12.王妹エミーリアからの招待
更新遅くなりましたすみません……!
翌日。クラウトン王国滞在の二日目に、エイヴリルは気後れする招待を受けていた。
朝食を終えてすぐに呼ばれた場所は、王宮内でも特に奥まった場所。そこでは、宝石、ドレス、絵画、彫刻、あるいは美術品の数々が部屋中に飾られている。
(あちらに飾られたドレスに使われているレースを見たことがあります。確か、海の向こうの大国で編まれるもので特に高価なはずです。テーブルの上に並んだネックレスや指輪も、そのまま置きっぱなしになっているのが信じられないほどのものです。なぜこのような部屋に呼ばれたのでしょうか……?)
心底わからなくて顔を引き攣らせると、付き添いで来たクリスが後ろから助言をくれた。
「こちらは、王妹のエミーリア殿下の私室のようです。悪女の準備をお願いします」
「承知しました」
なるほど、これは気を引き締めてかからねばなるまい。同時にあることを思い出す。
(そういえば、私は昨日、謁見の間でエミーリア様のご挨拶を邪魔しましたね……! エミーリア様の順番を奪って、好き勝手に話し始めるというとんでもないマナー違反を。でも、悪女なのですから仕方がない気はします)
きっと、これはそれを咎める場なのだろう。だが、淑女としてありえない振る舞いをしてしまったことは申し訳ないが、アレクサンドラが考えてくれた設定の中では自然な行動だ。
しかも、ありがたいことに国王リステアードは怒らなかった。だから『何とかなった』と思っていたのだが、実際には全然何とかなっていなかったようである。
(とにかく、エミーリア殿下がいらっしゃったら、すぐに謝罪をしましょう)
コリンナが不貞腐れている表情を思い出し、悪女っぽく謝るイメージトレーニングをしたところで、奥の部屋の扉が開いた。
「お待たせしてごめんなさい」
顔を出したのは、昨日、謁見の間で咳き込んでいたエミーリアである。
エミーリアは、国王リステアードとは十歳近く年が離れていそうなまだ十代の少女だ。綺麗に巻かれた黒髪をなびかせて歩く姿は、人形のように愛らしく美しい。
けれど、こちらに歩いてくる彼女の面持ちは少し緊張しているように見える。昨日の途中退出の件と合わせて考えると、体調が悪いのにこんな悪女の前に出なければいけないのだからそれはそうだろう。
むしろ、王妹として、異国からやってきた悪女にきちんと説教をしようという姿勢が素晴らしすぎる。王族の鑑だ。
(エミーリア殿下の、悪女をこらしめようというという勇気に敬意を表して、どんな批判も甘んじて受け入れましょう。だって、昨日のことは私が悪女としてやったことですもの)
エイヴリルが覚悟を決めてエミーリアに向き合うと、彼女の燃えるような赤い瞳は不可思議な色に変わった。
「悪女エイヴリル様……!」
背後からクリスが噴き出す声がした気がする。
「はっ、はい?」
すっかり厳しいお叱りを受けるつもりでいたエイヴリルは、間の抜けた声を出した。
そして、どういうことなのかついさっきまで凛とした佇まいをしていたはずのエミーリアが目の前で床に崩れ落ちている。白くて華奢な手が床につき、起き上がることができない。
つい数秒前までそこに立っていたはずなのに、瞬きをしている間に一体何が起きたというのだろうか。
「エミーリア殿下。どうなさったのですか⁉︎ あっ、もしかしてまだ体調が優れないのですね⁉︎ お待ちくださいませ、すぐに人を呼びますから!」
慌てて部屋を出ようとすると、片手をがしっと掴まれた。振り返ると、エイヴリルの手を掴むのは、具合が悪そうなエミーリア本人だった。
「これが……悪女エイヴリル様……!」
エミーリアは、床に座り込んだまま人目を憚ることなく号泣している。そこには、王族の鑑はいない。
(⁉︎ 一体どういうことでしょうか?)
全く状況が掴めないエイヴリルは周囲を見回してみる。すると、部屋の奥にエミーリアの侍女らしき女性がいることに気がついた。これは、助けてもらわないといけない。
「あの、恐れ入ります! エミーリア殿下は体調が優れずに立ち上がれないようです。手を貸していただけませんか⁉︎」
「……」
上品な笑顔で首を横に振られてしまった。優しく見守るスタンスらしい。どういうことだ。仕方がないので、クリスに助けを求めることにする。
「クリスさん、エミーリア殿下のご様子が」
「エイヴリル様、エミーリア殿下をソファにお連れするのをお手伝いしましょう。何か、面白い……ではなく、特別な事情がありそうですよ」
(特別な事情?)
あっちもこっちも全然助けてくれない。
悪女に冷たいのは仕方がないが、まさか頼りのクリスにも見放されてしまうとは。困って首を傾げたところで、地面に這いつくばりそうなエミーリアから弱々しい声がした。
「どうか、人は呼ばないでください……だって、そんなことをしたら医務室行きでエイヴリル様との時間がなくなってしまいますもの……!」
「……ん?」
どう考えても聞き間違いとしか思えない言葉の羅列に、エイヴリルは困惑を極めるのだった。
(あの……まず……私との時間、って何のことでしょうか?)





