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無能才女は悪女になりたい~義妹の身代わりで嫁いだ令嬢、公爵様の溺愛に気づかない~(WEB版)  作者: 一分咲
一章

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24.悪女ということで問題なさそうです

(なんでなの……!)


 エイヴリルはぱちぱちと目を瞬く。


(ええと、まずディラン様は私が悪女だとは思っていらっしゃらない……そうですね)


 これは、悪女として無事に三年間を過ごしたいエイヴリルにとって由々しき事態である。一体どこが悪女ではなかったというのか。


 今すぐに具体例を挙げて聞きたいところだったが、目の前のディランはそれに付き合ってくれる雰囲気でもなかった。


 エイヴリルの心情は置いてきぼりにして、極めて真面目にシリアスに告げてくる。


「最初から、君の人柄や知性が噂で聞いていたものとかけ離れていることに違和感は持っていた。明らかにおかしかった」

「私の……どの辺がおかしかったのでしょうか……」


(そこを直せば……何とかなるかしら)


 どう考えても何とかはならないのだが、エイヴリルはどうしても無事に三年の契約満了を迎えたうえで離縁されたいのだ。


 不幸なことに、エイヴリルとディランはまだ結婚式すら挙げていないし婚姻誓約書へのサインもこれからだ。


 悪女でないと知られてしまったら「今ならまだ間に合う」と追い出されてしまう可能性は十分にあった。


(でもさっき、ディラン様はこの宮殿で使用人を好きに雇っていいと仰っていたわ。ということは、私が悪女ではないとバレても平気なのかも……しれない……)


 しかし、残念である。エイヴリルも自分なりに努力はしたつもりだった。やっぱりどんなに物覚えが良くても至らないことはある。


 ディランやアレクサンドラが言ってくれた通り、エイヴリルが無能というのはアリンガム伯爵家の価値観に基づいた判断なのだろう。けれど悔しかった。


「完璧な悪女になりたかったのに」

「…………。」


 思ったことをそのまま口にしてしまうのはエイヴリルの悪いくせだった。


 しゅんとして、数秒後。


「すまない。君は悪女だ」

「えっ。悪女で大丈夫でしょうか、私」


 この数秒の間に、ディランに一体何があったというのか。


 エイヴリルは目の前の青年の美しい顔を見つめる。いつも通り整っていて、冗談を言っているようには見えなかった。


「街に買い物に行かせたら、店で一番高いジュエリーを選んだな。さすがだ」

「あっ……そうですね。事故に近いところはあるのですが、一応しっかり見極めましたわ」


(実際には、本で見たことがないからお安いと思ったものの真逆だったのだけれど……。この世界には知らないことがたくさんあるわ)


 褒められて頬を染めていると、ディランはまだ続ける。


「朝食も、こんなに手のかかるメニューを作らせて、非常に優秀だ」

「……はい! 硬いパンを作るのって、なかなか時間がかかると思うのです。」

「カビが生えないように湿度の調節も難しそうだな」

「料理人の方が頑張ってくださっていますわ」


 王都の気候ならキッチンに数日放っておけばいいだけの話なのだが、なぜかディランは褒めてくれた。しかも、このパンはエイヴリルの好物である。


「わざわざ実家から連れてきた侍女のことも遠ざけている。最低で最高だな」

「そうなのです。邪魔なので、母屋の方に行かせて仕事は与えておりません……!」


(そして、こんなところで役に立ってくれるキャロル……!)


 エイヴリルはキャロルとあまり仲良くしていない。けれど今は確実に好きだった。


「君が、悪女だということはよくわかった」

「おわかりいただけて何よりです」


 ディランに絶賛されてほっとしていると、彼はとても落ち着いた声色に戻った。


「同時に、とても優秀な人間だということもわかった」

「……って、あっ、はい?」


 ちょっと待ってほしい。会話の温度差についていけないでいるうちに、ディランは真っ直ぐにエイヴリルを見つめてくる。


「……だから、ここから出て行かないでほしい」


「私が、出て行く……?」

「君を実家に送り返すようなことはしない。何があっても守ると約束する。だから、このままここにいてほしい」


 それは、エイヴリルにとってもこれ以上ない幸せな申し出だった。まだしばらくここで快適な生活を送りつつ、長すぎる余生への支度を整えることができるのだから。


  目の前にいるディランは、エイヴリルの仮の夫となる大人の男性だ。姿も声色も堂々としているのに、なぜか視線だけは縋るようで。


(……もちろん、三年が経つまでは出て行くことなんてしないわ。契約だもの、当然です)


「はい。私は良き妻として、また影の薄い公爵夫人かつ世間から印象最悪の悪女として、精一杯契約を履行いたします」

「…………。」


 契約上の、仮の夫が遠い目をした気がするのはエイヴリルの気のせいだろうか。


「まぁ、いい。私たちは初対面が最悪だった。これから挽回したい」

「……そうでしたか? 私にとってはとても素敵で忘れられません」


 素晴らしい内容の契約結婚を申し入れられて、最高だった記憶しかない。


 首を傾げたエイヴリルに、ディランはふっと優しく微笑んでみせた。




「……そういうところだ、エイヴリル」


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