日から散々なこともあったけれど、結果的には良い関係を築けたようで、ホッとしました。


「そ・れ・にぃ、ラビっちが寝込んでいる間、私も色々と楽しいことさせてもらっちゃったしね〜♥」

「へっ⁉︎」


 唐突に放ったニーナさんの言葉に驚く私。泥酔している間の記憶は何一つ無くて混乱する私を見て、ニーナさんは意地悪な笑みを浮かべました。


『……おいニーナ、昨日の夜ラビが泥酔している間に何か変なことしたんじゃないだろうな?』

「はぁ? そんなことするワケないじゃん。酔い潰れたラビっちを担いで宿屋に行って〜、服脱がせて一緒にお風呂入ったりとか〜、めちゃカワな寝巻きに着替えさせて一緒にベッドインしちゃったりとか〜、するワケないじゃ〜ん」

『いや、思いっきり口に出してんじゃねぇかよ! おいラビ! この変態ギャルエルフに一体何されたんだ⁉︎』

「へっ⁉︎ い、いやあの、わ、私その時のこと何も覚えてなくて……」

「そりゃあもう、ベッドインしてからは、ラビっちの未成熟なカラダを好き勝手に、あんなことからこんなことまで――」

「ふぇっ⁉」


 私は思わず自分の体を触って確かめてしまいます。一体眠っている間に、私は何をされてしまったのでしょうか……?


『おいこの変態ギャルエルフ! 俺のラビに何てことしてくれてんだ!』

「あははははwwww!! 『俺のラビ』とか言っちゃって、マジ草生えるんだけど~wwww そんなの冗談に決まってんじゃん! ……一部を除いて、ね?♥」

『一部⁉ 一部は本当だったってことか? どこまでやったんだ? 答えによってはお前を今すぐここで焼き殺すぞ!』

「し、師匠! 落ち着いてくださいっ!」


 激怒する師匠を抑えながら、私は昨日の夜のことを懸命に思い出そうとしたのですが、やっぱり駄目でした……


 こうして、色々と大変ではありましたが、海賊団の一員として認められた私。これから先どんな波乱が待ち受けるのか知らないけれど、強くて有能な船長になるために、これからも師匠にずっと付いて行こうと思います!

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