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無能才女は悪女になりたい~義妹の身代わりで嫁いだ令嬢、公爵様の溺愛に気づかない~(WEB版)  作者: 一分咲
三章

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24.クラリッサ・リミントン

(クラリッサ・リミントンさん。没落したリミントン子爵家の三番目のお嬢様で、ランチェスター公爵家の別棟に雇い入れられるはずだった方。お迎えのときの目印として、クリーム色のドレスを着ている、と伝えられていましたね)


 肩より長い濃い茶色の髪をハーフアップにまとめ、知的な印象のある瞳は深い緑色をしている。この埃っぽい部屋で床に寝ているせいか、クリーム色のドレスが薄汚れてしまっているが、間違いないだろう。


 目の前にいる令嬢はエイヴリルが聞いていた『本物のクラリッサ』の情報とぴったり一致していた。リンが抱きついたため姿勢を崩しているのかと思いきや、顔が真っ赤だ。どうやら具合が悪そうである。


「大丈夫ですか?」


 エイヴリルがクラリッサの前に膝をつくと、リンが教えてくれる。


『クラリッサはここに連れてこられてすぐに熱を出しちゃったの。ずっと寝てるんだけど治らなくて』

『クラリッサさんはリンのお友達なのですか? ここへは一緒に来たのでしょうか』


『ううん。私はクラリッサより前に攫われてここに来たの。クラリッサは後から来て……私の言葉をちょっとわかってくれて、優しくて、仲良くなった』


(なるほど。クラリッサさんがランチェスター公爵家に到着しなかったのは、途中で攫われたからなのですね。没落したとはいえ貴族のお家でしっかり教育を受けていらっしゃったのですから、異国の言葉がわかってリンさんと仲良くなったのも当然です)


 顔を赤くしたまま息苦しそうにしているクラリッサに、エイヴリルは持ち込んだ薬を差し出した。


「クラリッサさん。こちらはお薬です。お水もあります」

「あなたは……?」


「悪女のエイヴリルと申します。外をうろうろしていたところを見つかってしまいまして、ここへは捕えられてまいりました」

「あく……じょ……?」


 ぺこりと礼儀正しく頭を下げると、クラリッサは目を丸くした。警戒されて薬を飲んでもらえないかもしれないと思っていたのだが、目を丸くして呆然としたまま飲んでくれる。


(よかった。きっと、慣れない場所に閉じ込められて体調を崩してしまったのでしょう)


 エイヴリルは念のために風邪薬ではない薬――発汗作用や利尿作用がある効き目の緩やかな市販薬をもってきたのだが、ここではその出番はなさそうだった。気だるげに空き箱の上に座っているキャシーを見ながら考える。


(もしかして麻薬を使われて体調が悪い方がいるのかと思いましたが、そこまで非道なことをする人たちではないようですね。ですが、薬漬けにして売るわけではないとなると、全員が遠い異国に売られるのでしょう。……逃げ出したくても逃げ出せない場所に)


 一方のキャシーもキャシーで、エイヴリルが置かれている状況を狙い通りに把握してくれたようだった。


「悪女のエイヴリル様は本当に何も知らずにここに来てしまったのね? はっきり言って迷惑なんだけど?」

「迷惑と言いますと……私は“商品”には加えられないということでしょうか?」


「いいえ。とっても上玉よ? あなたみたいなのは高級な娼館にとんでもない金額で売り飛ばせるの。でもね、あなたはどちらかというとこちら側なのよねえ」


(こちら側……)


 改めて周囲を見回せば、ここに閉じ込められている女性たちはエイヴリルに対してとんでもなく不審そうな視線を送ってきていた。皆の顔に「お前は何者だ」と書いてある。


 そして、部屋の奥には杖を持った老婆がいた。若い頃はさぞかし美人だったのだろうという見た目の、シャンとした外見の老婆である。


 彼女が大げさに杖をがしゃんと鳴らしてつくと、周囲に座っていた女性たちの肩がびくりと震えた。どうやら、この老婆がこの部屋の主人のようだ。


「その女は誰だい? トマスが寄越したわけじゃないみたいだね」

「悪女のエイヴリルと申します。上階のパーティーのあと涼んでいたところを連れてこられました」

「連れはどうしたんだい? パーティーに出ていたんなら、あんたがいなくなって心配するだろう」


 老婆からの問いに、エイヴリルはにっこりと微笑んだ。ここでディランと一緒だとバレてしまったらまずいことになるだろう。下手をすると、海の藻屑になる可能性もある。絶対に答えを間違ってはいけない。


「一人で乗船しております。悪女ですから、豪華客船のパーティーへ遊びにきました」

「ふーん。全然動じてないね。嘘をついているようには見えないねえ。なるほど、このまま売り飛ばしてもわからないってことか」


 どれもこれも思いっきり嘘だし、動じていないのはただエイヴリルがそういう性格だからだ。けれど、いい感じに解釈してくれたのでありがたすぎた。


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