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無能才女は悪女になりたい~義妹の身代わりで嫁いだ令嬢、公爵様の溺愛に気づかない~(WEB版)  作者: 一分咲
四章

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32.国家試験のはじまり①

 それから二ヶ月。いよいよ、国家試験が行われることになった。


 この二ヶ月の間には本当にいろいろなことがあった。エイヴリルは毎日のようにエミーリアに呼ばれたし、その合間を縫って必死に勉強した。


 視察のためにグリニー山脈の麓に広がる別荘地にも行った。そこで休憩をしようとカフェに入ったら、店主の若い男がエイヴリルの顔を見るなり店の奥へ逃げ込んだきり、もう二度と出てこなかった。


 地元の客に聞くと、彼は三年ほど前まで王都の大きな商会の御曹司だったらしい。けれど、あるとき突然数日で資金のほとんどを溶かしてしまったとかで、家を勘当されたそうだ。


 それ以来、この別荘地で細々とカフェを営んでいるのだとか。なんとなく察して申し訳なくなった。


 また、グリニー山脈の帰りに立ち寄った村では、リンぐらいの年齢の女の子に『男の人に貢がせる方法』を聞かれた。


 なんでも、この村ではピンクブロンドの女性を見かけたら、貢がせ方を教われという言い伝えがあるらしい。もちろん、三年前あたりからというものすごく最近の言い伝えだ。


 なるほど……! と張り切ったエイヴリルはより確実な貢がせ方として得意の掃除を教えた。女の子たちは皆掃除が得意になり、皆、父親からお小遣いがもらえた。感謝された。


(いろいろなことがありましたね。あっという間の二ヶ月間でした)


 山あり谷ありでたどり着いた試験日。


 試験会場は、王宮の敷地内に設けられた大きな講堂。そこに、クラウトン王国中から我こそはという野心家たちが集まっている。


 今日はとても風が強い。受付を待つ受験者たちも、持ち物が風で飛ばされたりして大変そうだった。


「わぁ。ざっと一千人はいらっしゃるでしょうか。すごい眺めです」


 講堂から少し離れた場所でエイヴリルは嘆息した。


 離れた場所にいるのは、国家試験を受けないことになったとかそういうことではない。あまりにも人数が多すぎて、自分に割り当てられた受付時間までは会場に近づけないのだ。


「エイヴリルの受験番号だと、受付が始まるのは十五分後か」

「はい。予備試験で相当受験者数を絞っていると予想したのですが、大きな勘違いでした。本試験に進める人がこんなにいるのですね」


 ディランの問いに頷きながら、緊張が少しずつ高まっていくのを感じる。


 エイヴリルはこの試験の前に予備試験と呼ばれるものを受けていた。国家試験は、国中から受験者が集まる三年に一度の大変に大きな試験だ。


 本試験だけを行った場合、収拾がつかないことになる可能性があることから、このような制度になっているらしい。


(ブランヴィル王国から使節団が到着したのは、試験の願書提出にぎりぎり間に合うタイミングでした。やはり、偶然ではないですね)


 ディランははっきりとは言わないが、エイヴリルはこれがローレンスからの依頼に含まれることは理解していた。ならば、悪女としての矜持をかけてでも首席で合格する必要があるだろう。


 拳を握り、張り切るエイヴリルを見て、ディランは優しい視線を向けてくる。


「あまり思い詰めなくていい。これは、悪女任務のオプションだ」

「悪女任務のオプション……」

「そうだ。こんな短期間で本試験に進めたことがすごいな」


 ディランが褒め上手すぎる。加えて、この受験を手放しで賛成しているわけではないだろうに、決して顔に出さないところもありがたかった。


(そして、ディラン様の言う通り、私は悪女です)


 ということで、異国の悪女が試験を受けることができるだけ話題にならないよう、予備試験は合格ぎりぎりの点数が取れるように調整し、こっそり通過した。


 それでも王宮内ではそれなりに噂になっているようで、ざわざわとした周囲からはこちらを窺うような視線も感じられる。


(この視線はどうしようもありませんね。悪女なのに国家試験受験、の矛盾が広まりきる前に試験が終わることを祈るばかりです)


 そんなことを考えていたところで、声をかけられた。


「エイヴリル様。またお会いできて光栄ですわ」

「ジャンヌ様!」


 声をかけてきたのは、以前図書館で会った令嬢だった。


「この前のお方、大丈夫だったのでしょうか?」


「は、はい。エミーリア殿下の家庭教師をされているお方のようで、殿下から大事ないと伺いました」


 ぎくりとしたものの、悟られないように笑顔で応じる。


 ジャンヌに会うのは、図書館でディランの母が倒れたあの日以来だ。任務にあたってわりと距離を置きたい宰相の娘に出会ってしまったエイヴリルは、あの日以来図書館に近寄っていない。


 なお、試験勉強に必要な教材や資料はすべてエミーリアが準備してくれた。


 ちなみに、あの日のことはディランにもきちんと話してある。舞い上がった白いカーテンを見て母が発作のようなものを起こしたことを知り、とても心配していたようだった。


(ディラン様はそれを思い出して不安にはなっていないでしょうか)


 ジャンヌの問いに応じつつディランの顔色を伺ってみると、落ち着いて振る舞っている。どうやら、いちいち言葉や表情に出してしまうのは自分だけのようだ。


(それはそうですね。だって、ディラン様ですもの)


 とにかく、ジャンヌが宰相の娘だと知った今は、しっかり悪女を演じないといけない。気合を入れたところで、先制パンチをお見舞いされた。


「よかったですわ。エイヴリル様ともあれ以来お会いできず残念でしたが、今日は絶対にお目にかかれると思っていましたの」

「⁉︎」


 ジャンヌが鋭すぎる。会えなかったのは、避けていたからで、完全にその通りなのだ。


 せめて思っていることが口から出ないように唇をしっかりと引き結ぶ。しかし、防戦だけではだめだ。


 何とか悪女としてこの場をさらっと乗り切らないといけない。ということで、心の中にコリンナを降ろすことにした。


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