26.悪女の噂に驚きました
老婆やキャシーたちとの会話を終えたエイヴリルは、あらためて周囲を確認する。
だだっ広いこの倉庫のような部屋には窓がない。時計があるので時間は把握できるが、閉塞感で息苦しくなりそうだ。現に、数人の女性たちは何度も過呼吸のような症状を起こしていた。
入り口は二つ。さっき、エイヴリルとリンが入ってきた小さな鉄の扉と老婆が座っている長椅子の真後ろにある扉だ。小さな扉の方には屈強な女性が二人、武器を持って座っているが、老婆の後ろの扉の前には誰もいない。
けれど、部屋の四隅に見張り役の悪女がいる。キャシーもその中の一人だった。エイヴリルが戸惑っているのかと思ったのか、教えてくれる。
「ああ、ここには殿方がいなくてごめんなさいね? あなたにとっては退屈でしょう? 私たちはね、商品の価値を最大限に高めるために管理する人間をみんな女性にしているの。だから、傷物を好まない潔癖な変態貴族だって私たちから奴隷を買うのよ」
「へ……へんたい」
(きっと古くからある犯罪集団なのでしょうね、だからこそ、こんなに堂々と組織的な犯行を)
キャシーの言葉に、捕らえられている女性たちの数人が泣き出した。自分たちの行く末を理解していても、あらためて聞かされると怖いのだろう。クラリッサも目を潤ませ、言葉がわからないリンだけがきょろきょろとしている。
『なんかバーバラってあの人たちに一目置かれてない? なんで? いいとこの人じゃないの?』
『あっ、私の本当の名前はエイヴリルというのです。嘘をついてごめんなさい』
『そうなの? ……あれ、エイヴリル、って聞いたことある気がするよ』
『えっ?』
リンの言葉に目を瞬くと、まさかの言葉を告げられた。
『なんだったかなぁ。この国に旅行に行った人が、そういう名前のすごい悪女に貢いで捨てられたんだって。見事に身ぐるみ剥がされたらしいよ。別に無理に貢がされたわけじゃなくて、気がついたら裸でベッドに寝てたんだって』
『…………』
確かに、コリンナはそういうとこある気がする。いい意味でも悪い意味でも自信満々で、相手のことはあまり深く考えないのだ。
今頃、コリンナはアレクサンドラの屋敷の掃除メイドとして働いていることだろう。こんなことになるのなら、もっと悪女っぽさを学んでおけばよかったと思うものの、すべては後の祭りである。
『その人、悪女・エイヴリルのこと全然恨んでなかったみたい。すごいね、異国でも名前を知られてる悪女かぁ。かっこいい』
『褒め言葉、痛み入ります』
リンの感覚はちょっとおかしいような気もするが、考え方は人それぞれだ。とりあえずお礼を告げておく。
ふと視線を感じてそちらを見ると、クラリッサがまた目を丸くしていた。リンが言っている言葉を全部ではないにしろ部分的に理解したのだろう。
「クラリッサさん、今の言葉は本当ですよ。私はとんでもない悪女なのです。ここでは頼ってくださいね」
胸をドンと叩けば、クラリッサは驚きを引っ込めた後でため息をついた。
「……私にもそれぐらいの強さがあったらよかったのに。そうすれば、後悔することはなかったのに」
「ん。悪女の強さをですか?」
いったいどういうことなのか。ちょっと話が別の方向へと向かっている気がする。
目の前の儚げなクラリッサと悪女がどうしても繋がらないエイヴリルが首を傾げれば、クラリッサは熱のある赤い顔でこくりと頷いたのだった。





