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無能才女は悪女になりたい~義妹の身代わりで嫁いだ令嬢、公爵様の溺愛に気づかない~(WEB版)  作者: 一分咲
四章

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38.結果を知る前に

 試験結果の発表は、そこから七日後だった。


 試験の最終日に声をかけてきた貴族令息が言う通り、王宮の大広間に盛大な式典の準備がされた。


「結果は、書簡が送られてくるか、紙に書いて貼り出されるものとばかり思っていました……!」


 今、エイヴリルの視線は大広間の高い天井から吊り下げられたシャンデリアに釘付けになっている。


(あれは随分高いところにありますが、ぴかぴかです)


「一体どうやってお掃除しているのでしょうか」


 少しでも屋敷での自分の仕事に役立つ知識を増やそうと張り切っているエイヴリルに、クリスが教えてくれる。


「ブランヴィル王国の王宮では、シャンデリアの方を下ろして磨いているのを見たことがありますよ。ここではどうかわかりませんがね」

「はっ……ありがとうございます」


 また、考えていることがそのまま口から出ていたらしい。


(もし首席をいただけた場合、リステアード陛下へ鉱山の再開発についてお願いの後、すぐに帰国する予定になっています。もうすぐこの旅も終わりだと、すっかり油断をしてしまいました)


 本の中でも、旅は家に帰るまでが旅なのだと誰かが言っていた。しっかりしなければいけない、と気を引き締め直す。


 ところで、今日の式典のエスコートはディランが務めてくれている。悪女とその愛人という設定を演じてはいるが、こうして並んで公の場に出るのは久しぶりのこと。開放感も相まって、つい表情が緩んでしまいそうだった。


 もちろん、同じく愛人扱いのクリスもそばにいる。この場にいないグレイスも、エイヴリルをしっかりと飾ってくれた。今日は、どこからどう見ても完璧な悪女のはずだ。


(今日の式典に参加するにあたり、ディラン様から「“特使は三番目の愛人だ”という布石をおいていたことが今になって効いている」と褒められてしまいました。……完全に偶然なのですが、先回りしてくださるディラン様はやっぱりお優しいです)


 幸せに満たされていると、よく通る声が響く。


「――国王陛下、王妹殿下のご入場です」


 大広間に設けられた壇上では、リステアードとエミーリアが入ってくるのが見える。国家試験の結果を発表する式典がいよいよ始まるのだ。


(ついに始まるようです。あとは神様に結果を委ねるしかありません……!)


 二人を会場に集まっている受験者が拍手で迎え、会場内には歓声が満ちていく。それを見つめていると、この滞在中にもクラウトン王国が変わりつつあることを肌で感じた。


(これは、なんだか……)


「三ヶ月前、謁見の間でのあの空気が嘘のようですね」

「ああ。この国はこれからリステアード陛下のもとで変わっていく過渡期の真っ只中にいるのだろう」


 ディランの言葉にしみじみと頷く。


(陛下は、お茶会で異国との交流をよく思わない勢力への懸念を示していらっしゃいました。ですが、私たちが滞在中にも状況は刻一刻と変わっているようです)


 感動に近い、言葉にできない感情が全身を包んでいくようで、とても不思議だった。この国に到着してすぐに呼ばれた謁見の間。


 あのとき、リステアードはローレンスでさえ手を焼くほどの存在にも拘らず、まだ国内には敵が多いことを知った。


 けれど、今日はそんなことはない。エイヴリルたちの滞在の間にも貴族たちからの支持や後ろ盾を得て、この国はどんどん変わっていくのだろう。


 確かに、最近の異国との関わりを拒絶して観光業を衰退させ、過去の歴史だけを大切にしていくあり方は、クラウトン王国の独立性をより強固にしていくものではあったのかもしれない。


 けれど、その政策は長い期間にわたり、貧しい子どもたちを増やしてきた。貧しい子どもが安心して暮らせるようにしたいと語っていた、リンの笑顔が思い浮かぶ。


(リンさんの願いが叶う日は近いかもしれないですね。リンさんが試験に首席で合格するのとどちらが先でしょうか……!)


 目を輝かせるエイヴリルの前、合格者の名前の読み上げが始まった。




 三年に一度の国家試験の合格者は、毎回百人ほどに調整されているのだという。予備試験の受験者数から考えると、合格率は五パーセントに満たない。とても狭き門だ。


 合格者の名前は受験番号順で読み上げられていき、最後に三席、次席、首席と発表される。


 一人、名前が読み上げられるたびにあちこちで歓声が湧き上がる。その中には、番号が飛ばされたことで自分の不合格を知った受験者の悲鳴も交じっていた。


 聞きながら、お腹の辺りがギュッと痛くなる。


(私は……こんな邪な目的のために受験するべきではなかったのかもしれません)


 エイヴリルの隣では、ディランがこちらを見つめている。大丈夫だと言われているようで、萎みかけた気持ちに光が灯った気分だった。


(ここまで来たのだから、もう前を向くしかありませんね)


 そうして、淡々と受験番号と名前が読み上げられていく中、ふと規則的に大広間の中に響いていた声が止まる。


「……今回は異国からの受験者がおりました。現在の我が国の方針とは違いますが、優秀な人間は出自に関わらず登用するという歴史に倣い、受験を認めております。またその者の合格に伴い、合格者数を増やしました。つまり、その者が合格したことで不合格になった受験者はおりません」


「!」


 誰のことなのか理解した次の瞬間、名前が呼ばれた。


「エイヴリル・アリンガム」


今日でWEB版無能才女200話めです!(わー!)

目次3ページ目に突入するのがはじめてで感慨深いです。

2022年4月の連載開始から今まで、本作を応援してくださる皆様に心からお礼を申し上げます。


1/17に発売する書籍4巻の帯付き書影があちこちで出てきているのですが、なんと【シリーズ累計35万部突破】の文字を入れていただいています。

感謝と驚きで、はじめて見せていただいたときひっくり返りました。本当にありがとうございます!


まだまだエイヴリルとディランのお話をお届けできたらいいなと思っておりますので、これからもお話にお付き合いと応援をいただけるとうれしいです。


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