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無能才女は悪女になりたい~義妹の身代わりで嫁いだ令嬢、公爵様の溺愛に気づかない~(WEB版)  作者: 一分咲
六章

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13.

「キトリー様の婚約者のフェルナン様。出て行かれたきり、お戻りになりませんわね」


 急に呼ばれた、婚約者の家でのお茶会。友人の伯爵令嬢からの問いに、キトリー・ボードレールは可憐な顔に笑みを浮かべた。


「きっとお客様でもいらっしゃっているのではないでしょうか。フェルナン様は侯爵家の跡取りでいらっしゃいますし、広く人気のあるお方ですから」

「まぁ。キトリー様には余裕がありますわね。さすがですわ」

「ふふふ。フェルナン様は素敵な方ですもの。独り占めするのは申し訳なくて」


 そんなふうに答えながらも、友人からの不自然な持ち上げを感じて、キトリーは愛らしい笑みの裏で毒づく。


(あなた、フェルナン様が遊び人だってわかって言っているのでしょう? きっと、このお茶会に参加している誰かと別室に消えたと思っているくせに。性格が悪いわね)


 ボードレール侯爵家の令嬢、キトリーは、ブランドナー侯爵家での茶会に顔を出していた。


 今日は予定になく招かれた会だったので、気軽なものかと思えば、全くそうではない。招待されているのは、一昨日の王城でのローレンス国王夫妻主催の茶会にも招かれていたメンバーがほとんどである。


 今、キトリーの隣でお茶を飲んでいる伯爵令嬢の友人も、あの茶会に参加していた。


(ここへ来て出席者を知ったときは、ランチェスター公がいらっしゃって事情聴取をされるのではと思っていたけれど、取り越し苦労だったみたいね)


 それにしても、こんな規模の会を容易に持ててしまうブランドナー侯爵家は、やはり凄い。とんでもない求心力があると思うし、自分が将来この家を動かしていくことを考えると、不思議な高揚感が迫り上がってくる。


 それを思えば、婚約者の不埒な噂など些細なことだ。


 プライドが高いキトリーは、本当は完璧な婚約者を求めていた。


 有力な家に生まれ、幼い頃からほとんどの人間が自分に傅いてくる。一見常識的で穏やかに見える両親は完璧思考で、キトリー含め子どもたちには一つの失敗も許さないタイプだった。


『家の名前に傷をつけるな』そう言われて育ったキトリーは、完璧であることが当然だ。だから、社交界の華ブランドナー侯爵家の嫡男との婚約が決まった時は、それは安堵したものだ。


(私もボードレール侯爵家も、どちらも完璧でないといけない。婚約者が遊び人だったことは予想外だったけど、それでもブランドナー侯爵家の名を考えればおつりがくるわ)


 一方、キトリーの優越感など知らない友人は、無邪気に突っ込んでくる。


「そういえば、エイヴリル・ランチェスター公爵夫人が行方不明になっている話、お聞きになった?」

「……ええ」


 目を逸らし端的に答えれば、友人は声を潜めて続けた。


「ランチェスター公爵夫人、国王夫妻主催のお茶会の最中にふっと中座して、そのまま戻らなかったんですって。今のフェルナン様みたいに」

「……」


 微笑みつつも、キトリーは心の中でため息をついた。


(こんなふうに面白おかしく話して、馬鹿じゃないのかしら。フェルナン様が彼女のように戻らないはずないじゃない。だって、エイヴリル様の失踪は私が仕組んだものだもの)


 ランチェスター公爵夫人の失踪の話は少しずつ広まって騒ぎになっている。キトリーは完全に知らん顔を貫いているが、その犯人は間違いなく自分だ。


 なぜそんなことをしたのかと問われれば、答えはただひとつ。遊び人の婚約者が本気で心を動かされている相手に腹が立ち、そして危機を感じたからである。


(フェルナン様はこれまでたくさんの浮名を流してこられたわ。その中でも、特に面倒そうな相手に関しては手を回して遊び相手から消えるように仕向けてきた。これは正妻になるものの余裕であり、義務よ)


 その『遊び相手から消えるように仕向けてきた』という方法にはさまざまなものがあった。


 たとえば、偶然を装って彼女と同じお茶会に参加し、裏で凄んでみせて引き下がるのならまだいい。


 それでも二人が別れなければ、令嬢が乗る馬車を脅す程度に襲撃し別れろと迫ったり、それが格下の家の令嬢であれば、彼女の父親のありえない失態を偽装して失脚させ、物理的に別れさせるようなことも仕組んできた。


(もちろん全員に対してそんな面倒なことはしていない。私にとって、これは嫉妬じゃなくストレス解消の遊びの一つだったはずだわ)


 けれど、今回はどうやら様子が違う。


 エイヴリルに惹かれたフェルナンは遊び相手全員に別れを告げ、繋がりを断ち切ったのである。


 キトリーはどういう風の吹き回しか、とエイヴリルのことを調べたのだが、結果は頭を抱えたくなるものだった。フェルナンは本当に本気らしかったのだ。


 しかも、エイヴリル・ランチェスターの公爵夫人としての評判はすこぶる高く、それでいてかつてとんでもない悪女として名を馳せた女でもあるらしい。


 キトリーには、女性には困らないはずのフェルナンが夢中になるのに十分な逸材に思えた。


 加えて、彼女は公爵夫人で人妻ではあるが、悪女なのだ。フェルナンの愛人になって自分の地位を脅かす可能性は否定できないし、正妻に昇格する可能性もあるのではないか。


 現に、歴史を振り返ればそんな例はいくらでもある。そう思えば、焦りは募る。


 焦燥感に駆られたキトリーは、持てる全てを使い、本腰を入れて彼女を排除することにしたのだった。一方、言葉を返さないキトリーを不思議に思ったのか、友人は聞いてくる。


「そういえば、キトリー様はさっきお茶会前にフェルナン様とお話しをされていましたわよね? 少し深刻なご様子に見えましたが、まさか喧嘩でもされたとか?」

「え? 何をおっしゃるの?」


 無意識に厳しい声が出てしまった。


次話は1/14更新予定です。

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