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無能才女は悪女になりたい~義妹の身代わりで嫁いだ令嬢、公爵様の溺愛に気づかない~(WEB版)  作者: 一分咲
五章

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9.報告と夫婦の甘さと

「……ということがありまして」


 その日の夜。エイヴリルは、夫婦の寝室でディランに今日の出来事を報告した。時計は夜の十時を過ぎたところだ。


 夕方から降り始めた雨が本降りになり、部屋の中には雨音が聞こえてくる。エイヴリルの話を聞きながらカーテンを閉め直したディランは、夜着の首元を緩めて唸った。


「悪かった。そんなことがあったのか。……あいつ……」

「ディラン様が謝ることではありませんわ。それに、一理あるとは思いました」

「だな。それがまた腹立たしい」

「さすが、前公爵様ですよね」


 エイヴリルは、この本邸にある公爵夫妻の寝室に置かれた大きなベッドに座っていた。こちらへ歩み寄ったディランがすぐそばに腰掛け、表情を歪める。


「あいつは、酷い遊び方をしながらでもランチェスター公爵を務めたそれなりに器用な男だ。うちとブランドナー侯爵家が近づくことは悪いことではないが、そのことが方々にどんな影響をもたらすのか、把握しているのだろう」

「ブランドナー侯爵夫妻は、社交界の華ですもの。王族との血族的な繋がりこそないですが、あらゆるお家との繋がりがありますものね」


 それは、家柄が優れているものの、前公爵のせいで評判が落ちているランチェスター公爵家とは真逆の地位にあるようにも思えた。


 二つの家が良好な関係を築くのはいいことなのだが、お互いに足りないところがあったこの二つが手を組むことで、貴族社会の力関係は間違いなく変化するだろう。


(前公爵様は、きっとそこを心配されているのでしょう。ですが、ディラン様だって何も考えずに サミュエルを受け入れることにしたわけではないのです)


 エイヴリルの思考を裏付けるように、ディランはため息を吐く。


「ランチェスター公爵家とブランドナー侯爵家が近づくとなると、警戒する動きが出てくるのは事実だ。だが、現状では近づいたところで目立った利点はないのもすぐにわかるだろう。それよりも、良好な関係が築けるのなら、甘えたいのが本音だ」


「ブランヴィル王国の情勢は極めて安定していますものね。国王陛下の地位は盤石、王太子殿下も人望が厚く、揺らぎません。何より、ディラン様は王太子であるローレンス殿下の腹心として認知されています。前公爵様の助言は心に留めておくべきとは思いますが、現段階では特に気にされる必要はないのではと」


 古く歴史を遡れば、急に力をつけた貴族が王位の簒奪に動いたことはある。


 今だって、一応は派閥が存在している。しかし、次期国王である王太子ローレンスの強権ぶりに反発どころか畏怖の念を抱いているものも少なくないのが現状だ。


 ちなみに、ディランがローレンスに振り回されているところを近くで見慣れつつあるエイヴリルも、同じ感想である。畏怖を通り越して夫が気の毒だ。


 だから、この平和なブランヴィル王国で、ディラン・ランチェスターがそういった類の疑念を向けられる心配はない。言葉にしてそれを示せば、隣のディランがふっと笑ったのがわかる。


「それに、他家から警戒されるのが何だというんだ。そもそも、それ以前にうちの評判を落としたのはあの男自身だぞ? こっちの身にもなれ」


 最後は本心からの言葉になったのがわかって、エイヴリルも笑った。


「ですが、前公爵様、ディラン様のことはきちんと気にかけているのだなと思いました」

「ああ。ありがた迷惑だけどな」


「そうですね。……決めました! こちらに滞在中は書斎に鍵をかけるのはいかがでしょうか。前公爵様には、書類を奪おうとした前科もありますし」


 提案すると、ディランは軽く微笑んでベッドサイドを照らしていたランプの灯りを落とした。


 部屋には、足元を照らす小さな灯りだけになる。


 そうして、エイヴリルの下ろした髪を掬い上げ、そこに口付けた。あまりにも自然な仕草で、エイヴリルの心臓は止まりそうになる。けれど、ただでさえ唐突な行動だったのに、ディランはそこで止まらなかった。


「鍵をかけてしまっては、有能な秘書が入ってこられないな」

「……⁉︎ ディラン様……っ⁉︎」


 驚いて瞬いたエイヴリルだったが、そのまま自然と唇が重なる。予想外の出来事に、全身に緊張が広がった。


(ど……どきどきします……)


 というのには理由がある。


 エイヴリルとディランは正式な夫婦になって半年が経ったものの、結婚した直後にローレンスからの命を受け、隣国クラウトン王国へ行くことになってしまった。


 そのため、その半年間はほぼクラウトン王国で『王太子の愛人な悪女』と『その悪女の数多いる恋人の一人』として過ごしていた。


 だから、一緒に同じベッドで寝る機会はほとんどなかったのだ。


 クラウトン王国から戻った後、アレクサンドラがまた新しいナイトドレスを持ってきて「何だか、あの男のせいでごめんなさいね」とローレンスのことを指して言っていたが、その意味が何となくわかったぐらいだ。


(つまり、私たち、いわゆる夫婦らしいことを何もしたことがないのですよね……)


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