後編
さらに数日後のこと。
新聞は、首無し事件の結末について報じていた。
なんと真犯人であるルツィ伯爵が自殺したというのだ。
伯爵はみずから頭を拳銃で撃ち抜き、自殺したらしい。
そして、その傍らには今回の事件の顛末が書かれた遺書があったという。
その遺書の中には、ギリスへの謝罪も書かれていた。
ルツィ伯爵がこの事件の真犯人であるのは、ほぼ確定らしい。
捜査当局は、なにしろ真犯人が貴族だったこともあり慎重に捜査をすすめる、とのことだ。
なお、ルツィ伯爵の部屋から首が切り取られた別の死体と、ビリィの頭部が出てきたらしい。
喫茶店【エリュシオン】にて、釈放されたギリスは読んでいた新聞を畳み、テーブルの脇に置いてから、顔を上げた。
テーブル挟んで向かい側には、白雪姫――メアリ・クラリッサ・メイプルが座っている。
その顔は、穏やかに微笑んでいた。
メアリの前には、いつも通りアップルパイと紅茶が置いてある。
ギリスの前には、珈琲とチョコチップクッキーが置いてある。
「一時はどうなることかと思いました」
メアリはゆっくりとそう言葉を紡ぐ。
「でも、よかった。
ギリスさんとこうしてまたお茶が飲めて、嬉しいです」
「……僕もです」
返しつつ、ギリスはチラリと今しがた脇に置いた新聞を見た。
またメアリに視線を戻す。
「どうかされましたか?」
メアリに問われ、ギリスは答える。
「いえ、まさか自分が、こんな推理小説のような事件の当事者になるなんて思っていなくて。
しかも、真犯人が伯爵様だったなんて全くわかりませんでしたし。
なんていうか、まだ夢を見ている気分です」
いきなり殺人犯扱いされたらパニックになって、推理どころではなくなる。
だから、ギリスが犯人について推理できなくても無理は無い。
「……捜査当局、警察の方から聞きました。
メアリさんのおかげで解決した、と。
ありがとうございました」
ギリスは深々と、メアリへ頭を下げた。
メアリは恐縮してしまう。
「そんな、やめてください。
私はただ、こんな形で大切な友人を失いたくなかっただけです」
ギリスは下げていた頭をあげると、気になっていたことを口にした。
「それで、今回の事件はなにがどうなっていたんですか?」
「……聞きたいんですか?」
「当事者ですから」
メアリはしばし考えたあと、話し出した。
「ギリスさんは、あの敷地内自体が巨大な密室だったことには気づいていましたか?」
ギリスは頷いた。
「えぇ、拘置所で気づきました。
敷地の出入口には門番がいて、それ以外は返しのついた塀で囲まれている。
出入口は門番の立っているひとつしかない。
屋敷から庭園に出ることはどこからでもできた。
でもそこから先は、入ることも出ることも難しい。
だから、泥棒が入ってくる余地はなかった。
でも、玄関ホールの武器が盗まれていたことがわかって、泥棒が入り込んだのだと思い込んでしまった」
「えぇ、そうですね。
加えて、ビリィが武器を盗んだ不届き者が敷地内にいるかも、と誘導しましたから」
何から何まで操られていたのだ、とメアリは断言した。
「つまり、綿密に計画されていた、と?」
メアリは確信を持って頷いてみせた。
「そもそもの事件の始まりは、伯爵と雑用係の出会いでした」
「雑用係?今回の犠牲者の??」
「えぇ、雑用係はビリィが根城ごと吹っ飛ばした盗賊団の首領だったんです」
「はい?!」
メアリのセリフにギリスが思わず大きな声を上げた。
「え、ちょ、えええ?!」
「この2人の出会い、それ自体は偶然でした。
でも、その偶然が今回の事件へと繋がるんです。
二人はそれぞれ、ビリィへ恨みを持っていました。
首領は仲間諸共根城を吹っ飛ばされた恨み。
伯爵は家族を殺された恨みです」
「家族って」
「伯爵は今から十四年前に、奥方様とご子息をビリィに殺されています」
「それは、奥様とお子さんが殺された、というのは聞いてます。
なんでも馬車に乗っているところを襲われたとか。
その時の犯人が、ビリィさん??」
「えぇ、お忍びの家族水入らずの旅行でした。
ご子息の一歳の誕生日祝い、そして子育てに奮闘する奥方へのプレゼントでした。
そのため傍付きは必要最低限。
護衛も必要最低限の人数で旅行に行ったそうです。
その帰り道での悲劇でした。
当時、ビリィは冒険者になったものの稼げず落ちぶれ、追い剥ぎまがいのことを繰り返していたらしいです。
人を殺めたのもおそらく、それが初めてではなかったはずです。
運悪く、奥方とご子息はそれに巻き込まれ命を落としてしまった。
伯爵自身も大怪我を負って、何日も昏睡状態が続いたそうです。
ですが、奇跡的にも命を取り留め今に至ります。
そんな残酷なことを平気でする男が、名誉と金のために仲間ごと盗賊を吹き飛ばすなどおそらく容易だったことでしょう。
これは調べてわかったことなんですけど、実はビリィだけが奇跡的に助かった事例というのが他にもあったんです」
つまり、調べなければわからなかったことだ。
「彼は、仕事の礼金を独り占めするためには手段を選ばないタイプだったんです」
気さくな人だと捉えていただけに、ギリスはショックを隠せなかった。
構わず、メアリは話を続ける。
「しかし今回とうとう人の手で罰がくだりました。
事件から遡ること1ヶ月前。
伯爵は行き倒れていたホームレス男性を保護しました。
それが先程も話しましたが、盗賊団の首領でした。
そらからどのようなやり取りが、伯爵と首領のあいだにあったのか、それは定かではありません。
ですが、伯爵が首領を雑用係として雇ったことからみて協力関係にあったことは事実でしょう。
そして、二人には同じ相手を恨んでいた。
利害が一致した二人は、ビリィへ復讐するため計画を立てました。
そして、実行に移したのです。
ですが、首領はひとつ勘違いをしていました」
「勘違い?」
「どのような事でもそうですが。
殆どの人は自分が世界の主人公である、と思い込んでいます。
ここに身分や立場などは入る混むことはありません。
ただ、自分だけが世界の中心であり続けるんです。
それこそ、大多数の人にとってそれは死ぬまで続く思い込みです。
首領は、自分が伯爵の復讐の駒でしかないことに気づいていませんでした。
もしかしたら伯爵を、自分の復讐のための駒としか考えていなかったかも知れません。
しかし、結果は彼もまた駒でしかなかった、ということです」
首領は伯爵によって殺され、この事件に利用されてしまった。
「……メアリさんは、いつ犯人がわかったんですか?」
事件の背景については切り上げて、ギリスは本題に入った。
「内部犯の可能性が高いことは、最初から気づいていました」
「敷地、それ自体が巨大な密室だったからですか?」
「えぇ、それが確信に変わったのは、犯行に使われた凶器について知った時です。
凶器として使用されたのは、玄関ホールに飾られていた武器のひとつでした。
では、それは最初どこに飾られていたか?
ギリスさんは覚えていますか?」
覚えていた。
なにしろ、ギリスは真剣にそれこそ有名な薔薇庭園よりも熱心に、飾られていた武器を鑑賞していたのだから。
「天井近く、結構高い位置に空白があって」
「そうです。
天井近く、ということはとても高い位置に飾られていたということです。
それこそ、梯子か脚立でも持ってこなければ取れない位置だったと推測されます。
普段から屋敷にいる人間でなければ、まず梯子や脚立がどこにあるのかわからないでしょう。
ましてや、ただの泥棒や悪漢だったならそんな位置から武器をわざわざ盗んだりしない。
自前に用意しておくかするはずです」
言われてみればたしかにその通りだった。
「伯爵は前もってその武器を飾られていた場所から下ろしておいた。
高い位置の物を選んだのは、人の視線というのは上にはあまり注意がいかないので、それを考慮してのことだと思います。
これは極端な例ですが、探し物をする時もまず自分の目線よりも下からさがすことが多いですし」
「なるほど」
「そして、その凶器を犯行現場近くに隠して置いたのだろうと思います。
準備は万端整いました。
あとは、頃合いを見計らって犯行を実行するだけとなりました。
でも、ここで計画に狂いが出ました」
「狂い?」
「本来なら、伯爵がギリスさんの役をやるはずだったんです。
武器が無くなっていることに気づけるのは、普段から武器の手入れをしている者くらいです。
それこそ、伯爵本人の口からそれが語られていた、と聞きました」
言われて、ギリスは思い出した。
玄関ホールの武器について話題にした時、伯爵はこういっていたではないか。
――使用人にも触らせていません――
――あの武器の管理は、私だけで行っています――
そう、つまり伯爵しかあの武器に触れなかったのだ。
「己の仕事に含まれないのだから、使用人のほぼ全員が武器に注意を向けることは少なかったでしょう。
ましてや無くなったのは、天井近くにあった武器です。
気づいてる者がいたとしても、それは掃除係のメイドやそういった仕事を任されている下男下女などだったのではないでしょうか。
仮に気づいて、報告したとしても伯爵が、
『あそこには、まだ武器は飾っていない』
と言ってしまえばそれで終わりです」
「で、でも、僕が気づいたのが予想外だったとしても、執事も無くなっていることに同意したんですよ?」
「簡単なことです。
執事も伯爵とグルだったんですよ。
14年前の馬車襲撃事件で、執事もまた生き残っていて、伯爵の復讐へ手を貸していたんです。
それは、忠誠心からだったのか他にも執事なりの考えがあったのかはわかりませんが。
そうでなければ説明出来ないことが、この事件には出てきます」
「説明出来ないこと?」
「えぇ」
メアリは紅茶を一口飲んで、喉を潤わせると続けた。
「玄関ホールに飾られていた武器が無くなっていることに、ギリスさんに気づかれてしまった。
というよりも、薔薇庭園よりも飾られている武器にギリスさんが興味を示していたため、執事は万が一を考えて監視目的で貴方に声をかけたんです。
結果、武器が無くなっていることに気づかれてしまった。
主人に一刻も早く、このことを、武器が無くなっているという事に気づかれた事を報告しようとしたのです。
伯爵はおそらく不測の事態が起きたことを悟ったのでしょう。
すぐに談話室にやってきました。
そして、事情を聞き一芝居打ったのですが、ここでさらにビリィが動きました。
ギリスさん、改めてその時のことを思い出してください。
不思議だと思いませんか?
ビリィは、屋敷の主人である伯爵よりも早く、武器が盗まれていると判断して、さらに女性の招待客達が危険だと飛躍的な考えに至っています。
黒幕の伯爵ですら、最初パフォーマンスとして使用人たちへ武器の事を確認しているのにですよ?」
そこで、メアリは言葉を切りアップルパイへフォークをつきさし、食べ始める。
モグモグ、ごくんと飲み込んでから、
「このことから、ビリィも利用されていたと考えることができます」
「はい?」
「ビリィは首領を追っていた。
捕まえようと考えていた。
伯爵は自分が雇った雑用係が、首領だと知っています。
だから、彼に事前にこのことを話しておいたんですよ。
そう、たとえば、
『今度の晩餐会にビリィ、君を招待する。
その時、この雑用係を引き渡そう。
あとは、君の好きにしたまえ。
そうだな、ウチには評判のいい薔薇庭園がある。
そこは迷路のように入り組んでいるから、薔薇庭園の端っこ、行き止まりの場所で引き渡す。
あとで地図を渡すから頭に叩き込んでおいてくれたまえ。
その時、合図としてこれこれこのように一芝居うつ。
そうしたら、君は指定の場所へ来てくれ。
どうせなら、招待客たちを観客にしてしまおう。
盗みを働いた首領を君が引っ捕らえる、というショーにしてしまうのはどうだろう。
きっと盛り上がること間違いないさ』
そんな上手いことを言って丸め込んだのだと思います」
「……演技、上手ですね」
伯爵が言ったかもしれないセリフが、とても上手かったのでギリスはつい話の腰を折ってしまった。
「あら、そうですか?
ありがとうございます」
メアリは話が中断した事に気を悪くするでもなくはにかんだ。
「続けますね。
その合図、というのが玄関ホールの武器が無くなっていることでの大騒ぎだったんです。
ここでさらに、ビリィは場を盛り上げようとしました。
ギリスさん、貴方を薔薇庭園へ連れ出してしまったんです。
これには伯爵はとても焦ったはずです」
「何故ですか?
犯行を目撃されるかもしれないからですか?」
薔薇庭園で見つかった死体は、ビリィのものだった。
ということは犯行現場は薔薇庭園ということになる。
使用人たちもいたが、彼らは伯爵か執事が指示を出して、全く別のところを探させればいい。
けれど、ギリスはそうはいかなかった。
「それもそうですが。
伯爵にとって、貴方はある意味特別な存在だったんです」
「はい?
特別??
僕が??」
「えぇ。
本来なら、晩餐会に招待されていたのはギリスさんではなく、ギリスさんのお父様だったのでしょう?」
メアリの確認に、ギリスは首肯した。
「そうです。
晩餐会を口実に、王都へ僕に会いに来る予定でした」
「でも、体調不良となり療養が必要となったのでギリスさんが代役で晩餐会に出席した」
体調不良というか、ぎっくり腰である。
医者から絶対安静を言いつけられてしまったのだ。
そのためギリスが晩餐会に出ることになったのである。
晩餐会、3日前のことであった。
「急な変更だったにも関わらず、伯爵はそれを了承した。
そして晩餐時、貴方にだけジュースを振舞った」
「ジュース?」
「えぇ」
「でも、あのジュースは僕がアルコールが苦手なことを伯爵が知っていて、用意してくれただけのもので」
「何故、伯爵は貴方の好みを知っていたんですか?」
問われて、気づく。
そもそもフランバウル男爵家とルツィ伯爵家は、政争諸々の派閥が違う。
敵対していたという事実は無いが、関わりのない家同士であった。
ギリスの父が手紙で、息子がアルコールを飲めないことを伝えたのであろうか?
立場が上のものに?
ありえなくはないが、考えにくかった。
そもそも、ギリスは我慢さえすればアルコールは飲めるのだ。
だから、晩餐会も我慢するつもりであった。
「急なことではありましたが、晩餐会までには三日の猶予がありました。
そして、貴方は王都にいたのです。
食べ物の好みを調べるくらいなら容易だったでしょう。
ギリスさんはミルクが好きですよね。
それと、この店では果物がたっぷり乗ったパフェやプリンアラモードも時々食べていますし」
ギリスは甘党だ。
だから甘い果物は好物だし、それらから作ったジュースも好物である。
「とにかく、伯爵はギリスさんの食べ物の好みを把握していて、わざわざ伯爵領特産の果物を使用したジュースを出してくれたんです。
もう一度言いますがこのジュースは貴方にだけ振る舞われたんです。
奇妙なことだと思いませんか?
この晩餐会の出席者には、貿易商という商人もいたんですよ?
伯爵領の特産品を売り込むチャンスだったのにそれをしていないんです。
これも念の為取引が無かったか調べましたが、そのようなことは無かったです。
ほかにも女優さんもいました。
この方――シシリーさんも果物が好きな人なんですが、彼女を含め他の人には上物の葡萄酒が振る舞われていました」
これは、当日の晩餐メニューを調べたらわかったことであった。
「でも、なんで僕が伯爵にとって特別だっんですか?」
「おそらく、亡くしたご子息と重ねていたんでしょう」
そう、伯爵はあの晩餐会の時こうも言っていたではないか。
――私の息子も生きていれば君とちょうど同い年で、きっと良い友人になったことでしょう――
――今日は息子の分も存分に楽しんでいってくれると嬉しいです――
嘘だらけのこの事件の中で、あの言葉だけでは本物だったのだ。
悪趣味なショーを準備していたけれど、せめて息子と同年代のギリスには心ばかりのもてなしをしていたのだ。
「だから、焦りと迷いが出てしまった」
「迷い?」
「……そんな息子と重ねてしまった貴方をビリィは庭へと連れ出してしまった。
このままでは、心の傷になりかねない残酷な場面を、死体を見てしまう。
もしかしたら殺害現場を見られてしまうかもしれない。
伯爵の中でこの殺害計画の中止は有り得ませんでした。
さっさとビリィを始末して、ギリスさんを執事に保護させなければと考えたのです。
でも、上手くいかなかった。
殺害までは上手くいった。
けれど、その先がうまくいかなかったんです。
貴方はあろうことか、捕まってしまった」
「ち、ちょっと待ってください。
僕が捕まったことは、一旦脇に置くとして、どうやって伯爵はあんなに綺麗にビリィの首を落とすことが出来たんでしょう?
凶器となった武器の手入れをしてたことから、普段から練習くらいはしていそうですけど。
それに首領の死体はいったいいつ屋敷に運び込まれたんですか?
首領はたしかに雑用係でした。
しかし、あの屋敷での雑用係ではなく、伯爵の仕事上での雑用係でした。
だからあの日、首領はあの屋敷にいなかったはずです。
いったいどこから、首領は屋敷に入ったんですか?」
「あぁ、その事ですか。
ここで重要になってくるのは、晩餐会の主催者である伯爵が遅刻してきたことです。
この時、伯爵は大きな荷物とともに帰宅しました。
その荷物の中にあったんですよ、首領の死体が。
おそらく、仕事場で伯爵は首領を殺し、その首を切り取って堂々と玄関から運び込んだんです。
それから身支度を整える振りをして薔薇庭園へ首を置きに行ったか、晩餐会のあと伯爵は仕事を残していると言って一時的に姿を消しました。
もしかしたらこの時に首領の頭を薔薇庭園へ持って行ったのかもしれない。
さて、その後は打ち合わせどおりビリィと落ち合った後、生垣の下に隠すように転がしておいた首領の首を見せたんです。
『ちょっと計画が狂って、私が手を下した。そこにやつの首を切っておいてある、さっさと確認してくれ』
そういって、伯爵はビリィが膝をついて首領の首を確認するのを見計らって
近くに置いておいた凶器を使って、スパッとビリィを亡きものにしたんです。
ビリィの意識は首領の首に向いていたので、気づかれることは無かったと思います」
新聞では、雑用係(首領)の首は事件の翌日に発見されたように書かれていたが、実際はあの夜に見つかっていた。
これは捜査当局が発表する情報を制限していたために起こったことであった。
「伯爵の目的はビリィが殺人を犯して逃げた、と思わせることでした。
だから首領とビリィの頭を切り取ってすげ替えるという今回のトリックを用いたんです。
このトリックを用いれば、犯人は逃走したビリィということになりますから、伯爵には容疑がかからない。
あとは、執事や使用人たちに現場を任せ、伯爵はビリィの頭を持って屋敷に戻る。
使用人たちの意識はこの騒動で薔薇庭園に向いている。
それに伯爵はそもそも屋敷の主ですから、誰にも見つからず自室に向かうことも容易だったはずです。
この時、ビリィの頭部を運んだ時の血の跡が見つかりそうなものですが、見つかっていないので、おそらく防水性の高い袋か何かを用意してはこんだのでしょう。
計画は本当に上手く行きました。
けれど、その結果ギリスさんが捕まってしまった。
本来の計画では、ビリィが単身薔薇庭園に向かう予定だったのだと思います。
そして、伯爵は屋敷の別の出入り口から薔薇庭園へ向かいビリィを殺害し、死体は執事が見つけたということにするつもりだったのでしょう」
「………」
「伯爵に迷いが出た、というのはさっきもお話しました。
その迷いは、本来なら別の場所に捨てられ発見される予定だった首領の死体とビリィの頭部が、ずっと伯爵の部屋にあったことから推測できます。
このままでは無実の少年が死刑台へと送られてしまうかもしれない。
しかも、息子と重ねてしまった少年です。
伯爵にとっての、特別な存在です。
その迷いの答えが」
メアリは脇に置かれた新聞を見た。
「この結果というわけです」
ここまで読んでいただきありがとうございました!