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無能才女は悪女になりたい~義妹の身代わりで嫁いだ令嬢、公爵様の溺愛に気づかない~(WEB版)  作者: 一分咲
二章

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13.悪女は堂々と名乗ります

「エイヴリル。この紙に書かれているその部屋への行き方をいつの間に解読し暗記したんだ……? しかも、そこを押すと開くことまでわかっていてやったのか」


「ふふふ、実家では無能と言われた私の特技ですね。いくつかの詩の一節を引用したこのメモは普通にも読めますが、引用されている詩はどれも下の句がある珍しいものです。今はゆっくりお話ししている時間がない気がしますが、まだお聞きになりたいですか?」


「いや、いい……」


 わくわくしてつい話しすぎてしまうことがあるのがエイヴリルの悪いところだ。でも、隠し通路を見つけてしまったのだから、好奇心が抑えられない。


 ふふっと笑みを浮かべれば、ディランは呆れたようにため息をつきクリスは噴き出した。


 しかし扉を開けてしまったのだから、行くしかない。


 ディランを先導にして、エイヴリルたちは見知らぬ廊下を前へと進んでいく。窓も明かりもないそこは暗かった。


「このお屋敷を訪問したときからずっと不思議だったのです。こんなに大きくて華やかな外観なのに、内部が随分こぢんまりしているな、って。使用人専用の区域があると仮定してもこんなのおかしいです。今日使われている大広間や表の居室とは別に、もっとたくさんのお部屋があるはずだと」

「それがこの隠し部屋――、隠し棟か」

「はい」


 ディランの表現は正しかった。暗い廊下を抜けた先には、さっき仮面舞踏会や密談が楽しまれていた屋敷一階とほぼ同じ造りの別棟があったのだ。


(さっきまでいたところと全く同じです! ですが、人の気配がありません。それにあまり良くないにおいがします)


 きょろきょろと周囲を見回すエイヴリルの前後でディランとクリスが声をひそめて真剣に話している。


「ここは選ばれた人間だけが招待される場所のようだ。トマス・エッガーも通い詰めて選ばれたが、単身では乗り込めず私たちに託したようだな」

「この辺、なんだか変なにおいがしません?」


(クリスさんが仰る“変なにおい”――ですが)


 エイヴリルには心当たりがあった。


「これは麻薬ではないでしょうか。こんな匂いがすると本で読んだことがあります」

「そのようだな。薄々予想はしていたが、これは本格的にまずい。上に報告して出直す必要がある。今日はここまでにして戻るぞ」


(確かにそうなのですけれど……)


 次に来たときにはもう証拠は残っていないかもしれないのだ。エイヴリルがそう思ったとき。



「――お三方。どちらへおいでですか」



 丁寧だが、有無を言わせない強引な声かけに、エイヴリルはぎくりと肩を震わせる。


 声の主はいつのまにか現れた使用人だった。服装から見て、こちら側へ案内された人間に対応をする執事のようなものなのだろう。


 ディランはさりげなくエイヴリルを後ろに隠してくれた。


「アッシュフィールド卿に案内を受けた。今度の入札で足並みを揃える代わりに、特別な見返りを貰えると」

「かしこまりました。まずは主人に確認してまいります。お名前を」

「……ふん。この場で偽名以外を名乗るとでも?」


 慣れた様子で躱そうとするディランと、表情を変えずに上品な笑みを貼り付けている執事。


(ディラン様なら、私の助けなんてなくても乗り切れるとは思うのですが……)


 どうせ、この執事が主人の元へ向かった瞬間に逃げることになるのだ。それならば、もう少し情報がほしい。


(私は悪女。コリンナのように遊び慣れた、仮面舞踏会なんて慣れっこの悪女……!)


 軽く目を閉じたエイヴリルは自分に暗示をかけた。コリンナ、キャシー、と順番に思い浮かべた後、仕上げになぜかアレクサンドラが思い浮かぶ。未来の王太子妃に自分はなんてことを。申し訳なさを置いておいて、目を開ける。そうして。


「あらあなた。この男はともかくとして、まさか私の名前をご存じないって言うの?」


 目を開いてそう告げれば、執事・ディラン・クリスの全員が固まった。主に、執事とディラン・クリスでは別の意味だが、エイヴリルは気にしない。


「――教えてあげるわ。私の名前は悪女と評判のエイヴリル・アリンガムよ」


「……まさかあの、男から金銭を巻き上げることに長けた田舎町の悪女ですか!? そういえば、今日のパーティーにお越しになっていると噂に」


 チェスの勝負を受けまくったことがここでも役立つとは。感謝しかない。


「そっ……そう。私は、あの田舎町の悪女よ。仮面舞踏会も知らない殿方と踊ることも、行きずりの方とあっ……あああ朝帰りも全部慣れっこなのよ!」


 クリスが無理をするなとでも言いたげにトントントンと肩を叩いてくるし、少し声がうわずってしまったのと同じタイミングで執事の瞬きが幾分増えた気がするが、もう引き下がれなかった。


(ちょっと様子がおかしいと思われている気がしないでもないですが、押し切りましょう……!)


 無我夢中のエイヴリルは、ディランにしなだれかかる。


「この前ね、うちが没落しましてよ。ちょうどいい上客のリストを探しに来ましたの。詳しくお話しすれば、ここの主人も興味を示すお話のはずだわ? すぐに顧客名簿を持ってきなさい」


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― 新着の感想 ―
ち、ちょっとうわずるエイヴリルが可愛い…… そして頑張ってるよね!  頑張れって応援したくなるところがエイヴリルのよいところ! 次回も気になります!
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