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無能才女は悪女になりたい~義妹の身代わりで嫁いだ令嬢、公爵様の溺愛に気づかない~(WEB版)  作者: 一分咲
三章

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9.いろいろ問題です

 ぽかんと口を開けたエイヴリルにディランは教えてくれる。


「ああ。あいつが特に懇意にしているルーシーという愛人に話を聞いたんだが、最近、エイヴリルの話をよくしているらしい。椅子になるとか何とか」

「椅子?」


「そう、椅子だ。自分の言いなりになる女性ではなく、自分を振り回すような女性への憧れを話しているらしい。そしてそういう類の女性と関わるには自分も牙を抜かれた状態ではいけないと」

「はあ……って、だから急に領主のお仕事に興味を!?」


(椅子になる、とはもしかしてあれでしょうか……この前、私がディラン様のお膝に座らせていただいてお菓子をいただいたことでしょうか。まさか、あれに憧れを!?)


 信じられない。


 ルーシーと前公爵の間で交わされているそれは本気の会話なのだろうか。前公爵の強面の渋い顔を思い出したエイヴリルは、それがどうしても話題と一致しなくて、思いっきり首を傾げた。


 頭が肩につきそうになったところで、隣に座っていたディランがエイヴリルの頭を元の位置に戻してくれる。


「心を入れ替える、という表現はさすがに大袈裟なようだが、行動を改めるきっかけにはなったらしいな」

「どうして一体あれが……?」


 悪女は大っ嫌いではなかったのか。やっぱりお医者様をお呼びしたほうがよいのでは、とエイヴリルが言おうとしたところでディランはため息をつく。


「あいつが清廉でおとなしい女性ばかりを囲っていた理由は『反抗されない』、これに尽きる。それなのに、特に気に入っていた愛人に麻薬取引という面倒な問題を持ち込まれた上に脱走されたのだから、思い直したんだろうな」

「つまり、踏んだり蹴ったりだったところに悪女な私が現れて、その影響を受けてしまったと?」


「ざっくりいうとそんな感じだろうな。ルーシーはあいつのそんなところが放っておけないと言っていた。しかし、これだけ長い間確執があった相手がエイヴリル一人の振る舞いで考えを改めるとは。心底意味がわからないな」


 はー、とさらにため息を重ねるディランを見て、エイヴリルも複雑な気持ちになる。確かにその通りだろう。


(ディラン様は、本来はご結婚をする予定はありませんでした。その原因となっていたのは前公爵様その人です。誰かを不幸にしたくなくて、一生一人でいることを選ぼうとしていたディラン様……。長年悩んでいらっしゃったのに、こんなふうにコロコロと考えが変わるところを目の当たりにされて、一体どんなお気持ちでしょうか)


 沈んでしまったエイヴリルにディランはいち早く気がついたようだった。


「そんな顔をしなくていい」

「ですが」

「正直、俺もエイヴリルと話しているときは楽しいんだ。だからあいつの気持ちはわからなくもない。…しかし、エイヴリルは特技を披露したのか」


「はい。あっ、ですが、その辺は大丈夫かと思います。とても驚いて後退りをしていましたから!」

「ますます心配だが、想像すると笑えるな」


 気を取り直してまた胸を張れば、ディランはとても楽しそうに笑った。さっきまで複雑そうな顔をしていた彼に元気が戻ってホッとする。


 そして別棟解体の話題になったので、エイヴリルはずっと気になっていたことを聞いてみる。


「……別棟にお住まいの愛人の皆様はランチェスター公爵家を出て行くことになるのですね」

「ほとんどはその予定だ。本来は希望があれば何らかの形で雇い入れてもいいが、前公爵がいるところでそれをしては示しがつかないからな。解体の意味がなくなってしまう」

「ええ、おっしゃる通りです」


(ですがディラン様はとてもお優しい方です。もし誰かがここに残りたい――、例えば、王都のタウンハウスでディラン様にお仕えしたいと言い出したらどんな判断をなさるのでしょうか)


 現に、脱走したテレーザはディランに取り入ろうとしていた。


 もしかして、行き先がないばかりに今後そういうことを考える愛人が出るのではないだろうか。愛人たちの性格は大体知っている。みんな穏やかで優しい女性ばかりだ。それだけに戸惑いを覚えてしまう。


(もし……もし、ディラン様が離宮に愛人の皆さまを集めたいとおっしゃったら……!?)


 その場合、王都のタウンハウスの離れがディランの愛人たちの住まいに変わるというのだろうか。


 いや、ディランが契約結婚を申し込んできた経緯や父親への嫌悪を踏まえると、どう考えてもそれはあり得ない。けれど、万一ということはなくはない気もする。


(愛人の皆さまを囲い、一人で生きる手段を奪ってきたのはランチェスター公爵家です。解体後の行き先がなかなか決まらなかった場合、そのまま放り出すわけにはいきませんから!)


 もしそういう事態になったとして、自分は彼女たちをまとめるルーシーのような存在になれるのだろうか。


 いやどう考えても絶対に無理だろう。彼女たちとはあらゆる経験値が違うのだ。本妻なのに、一番の下っ端になってしまう気がする。女主人になるつもりなのに、ルーシーをはじめとした愛人たちに世話をされるのはしのびない。


 加えて、前公爵はそのときお気に入りの愛人のところに足繁く通うらしいが、一応は下っ端のところにも申し訳程度は会いに行くのだとジェセニアが教えてくれた。つまり、自分はディランと申し訳程度しか会えなくなるのだろうか。


(そっ……そんなのは嫌です!?)


「何を考えている?」


 完全に畑違いな問題に気がついてしまった。エイヴリルの思考がありえない方向に脱線し進んでいたところで、訝しげなディランの声で現実に呼び戻された。


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