18.
貴族サロンは王都のとある屋敷で催されるのだという。場所は三区。貴族のタウンハウスや別邸などがあるエリアで、エイヴリルも知らない場所ではない。
屋敷へ向かう途中、エイヴリルたちを乗せた馬車は大きな橋を渡った。
その橋は、十一区の中の特に娼館街と言われる地域とその他の地域を分けるための橋で、そこを通るには特別な通行証がいるようだった。
娼館自体にも門番がいて勝手に外へ出られないようになっているが、そこを乗り越えたとしても、まさかこんな橋が待っているとは。
(娼館街は本当に一般社会から隔離された場所にあるのですね)
そんなことを考えていると、フレイヤが教えてくれる。
「以前、店を逃げ出してここまで来たことがある子がいたんだけど、結局橋が渡れなくて帰ってきちゃったのよね。そして、脱走すると高額な罰金の上乗せがあるの。そういうのを見ていると勝手に外に出ようなんて思わなくなるのよね」
そんな話を聞きながら馬車で橋を渡る。大きな川は、こちら側とあちら側を明確に隔てているように思えた。
馬車はしばらく走り、とある屋敷の前で止まった。今日の会場はここになるのだろう。
(このお屋敷は訪問したことがないですね。管理状況から推測すると、別邸のようです)
庭は狭く、標準的なタウンハウスといったところだろう。けれど、実は屋敷の周囲には塀とは二重に生垣が巡らされていて、外から中が徹底的に見えなくしているのだとわかる。
以前参加した仮面舞踏会は、商談も多く行われているため、主人が住まう貴族の館を使用されていた。しかし今回は会の趣旨自体が違うのだと、敷地に足を踏み入れたエイヴリルは理解したのだった。
それから案内された控室は広かった。
大きな窓から中庭を望む、瀟洒なインテリアの部屋だ。洗練された家具が置かれ、窓にはレースがたっぷり使用されたカーテンがかかっている。
派遣された女性六人で使ってもまだ余裕があり、コリンナなどは長椅子を一人で占領し、すでにお酒を飲みくつろいでいる。高級ワインを片手に部屋の中の調度品を物色し、ご機嫌だ。
それから、しばらくしてやっとある疑問を持ったようだった。
「ていうかなんで役立たずのエイヴリルがここにいるのよ? ここではシャンパンで稼ぐことはできないわよ?」
「やっと気がついたのね。今回はサービス向上のために協力させていただきます」
「何それ」
「私は公爵家の人間ですので、貴族の方でしたら大体の方のことは記憶しています。お顔がわからなくても、家名がわかればどんな方なのか推測できますので、コリンナの恋人探しにもお役に立てるのではと」
「確かに。あんたってそういうところにしか使い道ないものね」
ふん、と鼻で笑うコリンナだったが、今日は彼女からどんなに役立たずの無能と言われても、ここで引き下がるわけにはいかない。
なぜなら、今日のエイヴリルはコリンナの評判を広め、ディランの耳に入れるためここへ来たのだから。しかし、監視役として同行しているロラが、煙草の煙を吐き出しながら睨みを利かせてくるのだった。
「いいかい。お前はたとえ顔見知りがいたとしても、絶対に名乗るんじゃないよ。名乗りさえしなければ、貴族サロンでの出来事は夢の彼方だ。それがここで遊ぶ者たちのルールだからね」
「――かしこまりました」
従順に返事をしたものの、ロラはまだエイヴリルを信用しきれないらしい。耳元まで近づくと、低い声で凄んでみせる。
「従業員寮で療養しているルイーズ、知っているね? 今日、ここで余計なことをしたら、あの子も今のままでいられるとは思わないことだね」
(……!)
区切りの関係で短くてすみません。
次は1/31更新予定です。





