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無能才女は悪女になりたい~義妹の身代わりで嫁いだ令嬢、公爵様の溺愛に気づかない~(WEB版)  作者: 一分咲
四章

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7.悪女の価値観

 謁見の間までは、長い長い廊下と回廊を歩くことになった。知っているものとは違う城の造りに、エイヴリルは興味津々だ。


「子どもの頃に本で読んだ通りです! わざと通路が狭くしてあるほか、曲がり角や階段がたくさんある造りは、クラウトン王国の歴史に即しています。見てください! あの絵は、かの……」

「さすが、エイヴリル様は高価な品に目がない。ローレンス殿下へのおねだりで手に入れるコレクションに加えたい品はございましたか」


 うっかり悪女らしくない喋り方でヒートアップしてしまったのを、ディランがよそ行きの笑顔でサポートしてくれた。


(そ、そうでした……!)


 早速、悪女を忘れていた。


 そして、考えたことがそのまま口に出ることがあるのはエイヴリルの悪いくせなのだ。直そうと思っても、なかなか直らない。


 廊下の突き当たりに見えた、書物で見たことがある有名な絵画とそれにまつわる歴史のエピソードについて語ろうとしていたエイヴリルは、慌てて路線を悪女に変更する。


「! そっ……そうね。あの絵画は珍しいものですし、た、高そうだわ」


 そう言いながら、悪女への行動と紐つける要素を探すため、継母との思い出に思いを馳せる。


 かつて継母は、有名な絵画を集めていた。あちこちの画廊から絵を買い集め、オークションに出向き、とんでもなく散財していたことが懐かしい。


 その頃の継母の口癖は『高そうだわ』『高ければ高いほどいい』だった。


 あるとき、使用人仲間でありエイヴリルの友人でもあるキーラがその中の一つに傷をつけてしまったことがあった。職人に修理を頼んだものの、修理が終わるまで、廊下にぽっかりと開いてしまったその場所をどうするのか。


 使用人への当たりがキツい継母がキーラのミスを許すはずかない。当然父親が庇ってくれるはずもなく、エイヴリルたちは窮地に立たされ、悩み考えた。その結論は。


 ――自分たちで描くしかない、だった。


 ということで、見よう見まねで描いた絵を同じ場所に飾ってみたのだが、びっくりなことに、バレなかった。それどころか、継母はふと目に留まったその絵を見て『やっぱり高そうでいい絵よね、これ』と賛美したのだ。


 あれは本当にびっくりだった。


 その経験から、エイヴリルはあることを学んでいた。


(おそらく、悪女なら、絵画を鑑賞するよりも価値を他人に認めさせることのほうに重きを置くでしょう。つまり、ここは何を見ても『高そう』を連呼しておけば問題ありません)


 自分の振る舞いを確認すると、ディランが複雑そうな微笑みを向けてくる。これは安堵の笑み、で大丈夫なのだろうか。正解はわからないが、控えの間から謁見の間までのわずかな間に、もうディランを心配させていたことは確かなようだ。


 けれど、アレクサンドラが考えた悪女エイヴリルの設定と、悪女のお手本コリンナが脳内にあれば大丈夫。心配しないでほしい。


「お連れの方は、価値のある芸術品がお好きなようですね」


 重鎮にしか見えない文官が聞いてきたので、エイヴリルは悪女の微笑みを浮かべる。


「ええ、高そうなものが好きですの。高いものなら、何でも好きです」

「……なるほど。でしたら、この王城内には我が国の高価な美術品がたくさん飾られています。どうぞご覧になってください」

「お心遣い、痛み入ります」


 自分に言い聞かせるためにもしっかり繰り返したので、きちんと伝わったようだ。


 ありがたい言葉までもらってしまったので、自然な流れで丁寧に淑女の礼をした。その瞬間、重鎮にしか見えない文官はなぜか目を瞠る。


 同時に、ディランのコホンという咳払いが聞こえた。悪女としていい感じに振る舞っているはずなのになぜなのか。


「?」


 見ると、ディランは少し頬が赤くなっているようだ。けれど、そんなことは微塵も感じさせない口調で話す。


「こちらの女性の言葉はそのまま受け取らない方がいいと忠告しておく。私も手を焼いている」


 反射的に申し訳ありませんと答えようとして、エイヴリルはぐっと唇を噛んだ。危ない。


(いけません。ディラン様は、私が悪女だと思って振る舞っていらっしゃるんだもの。悪女なら、ここで謝るのはおかしいです)


 エイヴリルは、コリンナが謝っている姿を見た記憶がない。つまり、悪女は謝ってはいけないのだ。すると、文官はなぜか待っていましたとばかりに水を向けてくる。


「そちらのお連れの方は、ブランウィル王国のローレンス殿下のご友人と聞いておりますが」

「内密に。本来、彼女は使節団の一員ではない。彼女は自分の個人的な希望のため、ローレンス殿下ただおひとりの許可を得て来ている」


「なるほど。つまり、バカンスのためですか。我が国はバカンスに最適な場所ですから」

「そのようなものだ」


 ディランと会話を進める文官は、話している内容こそ好意的に思えるが、表情も声色もどこか固い。おそらく、エイヴリルをきちんと悪女として認識しているのだろう。エイヴリルをちらりと見て、直接告げてくる。


「バカンスを過ごすのに必要なものがありましたら、どんなことでもお申し付けください。できる限り準備させていただきます」


(どうしてそんなことを……? 王城内で視界に入ったものを見境なくほしがるなんて、本物の悪女みたいです)


 思わぬナイスアシストだが、急に悪女に必要なものと言われても、エイヴリルには何も思いつかない。ということで、にっこりと微笑む。


「ありがとう。何か高そうなものを思いついたら、お願いしますわ」


 文官が極めて不審そうな顔をし、ディランが目を泳がせたのは、悪女に困惑しているからだと思った。




 ちなみに今のところ、エイヴリルが高そうなものを思いつく気配は、ない。




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