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無能才女は悪女になりたい~義妹の身代わりで嫁いだ令嬢、公爵様の溺愛に気づかない~(WEB版)  作者: 一分咲
三章

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22.ここでもひさしぶりの再会です

 エイヴリルはこうなる可能性があるのを理解したうえでリンについてきたのだ。だから、ディランには書き置きを残してある。


 ディランはそれを見つけてエイヴリルが戻らないとなると、ランチェスター公爵と王太子ローレンスの名前を使ってでもここに乗り込んでくるだろう。


 最初からそうできなかったのは、テレーザを見つける前に動きを悟られて逃げられるのを避けたかったからだ。


(私が戻れないとなると、麻薬絡み――テレーザさんに関する手がかりはここにあるということでしょうから。その手がかりを見つけてしまえばいいだけです)


 それにしても、この場所は一体なんなのだろうか。さっきまでいた二等船室のエリアよりもさらに殺風景で寒い。


 目の前には木の箱が大量に積まれているが、空気の感じからしてこの部屋はもっと広そうだ。そして、この場所は薄暗いが奥の方からは灯りが漏れている。


 リンの縄を解いてやり、手を握って立ち上がったところで、積まれた箱のすぐ近くに人の気配を感じた。


「――あんた、どこかで見た気がするわ。名前は?」


(!? この方は!)


 美しく巻かれたブロンドヘアに目をひく顔立ち。いわゆる『派手顔』をしたその女性に、エイヴリルは思いっきり見覚えがあった。


(ディラン様と一緒に潜入したアッシュフィールド家の仮面舞踏会でお会いしたキャシーさんです。コリンナの元カレ――ウォーレスさんと一緒に行動されていて、私はこの方とチェスをしました!)


 その結果、この女性はエイヴリルの前で仮面を外すことになった。


 あの日はコリンナの元カレがディランの情報収集の邪魔をしないよう、ひたすらチェスに応じただけだったのだが、どうやら無駄ではなかったようだ。そのおかげで今、状況が把握できる。


(つまり、このキャシーさんもトマス・エッガーさんの仲間ということでしょうか。そして、あの場でのお名前はキャシーさんとおっしゃっていましたが、彼女もきっと偽名を使っていたのでしょう)


「うーん? どこで会ったのだったのかしら?」


 腕組みをして考え込むキャシーは、体のラインがはっきりとわかるドレスを着ている。遊び慣れた悪女そのものだった。つまり、一般客が多い地下にいるのは明らかにおかしい。


(声を聞かれたら私が悪女のエイヴリルだとバレてしまう気がします。でも、リンさんは異国の言葉しかわからなくて不安なようです。私が喋らずに済む方法はない気がします)


 となると、選択肢は一つだった。どうせあと数時間もすればディランが探しに来る。それならば今名乗っても問題ないだろう。それに、エイヴリルが名乗るのは悪女の名前の方だ。ますます問題ない。


「私は悪女のエイヴリルですわ。お久しぶりですね、キャシーさん」


 久しぶりに悪女っぽい笑みを浮かべると、キャシーは大変に驚いた様子だった。


「!?!? あーっ!? 思い出したわ! あなた、あのときの女ね! 仮面舞踏会に来て群がった男たちをチェスで全員切り捨てた悪女!」

「覚えていていただけてとてもうれしいですわ」


「へえ。随分かわいい顔してたのね。やっぱり見た目はこんな感じの方がバレずに遊びやすいのよね……って、あなた、あれだけの悪女なのに何でウォーレスなんかと遊んでたのよ? っていうか今日はどうしてここに来たの?」


 いろいろと誤解はある気がするが、最後にいきなり核心に迫られた。潜入捜査などとはまだ言えない。となると、現状をそのまま説明するのが正しいだろう。


「一等船室区域のデッキで涼んでいたら、こちらのリンさんに声をかけられました。困っているようでしたので、付いてきたらこんなところに入れられました」

「リン……ってこの子ね」


 視線をずらしたキャシーの瞳が鋭くなる。睨まれたリンがびくりと震えたのがわかった。


『このおばさん怖い。私が騒ぐといろいろ投げてくるんだもん』

『こちらの方が物を投げるのですか? リンさんに?』

『うん。うっかり当たらないようにするのが大変なの』


 キャシーは悪女の風上にも置けないタイプのようだ。そして、エイヴリルがリンと会話をしているのを見て、意外そうに肩をすくめる。


「あら。悪女のエイヴリル様はこの子どもが話す異国の言葉が話せるのね。この子だけ言葉が通じなくて困っていたのよ。それで、なんて言っているの?」

「……」


 おばさん、は訳さないほうがいいだろう。


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