26.メイドとしてお目にかかります
「お洗濯物をいただきにまいりました」
ジェセニアが澄ました声をかけた数秒後、現れたのは縦ロールぎみなプラチナブロンドと淡いグリーンの瞳が印象的な令嬢だった。
「ご苦労様です。中へどうぞ」
言葉遣いは丁寧だし柔らかな笑みを浮かべているが、視線がどこか刺々しい。グレイスも同じことを感じたようで、エイヴリルを守るようにスッと自然に立ちはだかった。
(もしかして私の正体がバレているのでしょうか……いえ、そんなはずはありませんね)
「見ない顔ね。あなたは新人なのかしら」
「はい。新人ですので、身の回りのお世話ではなくお洗濯を担当させていただきます」
エイヴリルが名乗らずに上品に微笑めば、テレーザは美しい口元を歪めた。
「私のお部屋には美しいものがたくさんあるのよ。ぜひご覧になっていって」
「ありがとうございます。お心遣いはありがたいですが、今はお洗濯物を集めている最中でして」
「……何それ。あなたは好色家の老いぼれ公爵様の愛人とは話したくないってこと?」
「いえ、決してそのようなことは」
ちょっと面倒な会話になっていた。エイヴリルとしては情報を集めるためにもっと話したいのだが、ジェセニアがものすごく急いでいるのはわかっている。シーツを洗うのなら、日が高いうちに干してしまわないといけない。
ちらりとジェセニアに視線を送ってみる。うんうんうんうん首が取れそうに頷いていた。これは、もう少し話していてもよさそうである。
「上司から許しを得ましたので、お部屋の中を見せていただいてもよろしいでしょうか」
「もちろんですわ。ジュエリーやドレスのほかに、読み物やめずらしいお化粧品もあるの。ぜひご覧になって」
(…………)
さっきまでの値踏みをするような顔が嘘のように明るくなった。その変化に違和感を覚えつつ、エイヴリルはテレーザの部屋の中に案内されたのだった。
その後の洗濯室。シーツをざぶざぶごしごしと洗いながら、ジェセニアが聞いてくる。
「さっき、テレーザ様に何を見せてもらったの?」
「宝石と帽子と靴を。どれも素敵な一級品でした」
「へーえ。あんた、価値がわかるのね? さっすが没落貴族のお嬢様ね」
「……それなりには」
「テレーザ様って大旦那様のお気に入りでたっくさんのプレゼントをもらってるみたいなのよね。清楚でかわいい雰囲気だけど、なんかちょっとほかの方々とは違うっていうか……私たちも扱いにちょっと困ってたのよ? でも怒らせるわけにいかないし」
勢いのいいジェセニアが過剰に思えるほどテレーザに気を遣っていたのは、そういう経緯があったようだ。納得したエイヴリルの脳裏に疑問が浮かぶ。
「なるほど。そんなお方なのに、私にクローゼットを見せてくださったのですね」
「ね、不思議じゃない? なんだか裏がありそう……って、そんなはずないわよね! 貴族のお嬢様同士通じるものがあったのかも!? とにかく、今度からテレーザ様のお部屋の洗濯物回収はあんたに任せるわ! お願いね」
ジェセニアにばしんと背中を叩かれつつ、エイヴリルはグレイスと目配せをしあう。
(ジェセニアさんはこうフォローしてくださっていますが……何か裏があるとは思います)
貴族の屋敷仕えでは、盗みをしたとして使用人が解雇されることは決して少なくない。エイヴリルがいたアリンガム伯爵家だって、試しに雇った使用人に高級な銀食器を持ち逃げされたことがあった。
(万一に備えて、テレーザ様が見せてくださったものには絶対触りませんでしたが……。ですがお話はたくさん聞けましたし、お部屋の様子も観察できました。テレーザ様のお部屋のクローゼットの一番奥の棚は隠し扉になっているようです。しかも塗装の仕上げを見ると最近作り替えられたような感じがします。離れの主人である前公爵様はご存じなのでしょうか)
嫌な考えを振り払うように、今日の任務の成果を反芻する。
(とにかく、今夜ディラン様に全部報告しましょう)
そう思いながらシーツの入った桶に水をざぶんと流し、じゃぶじゃぶすすいでいると、ジェセニアに聞こえないようにグレイスが囁く。
「エイヴリル様、大旦那様をあの二つ名――『好色家の老いぼれ公爵様』でお呼びになるような方が妾として囲われているのはおかしいと思います」
「ええ、その通りですね。テレーザ様は好んで大旦那様の愛人をされているわけではないのでしょう」
(ですが、この違和感は麻薬取引などへの関わりではなくて……もっと違った感情によるもののような……?)





