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無能才女は悪女になりたい~義妹の身代わりで嫁いだ令嬢、公爵様の溺愛に気づかない~(WEB版)  作者: 一分咲
一章

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40/263

40.悪女ならこれぐらい普通です

 書類に目を通し終えたエイヴリルは軽く頷く。


「これは、国に納める税に猶予を持たせてほしい、という嘆願書ですね」


「ああ。この国では国と領主、別々に税を納めるだろう? 昨年の不作が響いていて経済は回らず、領民は依然として厳しい状況だ。当然、うちに納める分は減額のうえ猶予したんだが。問題は国相手の方だ」

「なかなかバッサリとお断りをされるのですよね、役人の皆さまは」


 エイヴリルはさっきディランが言っていた“この件に関しては何とかしてやりたいのに策がない”の意味を察した。


(いくらランチェスター公爵家といえど国の決まりごとの範囲内で動くように、と言われてしまったら手助けに限度はありますものね)


「困ったものだ。一時的にうちから資金を貸すプランもあったのだが、様々なしがらみがあって難しくてな」

「この嘆願書の家名は覚えていますわ。数年前に優れた商品を開発して大きな利益を上げた新興の商家ですわね。確かに、肩入れしすぎては公爵家への信頼にも関わります」


 公平って難しいですね、とエイヴリルが肩を落とすと、目を丸くしたディランとクリスがこちらを凝視していることに気が付く。


(ええと……私は何かおかしなことを言ったでしょうか……)


「……エイヴリルは本当に詳しいのだな」

「嗜みの範囲です、悪女ですので」

「さすがだ」


 ディランは感心したように告げてくるが、エイヴリルはどこ吹く風である。


 ここはランチェスター公爵家内だ。しかも書斎には、エイヴリルを悪女として認めているディラン、エイヴリルを悪女として認めているか定かではないが面倒見のいいお守り役のクリス、しかいない。


 無理に悪女として問題を起こす必要はないし、悪女としての振る舞いよりも慰謝料を減額されないことの方が重要である。


(そういえば最近、何の前触れもなく国に納める税に関して例外を認める一文が突然追加されたのですよね。問い合わせを入れようとしたら、アリンガム伯爵……お父様、に面倒はやめてくれと突っぱねられてしまったのだけれど。そのことがここで使えないかしら)


 エイヴリルの脳裏には、アリンガム伯爵家で父親の手伝いをしていた頃のことが思い浮かんでいた。エイヴリルに認められるのは、情報を覚えて優先順位をつけることとルーティンをこなすこと。


 そこにエイヴリルの意思はない。どうしても、というときは意見を添えることもあったが、聞き入れられた例はなかった。


 けれど、ディランはあまりにも自然に意見を求めてくる。


「君はどう思う。この嘆願書は近いうちに送り返すほかないと思っていた。……残念だが」

「ディラン様。この件は、既にランチェスター公爵家内の税や資産の管理を担当されている方に相談はされているのですよね」


「ああ、その通りだ」

「でしたら、例えば……ローレンス殿下などから手を回してもらってもいいのかもしれません」

「……ローレンスに? しかし、さっきも言ったが権力に頼った方法は取れなくてな」


 エイヴリルはため息をつくディランから端の書架へと視線を移す。そこには見慣れた税に関する法律の本があり、それを迷わず手に取った。


「ここを。きちんと例外に関する一文が追加されていますので、贔屓にはなりませんわ。何の知らせもなく追加されたことを知っていて、かつこれを活用しようとする()()()()にしか認められない例外でしょう」

「……随分と小さく書いてあるな。……確認しろ、クリス」


 クリスがはい、と答えてエイヴリルの手から法律書を受け取り部屋を出ていく。書斎にはエイヴリルとディランだけが残る。


「特定の人間を助けたい、他の人間にはなるべく使ってほしくない抜け道だからこのような書き方になったのでしょうね。逆に、ランチェスター公爵家がこの例外を使おうとすれば受け入れざるを得ないかと。一度突っぱねられていても、正式な手続きをもって申請すれば何とかなる気がいたします」


「こんな風に追加されたものをよく知っていたな。一般的には知られていない例外中の例外だ」


 ディランの言葉に、エイヴリルはにっこりと微笑んだ。


「ふふふ。私は、大体のことは覚えてしまう質でして」


「……サロンコンサートの時にも思ったが、ただ物覚えがいいだけで片付けられる話ではないと思うんだが。覚えていたとしても、他のことに気が付けなくては活用できない。そうやって卑下してきたから君は自分のことに疎いのか」

「自分のことに疎い」


 果たしてそうだったのか。目を瞬くエイヴリルに、ディランは申し訳なさそうな顔をする。


「済まない。そういう意味ではないんだ。……エイヴリルは有能な悪女だということが言いたかった」

「有能な、()()……」


 ディランからの言葉を、エイヴリルはじっくりと噛み締める。思ってもみない褒め言葉すぎた。


「あの、私。生きてきて初めて、こんなに褒めていただいた気がします……!」

「悪女、の方に重きを置いていたな、今の言い方だと」

「いえそれに関してはその程度では喜びません。ただの事実ですから」


 エイヴリルが記憶の中のコリンナのように笑ってみせると、ディランは堪えきれないという様子で表情を崩す。


「……それはよかった」


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