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無能才女は悪女になりたい~義妹の身代わりで嫁いだ令嬢、公爵様の溺愛に気づかない~(WEB版)  作者: 一分咲
四章

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34.試験のあとで①

更新予約を忘れていましたすみません!

 何事かは、あった。


 三日間の試験を終えたエイヴリルの手には、たくさんの手紙とメモと招待状が握らされていた。それを落とさないように、そろそろと最終試験が終わったばかりの会場から出る。


 今日は風が強くない。よかった。


「エ、エイヴリル様⁉︎」


 外で待っていてくれたグレイスが、エイヴリルの姿に驚いて走り寄ってくる。三日ぶりに会うグレイスの顔を見て、ほっとした。


「お迎えに来てくださったのですね! ありがとうございます」

「あの、それは何でしょうか?」


 怪訝そうなグレイスに、にっこりと答える。


「いろいろな招待状です。試験が終わったら遊びに来てほしいとお手紙をいただいてしまいまして」

「⁉︎」


 何を想像したのか、グレイスがギョッとした顔をした。すると、試験で顔見知りになった貴族令息が、少し離れた場所から声をかけてくる。


「エイヴリル嬢。試験結果発表の折にはぜひダンスを申し込ませていただけますか」

「まぁ?」

「試験結果の発表と任官の式典はそれぞれ別々にありますから。伝統でそのときに舞踏会が行われるのですが、悪女のあなたとぜひ踊ってみたい」

「あら、できませんわ。私は悪女ですから。き、気軽には踊りませんの」


 自分では爽やかだと思える笑みを返せば、令息はなぜかあははと声高らかに笑い、ひらひらと手を振って去っていく。友人との気さくな別れ。エイヴリルはアカデミーや学校の類に通ったことはないが、こんな感じなのだろうか。


(悪女としての受験でしたが、知らない世界、とっても楽しかったです。良い経験になりました)


 満足感いっぱいに浸っていると、視線を感じた。振り返ると、グレイスの背後からクリスが顔を出す。


「今のは何でしょうね? 三日間の出来事を詳しくお話しいただいてもよろしいですか。主人に報告しないといけませんから」


 ニコニコと笑って聞いてくるクリスの表情は、言葉以上に興味津々で、なんだか楽しそうだった。




 一度はクリスに報告したものの、途中で「詳しい報告はディラン様がいらっしゃるところでもう一度お願いしてもいいでしょうか」と言われてしまった。


 理由を聞いたものの「深い意味はありません。ただ、私の身の安全の問題です」としか教えてくれない。隣のグレイスも困ったように頷くばかり。


 ということで、試験が終わったその日の夜。エイヴリルは試験について報告するため、ディランの部屋へやって来ていた。


 夜半を回った部屋には、エイヴリルとディラン。それぞれの背後にクリスとグレイスが控えている形だ。


(これは、やってしまったかもしれません……!)


 人間関係に関する自分の鈍さはそれなりに認めるところではある。しかし、今日、ちょっとピリピリした空気が漂っている理由は試験期間中のどの振る舞いについてなのか。


(とにかく話せばわかるはずです)


 そう結論づけ、エイヴリルは報告を始める。


「今回の試験は三日間。講堂がある棟からずっと出られない状態で、隣接する宿泊施設に泊まり込みながら行われました」

「話で聞いていた通りだな」


「はい、試験の内容も、出題形式も傾向も聞いていた通りです。一日目と二日目には筆記試験、最終日の今日は口頭試問です」

「それで、どうしてこんなことに?」


 ディランの視線の先には、たくさんの手紙がある。なるほど、疑問はそのことのようだ。


「長くなるので詳細は割愛しますが……試験日程が進むごとにいろいろと不思議なことがおきまして」

「不思議なこと?」


「はい。まず、初日に万年筆が書けなくなってしまった方がいらっしゃいまして。チラリと見たところ、お手入れが不十分で文字が書けなくなってしまったようですので、そのペンを取り上げました」

「取り上げ……?」


 ディランが顔を引き攣らせ、一方で背後のクリスが笑いを堪えているのが見えた。けれど、この場面ではしっかり悪女として振る舞えたと言う自負があるエイヴリルは、胸を張って続けた。


「はい。『その万年筆、高そうだからください』と悪女らしくペンを取り上げて、私のものと交換いたしました」

「……」


 遠い目をしているディランの前、エイヴリルは意気揚々と続ける。


「その後、私はその万年筆を修理して次の試験の時に持っていき『飽きたから返しますわ』と投げつけようとしたのですが」

「が?」

「どう見ても大切にされてきたその万年筆を投げつけられず手渡ししたところ、なぜかその方と仲良くなりまして」

「エイヴリル、今何かとても重要なことを『手渡しした』で省略しただろう?」


 ディランの訝しげな視線に、思わずそっと目を逸らす。先にこの話を聞いて結末を知っているクリスはなぜか微笑んでいる。そんな余裕があるのなら、ぜひ助けてほしかった。


 しかし、助けてくれないのだからしかたがない。クリスはどこまでもディランの味方なのだ。


「手渡しするついでに、手入れの仕方をお教えしました。……初期型のとても古い万年筆で、正式な手入れの仕方がわからずにそのまま使っていたところ、インクが詰まって壊れてしまったようでしたので」

「なるほど。そもそも、なぜエイヴリルには古い万年筆の手入れ方法がわかったんだ?」


「お父様の筆記具の手入れは私の仕事でしたのと、以前読んだ物語で古い万年筆の手入れシーンが出てきたのを覚えていました。そのご令息には、復習できるように物語のタイトルもお伝えしておきました」

「納得した」


 ディランは魂が抜けたような顔をしている。


次話は1/9の20時更新予定です。(ちゃんと予約しました!)

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