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無能才女は悪女になりたい~義妹の身代わりで嫁いだ令嬢、公爵様の溺愛に気づかない~(WEB版)  作者: 一分咲
二章

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36.勘違いだったようです

「テレーザ様!?」


 このサロンは2階にある。あわててエイヴリルたちが窓の下を覗き込むと、下にはちょうど干し草の山があった。そこをクッションにしてうまく跳ね着地したテレーザは、ドレスの裾を結んで動きやすくするとそのまま走り出した。


「テレーザ・パンネッラを追え!」

「かっ……かしこまりました!?」

「違う、エイヴリルは行かなくていい」


 ディランの命令につい反応して窓から外を覗き込めば、後ろからぐっと抱き止められた。エイヴリルは驚いて目を丸くする。


「あの、ディラン様、何を?」

「ああ、すまない。飛び降りそうに見えて」


 いくらエイヴリルでも、さすがにそこまではしないと思う。


(これは本当に子ども扱いなのでは……?)


 今朝、子どもだとは思っていないと言われたがあれは本当なのだろうか。一抹の不安を覚えたところで、逃げたテレーザを捕まえるために庭を従僕たちが走っていくのが見えた。


 大騒ぎの大捕り物が始まってしまった。敷地を隔てる壁に向かい、一直線に走っていくテレーザの姿がたちまち遠く離れ小さくなっていく。


(テレーザ様、とても足が速いです)


 感心している場合ではなかった。


「テレーザ様、ちゃんと捕まってくれるでしょうか」

「万一逃げたとしても、この街に隠れる場所はないはずだ」

「……確かに、街の中にはそうでしょうけれど」


 この街はランチェスター公爵領であり、本邸のお膝下にあたる。ディランがお触れを出せばテレーザは一瞬で突き出されるだろう。


(ですが、この街には港があります。そして港にはたくさんの船が)


 エイヴリルがテレーザの逃走について心配しかけたとき、呆気に取られたような声が聞こえた。


「まさかと思ったけど……あんた、じゃなくってエイヴリル様? は本当に旦那様の婚約者なのですね……」


 振り向くとジェセニアが少し頬を染めてこちらを見ていた。なぜそんなに照れているのか、と首を傾げれば、ある可能性に行き当たった。


 それは、この体勢である。ディランはエイヴリルのことを後ろから抱きしめるようにして立っているのだ。皆の気まずそうな空気を察知したエイヴリルはディランにお願いする。


「ディラン様。私は窓から飛び降りたりしません。どうか手をお離しくださいませ?」

「本当か? エイヴリルはいつも予想外なことをする」

「本当の本当に、大丈夫ですわ」

「わかった」


 ディランは顔色ひとつ変えることなく離れてくれたが、それがまた日常的にこんな会話が繰り広げられていることを想像させ、ジェセニアたちには効果的だったらしい。ふむふむと感心している。


「なるほど、エイヴリル様、はこうして旦那様を手玉にとっていらっしゃるのですね」

「ええ、まあそうですね」


 エイヴリルはつい話を合わせてからはたと固まった。


(はたして私は今ここで悪女のふりをする必要があるのでしょうか……? 前公爵様はここにいらっしゃいませんけれど)


 隣のディランを見上げれば、彼は諦めたように笑う。


「どうとでも思ってくれていい。彼女に関して、私はこの通りだ」

「「「……!」」」


 それだけで、ジェセニアをはじめとした離れの使用人たちはしっかり腑に落ちた様子だった。部屋にいる人間はみな色めき立つ。


「なるほど。お洗濯が得意で猛獣使いで、旦那様にこんな優しい笑い方をさせるエイヴリル様が悪女なはずないですね」

「ジェセニアさん、あいにく私は普通で申し訳なかったのですが……『悪女・エイヴリル』については今度お話しさせてください」


(ディラン様が悪女をお好きだということが、使用人の皆様からの忠誠心を高めることにもつながるのかと思っていましたが……どうやらそちらは私の勘違いだったようです)


 思い違いをしていた自分を反省しつつ安堵のため息を漏らせば、ジェセニアは心配そうに聞いてくる。


「普通、って……ある意味普通じゃないですけど……まぁそれは置いておいて、エイヴリル様は大旦那様にお会いになりました?」

「ええ。一度ご挨拶を」


「大旦那様は本当になんというか……。エイヴリル様みたいな清楚なおっとり系ご令嬢は好みど真ん中だと思いますので気をつけてください。離れの愛人の方々はここでの生活を楽しまれているので問題ありませんが……エイヴリル様は、大旦那様がこちらにいらっしゃる時間帯は避けた方がいいと思います」

「ご心配ありがとうございます。ですがその辺は問題ありませんわ」


 にっこりと微笑めば、ジェセニアたちは不思議そうに首を傾げる。けれど、母屋でのエイヴリルは遠巻きにされ、不思議そうにされ、一度だけ挨拶した前公爵には完璧に嫌われているのだ。


 ――全く問題はないはずだった。


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