表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能才女は悪女になりたい~義妹の身代わりで嫁いだ令嬢、公爵様の溺愛に気づかない~(WEB版)  作者: 一分咲
二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

92/264

28.ふたりの夜②

「……それはどうした」


 視線の先には猫の形をしたぬいぐるみがある。察したエイヴリルはぬいぐるみを手に取りディランに見せた。


「この通り、猫のぬいぐるみです。以前クリスさんがくださったものでして、王都では子供用のおもちゃとして人気が高いのです」

「……それは知っているが、なぜ持ってきた?」

「? 毎晩一緒に寝ているので、せっかくの旅行ですし一緒にと」

「“毎晩一緒に寝ている”」


 ディランが顔を引き攣らせたが、エイヴリルは気にせずに続ける。


「はい。はじめはベッドが広すぎるのでなんとなく一緒に寝ていましたが、最近ではこの子がいないと落ち着きません。抱き心地もとてもよくて、とても素敵な私の相棒です」

「……それを貸せ」


 若干不満げに手を差し出され、エイヴリルはぬいぐるみを渡す。抱きしめて眠るとちょうどいいサイズのそれは、ディランが抱くと小さく見えた。


「よくお似合いです」


 素直にそう伝えると、ディランは不機嫌そうに立ち上がってベッドにごろりと寝転がる。ぬいぐるみは見事にディランの枕にされてしまった。


(あっ……ぬいぐるみを助けたいところですが……ディラン様はお疲れで眠そうに見えます。今日のところは我慢していただきましょう)


 エイヴリルが相棒の救出をあっさり諦めたところで、ディランは目を瞑り呟く。


「……ベッドが広すぎる、か……」

「はい。公爵家のベッドはふかふかなうえに広すぎます。子供の頃から私は簡素なベッドに一人で眠ることに慣れているので、こんな素敵なベッドに一人でいるのは寂しい感じがして」


「それは……悪女としての誘いなのか、純粋な本心なのか。悪女の方だったらいいと思うのは俺が疲れているせいなのかもしれないな……」

「???」


 突然ちょっと意味がわからない。


「? ディラン様?」


 首を傾げ、聞き返してみたが返事はなかった。


 見ると、数秒前まで話していたはずのディランは眠ってしまっている。


(まぁ。ディラン様は本当にお疲れのようですね。思えば、ここに到着してから休みなく報告を受け面会に応じ、時間があれば私と食事をとってくださいました。久しぶりにお帰りになったことに加え、前公爵様との確執……。当然のことです)


 本当ならば、グレイスを呼んで身支度を整え眠りたいところだったが、ディランがぐっすり眠っているのだからそういうわけにはいかない。


 エイヴリルはクローゼットでこっそり着替えると、シーツをめくりディランの隣に滑り込んだ。一人でないのはいつぶりだろうか。そんなことを思えば、ふと、幼い頃の母親の温もりが蘇った。


(ディラン様は子供の頃からずっとこの大きくてふかふかなベッドに一人きりだったのでしょうか)


 感傷的な気持ちに浸りつつ、少し離れた場所で眠る婚約者の寝顔を見つめていると、エイヴリルの瞼はだんだんと重くなっていく。


(ベッドが広いですから、二人で眠っても問題ありません。おやすみなさい……)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ