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2.ウエディングドレス

 よくわからないが、ディランとローレンスがむせているのはそれぞれ別の理由だろうとは思う。エイヴリルはアレクサンドラに問いかけた。


「これをアレクサンドラ様も愛用していらっしゃる……? きっとよくお似合いですね」

「エイヴリル様にもきっと似合いますわ」

「…………なるほど?」


 エイヴリルは控えめながらもこのナイトドレスを着ている自分を想像してみる。しかし残念だが細部まで想像しきれなかったうえに、想像上の自分がとても寒そうだ。第一、似合ったところで誰に見せるというのか。


(はっ。もしかしてディラン様に?)


 思い至ったところでディランがむせていた理由がわかった。しかしすでに想像の限界は超えている。


「あの、デ……ディラン様はこういったことでお元気にはならないのではないかと」

「ふふふ。そうかしらね」


 ディランは楽しくないし、自分だって風邪を引くと思う。


 アレクサンドラの意味深な笑みに首を傾げていると、この母屋付きのメイドが空になったカップに紅茶を注いでくれた。この薄い布を見てあきらかにぎょっとしている。


(うっかり私も動揺してしまいましたが、私は母屋の使用人の間では悪女ということになっているのでした……! 前公爵様の印象を『最悪』でキープするためにもイメージを落とすわけにはいきません……!)


 となると、動揺したところを見られたからには名誉挽回しなくてはいけない。


 あらためて薄い布を広げたエイヴリルは悪女らしくため息をついた。


「……もう少し布面積が少なくてもよかったですわね。ですが仕方がありませ、」

「かっ……かしこまりました。では、その通りにお直しを」

「!?」


 公爵家の使用人は従順である。ポットを置いたメイドが目を泳がせながら薄い布を受け取ろうとしてくれるが、動揺しているのはエイヴリルだって同じだ。まさかこんな展開になるなんて思わなかった。


 とにかく、この布から手を離すわけにはいかない。


 エイヴリルとメイドの間で目に見えない引っ張りあいが発生しつつあったところで、アレクサンドラはもう一度手を挙げた。


 すると、アレクサンドラの侍女が今度はさっきよりも大きな箱を持ち、寄ってくる。


「まぁ、そのナイトドレスについては冗談のようなものですわ。本当にお見せしたいのはこちらですの」

「「冗談……」」


 思わずメイドと言葉が重なってしまった。意味は違うものの、お互いに安堵したところで、アレクサンドラが箱の蓋を開ける。


 そこにはまた同じような繊細なレースが縫い込まれた白いドレスが出てきた。薄い布の寒くないバージョンだろうか。


(いいえ、これは違います)


「エイヴリル様のウエディングドレスが仕上がりましてよ。ディラン様にお持ちするよう言われましたので、王都からわざわざ持ってきましたの」

「まぁ……!」


 それは結婚式のために仕立て直しているエイヴリルのウエディングドレスだった。ランチェスター公爵領にいる間は結婚式の準備が進められないと思っていたのだが、こんなところでドレスに出会えるとは。


 むせるのがやっと収まったらしいローレンスが教えてくれる。


「結婚式の準備で忙しい時期に頼み事をしてしまったからな。責任をとって私たちで持ってきた」

「……ありがとうございます、ローレンス殿下」

「おまえにそうやって礼を言われるのは悪くないからな」


 ローレンスとディランの会話を聞きながらありがたさで胸がいっぱいになったエイヴリルに、アレクサンドラが提案した。


「早速袖を通してみては。お手伝いしますわ」


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