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無能才女は悪女になりたい~義妹の身代わりで嫁いだ令嬢、公爵様の溺愛に気づかない~(WEB版)  作者: 一分咲
六章

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16.

 それはディランにもわかっていた。恐らく、正式な手続きを踏めば、キトリーを捜査の対象にすることは叶わない。


 だからこそ、彼女を隠されてしまう前に今日この場で問い詰めて吐かせたかったのだ。


 一瞬頭に浮かんだ不都合な事実を無視して強行したかったのだが、フェルナンにあらためて念押しされてしまえば、さすがに認めないわけにいかない。


「……キトリー嬢が関わっている可能性がある以上、彼女が関与している証拠を見つけるのが先だと。そういうことだな?」

「はい。あなたにはランチェスター公爵家という家名のほかにローレンス陛下の後ろ盾がありますが、彼もあいにく王位を交代したばかりだ。貴族の間でもそれぞれ思惑がうごめいていて、確かなものなどない」


 すると、口を出すことなくじっと会話を聞いていたクリスが残念そうに呟く。


「さすがに、何の証拠もなく侯爵令嬢を拷問にかけるようなことはできないですからね。ですが、今日この場でやると言われればお手伝いしますが。どうしますか?」


 非道な言葉の後でニコニコと笑みを浮かべられ、また血が頭に上りかけていたのに気づく。ゆっくりと呼吸をして、息を吐いた。


「……二度も悪かった」

「いいえ。ディラン様が、エイヴリル様のためなら必死になるところ、好きですよ」


 クリスの言葉に、自分はランチェスター公爵家の主人だということを思い出す。領民や使用人たちを飢えさせてはいけない。


(エイヴリルはいつも周囲を一番に考えていたな)


 何とか気持ちを落ち着けたところで、部屋の扉が開いた。


「お取り込み中、失礼いたします」


 廊下を気にしながら部屋に入ってきたのはフェルナンの母でもあるブランドナー侯爵夫人だった。


「何か情報が?」


 問いかけると、彼女は真剣な表情で頷く。


「フェルナンの婚約者、キトリー嬢の様子がおかしいですわね。ご友人に対して嘘を吹聴していますし、先ほど話しかけたら顔を真っ青にしていましたわ」


 普段はおっとりとした夫人だが、今日はいつもと違い鋭い瞳をしている。それから、息子へと問いかけるのだった。


「……あなた、何か知っているわね?」

「……」

「知っているなら話してくれ」


 フェルナンはまだ迷っている様子だったが、ディランからの頼みで折れたようだった。観念したように、前髪をかきあげる。


「実は、十一区の娼館街で妙な噂を聞きました。花街きっての娼館ベル・アムールの新人娼婦が話題になっているそうです」

「!」


 娼婦という言葉に、緊張が走る。けれど、続くフェルナンの言葉にディランは首を傾げることになった。


「彼女は碧い瞳にピンクブロンドの長い髪を持ち、扇情的なドレスに身を包み、あらゆる手管を駆使して、わずかな時間で男たちを虜にするのだとか。昨夜、とある子爵家の三男から莫大な金を巻き上げたそうです」

「……」


 確かに話を聞けば、外見的な特徴はエイヴリルそのままである。が、どうも行動が一致しない。


 まずエイヴリルに扇情的なドレスを着るのは無理だ。ここで全ての結論がつく。


 結論がついたものの一応推察を続けると、以前仮面舞踏会に出席したとき、エイヴリルが必要に迫られてその類のドレスを身につけたことはある。だが、肌が見えすぎないように配慮して何とか辛うじてといったところだった。


 だから、そういう店で働く女性に混じっても目立つほどのドレスを着るのはどう考えても無理だし、何とか頑張って着られたところで、確実に挙動不審になるに違いない。


 加えて、エイヴリルならわずかな時間で男たちを虜にし、莫大な金を巻き上げることはできるかもしれない。だが、もしそんなことがあったらただの事故だ。結果、周囲には微笑ましい雰囲気が満ちていることだろう。


 その過程を『あらゆる手管を駆使した』と評されるのはどう考えても無理に違いないのだ。


(彼女はエイヴリルではなさそうだが……)


 娼館に売られている可能性は低そうでほっとしたが、同時にそれは依然として安否が掴めないということでもあった。今はどんな些細な情報でも欲しい。


「念のために聞くが、彼女の名前は?」

「その日は、絶対に名乗らなかったらしいですよ。こちら側の名前を覚える気もないようで、かなり遊び慣れている印象だったそうです」


 いよいよこれはエイヴリルではないだろう。


(となると、もしあるとしたら、これはエイヴリルではなく義妹の方か?)


 そう思ったところで、フェルナンは一枚の招待状を取り出したのだった。


「これを見たことが?」


 黒い封筒に包まれた黒いカード。金色の縁取りがされたそれは、怪しい雰囲気を放っている。見たことがあるかないかで言えば、あった。苦々しい灰色の記憶が蘇る。


「――時々、前公爵のところに届いていたようだが」


「さすがですね。つまり、そういう招待状ですよ。仮面舞踏会はほぼ誰でも潜り込める構造になっていますが、このパーティーは違う。正真正銘の金持ちが集う『貴族サロン』と呼ばれています」

「ろくでもない会だな」


 ため息をついたものの、訪ねてみる価値があることはよくわかっていた。フェルナンも頷く。


「ディラン殿はお嫌いでしょう。ですが、このサロンには接待係として件の娼館から人気の女性が派遣されてくる。ベル・アムールで莫大な金を巻き上げるレベルの娼婦には滅多に直接お目にかかれないし、訳ありの女性ばかりなので問い合わせても身元はわかりません。だが、ここに行けば確実に会える」


 そう言って、フェルナンはカードを裏返して日付を見せてくる。


 パーティーは、三日後の夜だった。


次話は1/24更新予定です。

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