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無能才女は悪女になりたい~義妹の身代わりで嫁いだ令嬢、公爵様の溺愛に気づかない~(WEB版)  作者: 一分咲
閑話

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【書籍1巻発売記念SS】夜のライブラリー

 その夜、エイヴリルはディランと二人でライブラリーにいた。


 ライブラリーの一角にあるソファスペースに座ったエイヴリルは、グレイスが淹れてくれたホットミルクを一口飲んでサイドテーブルに置く。


 それからまた手元の本に視線を落とす。すると背もたれにディランの気配を感じて、またすぐに顔を上げた。


「? ディラン様、どうかなさいましたか?」

「いや、さっきから夢中になって何を読んでいるのかと」

「ふふふ、これはですね、キャロル――アリンガム伯爵領に戻った私の侍女、が送ってくれた恋愛小説です」

「へえ」


 ディランが興味を示したので、エイヴリルは本を手渡した。そうして、固い決意を伝える。


「随分、キャロルには鈍いと言われましたから。もう二度とそんなことは言われないよう、しっかり勉強しています」


 どうやら自分は契約結婚を受け入れてから一年近くの間に、ディランの告白を数度聞き流していたらしい。本当に申し訳ないし、もう二度と同じ失敗はしないと誓うところだった。


(この恋愛小説も興味深いタイトルに初めは驚きましたがすごく面白いです。ヒストリカルなラブストーリーは読み応えがありますね)


 しかし、エイヴリルに本を手渡されたディランは固まっている。


「エイヴリル。このタイトル……これはどこまで読んだ?」

「まだ読み始めたばかりです。キャロルからは朝は読むなという言葉が添えてありました。ですから、こうして夜に」

「…………」


 エイヴリルの言葉に、ディランは眉根を寄せてペラペラとページをめくった。そして。


「……これは没収する」

「!? なぜですか!? あっ……そういえば、ディラン様に見つかったら没収されるしクリス様に見つかったら爆笑されるので、隠れて読むようにというメモも添えてあったような?」

「…………キャロルは優秀だったな」


 驚いているエイヴリルを尻目に、ディランは鍵のかかる書庫にその本をしまってしまった。


(あああ! キャロルにもらった貴重な恋愛の指南書が! 確かにタイトルが少し大人向け……のような気はしましたが、私も大人ですし!)


 しかもついこの前まで立派に悪女を務めていた記憶がある。腑に落ちない気持ちでいると、戻ってきたディランがサイドテーブルの上のホットミルクを持ち、エイヴリルに渡してくれた。


 そのまま隣に腰を下ろすと、柔らかく笑う。


「私は、こうして君が隣でホットミルクを飲んでいるだけで幸せだ。だから、無理に頑張らなくたっていい」

(……なんだか……)


 ディランの言葉の優しい響きに、エイヴリルはただ目を瞬くだけだ。


「? どうかしたか?」

「いいえ。ディラン様は、このホットミルクのように甘いなぁと思いまして」


 笑って答えれば、ディランはかなわないというふうに頭を振り微笑む。


「そういうところだ、エイヴリル」


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― 新着の感想 ―
作者どのも、そういうところだ、は気に入って使ってるみたいですね。 物書きなら使ってみたいフレーズとは思います^_^
[一言] 「大人の小説」かぁ… まあ読まなくてよかったと思う。 そしてナチュラルに旦那を煽るし。 天然な嫁でダンナも大変である。
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