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無能才女は悪女になりたい~義妹の身代わりで嫁いだ令嬢、公爵様の溺愛に気づかない~(WEB版)  作者: 一分咲
一章

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54.結婚式①

 月日は経ち、いよいよ今日は結婚式である。


 自室のクローゼット前に飾られたウエディングドレスを見つめて、エイヴリルはほうとため息をついた。


「このドレスは本当に素敵ですね……! さすが、ディラン様が仕立ててくださったドレスですわ」

「エイヴリル様がそうやってドレスを前に頬を染める姿を見るのも、今日が最後かと思うと寂しいですね」


 グレイスの言葉に、エイヴリルはさらに頬を染めた。そうなのだ。このドレスが届いてからというもの、エイヴリルは毎朝着替えながらウエディングドレスの鑑賞を楽しんでいる。


 ドレスやジュエリーにはそこまで興味はないはずだったのだが、このドレスだけはどうしても気になってしまう。ディランが自分のために考えてくれた、世界に一つだけの贈り物だった。


(そ、それに……このドレスをオーダーした日、ディラン様は私のおでこに……おでこに……)


 正確には前髪になのだが、そういったことに免疫のないエイヴリルにとっては同じことである。はっきりと思い出しかけて目を瞬いたところで、グレイスが腰のリボンをきゅっと結び終えた気配がした。


「エイヴリル様。結婚式の会場となる教会へはディラン様とは別々の馬車でまいります。エイヴリル様は一足先に到着し、控室でこのドレスにお召し替えを」

「承知いたしましたわ」


(私たちは契約結婚ですが……。ディラン様はしっかりと求婚してくださいましたし、どこにいても私を婚約者として大切にしてくださいます。こんな毎日が続けばいいのに……と思ってしまうのは、あまりにも贅沢すぎますよね……)


 ランチェスター公爵家に来たばかりの頃のエイヴリルは、悪女として契約をしっかり履行し、満額の慰謝料をもらってお世話になったアリンガム伯爵家の人々を迎えに行き、就職先を手配し、そしてのんびりと自由な人生を送ることしか考えていなかった。


 けれど今は。


(あまり、深く考えるのはやめておきましょう……!)


 前髪を撫でながら、エイヴリルは馬車に乗り込んだのだった。




 グレイスとともに教会近くの控室に到着したエイヴリルは目を瞬いた。そこには、普段あまり自分とは関わろうとしないキャロルがいたからである。


「あら? キャロルは今日のお手伝いをしてくれるのかしら?」

「……はい。今日のお支度は私が承ります。一応、アリンガム伯爵家から来ている者ですから」

「ふふっ、それもそうね。結婚式って、本当は嫁いでから挙げるものではないものね」


 エイヴリルがニコニコと微笑んで同意したので、同行していたグレイスは頭を下げる。


「では、私はここで。お支度が整う頃に呼びにまいります」

「……い、いいえ、それは大丈夫です。エイヴリル様は私がお連れしますから」

「そうですか……?」


 キャロルの返答に不思議そうにするグレイスに、エイヴリルは笑みを深めた。


「大丈夫ですわ。キャロルは私の侍女だもの」




 グレイスがいなくなった控室にはエイヴリルとキャロルの二人きり。グレイスが飾って行ったウエディングドレスを前に、エイヴリルはふわりとした口調で話しかける。


「キャロル。お母様とごきょうだいはお元気かしら?」

「……あなたの調子はずれなところは結婚式の朝でも変わらないのですね。何で今そんなことを」

「顔に書いてあります。早く家に帰りたい、って」

「……!」


 キャロルはびくりと肩を震わせたものの、答えない。けれど、エイヴリルは気にしないで続ける。


「アリンガム伯爵家の状況は聞いています。本格的に立ち行かなくなり、アカデミーから派遣されたシリル様が最も領民に迷惑がかからない形で没落できるように計らっているところだと。……キャロル、あなたにはちゃんとコリンナからお給金が払われているの?」

「……!? そ、そんなことを一体誰が」


「キャロルはアリンガム伯爵家では特別な存在だったものね。コリンナ付きの侍女のあなたは私よりもずっと地位が高かったもの。使用人仲間からそういう情報が行かないのは仕方がないかもしれないわ」


「……ほ、本格的に立ちいかなくなったなんて聞いていないです。もしそんな状況になったら、呼び戻してもらうか別の働き口を紹介してもらえるはずだったのに……! コリンナ様はそんなことは一言も……!」


 俄に慌てだしたキャロルに、エイヴリルはゆっくりと落ち着いた口調で告げる。


「大丈夫。もしキャロルが希望するのなら、ディラン様が働き先を紹介してくださるわ」


 自分ではなくディランの口利きなら契約結婚の期間が終了しても解雇されることはない、と続けようとして、エイヴリルは慌てて口を噤む。


(いけないわ。私たちが契約結婚だということをキャロルは知らないもの)


「……ねえ、キャロル。あなたは今日のことについてコリンナから何と聞いているの? まさか、ここで待っていたのは本当に私のお世話をするためではないのでしょう?」


 くすくすと笑ってみせると、キャロルは観念したように小声で答えた。


「う、ウエディングドレスを奪うと。その他は、控室の人払いをしてエイヴリル様と二人きりで待つようにとだけ命じられました。きっと、ドレスを無くしたエイヴリル様に恥をかかせて溜飲を下げたいんじゃないですか」

「……本当に?」


 あまりにも子どもっぽい狙いに、エイヴリルは目を瞬く。


(……“ドレスを奪う”だけ? 本当に? わざわざ結婚式で仕掛けるのだから、コリンナがそんなに生ぬるいことはしない気がするのだけれど……)


 そのとき、背後の扉が開いた。


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書籍5巻は2025.9.17発売です!
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― 新着の感想 ―
[一言] キャロルがエイヴリル側に寝返らなかった一端は理解できました。これ、伯爵家・公爵家両方の下仕えから情報的にハブられていたということなのでしょうか。  まぁ、それでも公爵家側につく方が、他の仕事…
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