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ドラマの主人公ってだいたいぜいたく。


「うーん」


ごろごろとこたつに潜りながら、小雪はスマホをいじっている。

台所でネギを切りながら小春子が声を掛ける。


「さっきから何一生懸命みてんのアンタ」


「いやさあ、良い物件ないかなっとおもって」


「引っ越すの?」


「う~ん、そういうわけじゃないんだけど」


「へえ?」


ネギを切り終わった小春子は、春菊を冷蔵庫から取り出して袋をばりばりと開ける。ざーっと水で流し、根元の土を落とす。ふわっと春菊のさわやかなにがいような香りが漂ってくる。


「なんかさあ、社会人になってすぐ思ったんだけどさ、日本の家ってダサいじゃん?」


「ごめん、なんの話?」


小春子は小雪の話がぜんぜんわからなかったが、料理をしているので話半分に聞いていた。


「ダサいじゃんだって!」


がばっと小雪が起き上がって台所の方を向く。


「はいはい。あんたはそう思うのね」


「そうだよ!だいたい6万程度で住める家なんて、駅から遠くて古くて、キッチンなんかどこに皿収納したらいいかわからなくて、なんならフライパンすら入らないちっっさいシンクだったりするじゃん!」


「住んでる場所によるんじゃない?」


春菊に包丁を入れると、にがい香りが強くなる。

ざっくざっくと切っていく。


小雪は続ける。


「それにこれ何処にベッド置いたらいいの?みたいな間取りもあるじゃん。ベッド置いたらベランダには出にくくなったり、キッチンに冷蔵庫置くスペースがないから、ベッド置いてるワンルームの方に置くしかなくて、テレビの隣に冷蔵庫みたいなことになるじゃん!」


「あ~、私大学生の時そうだった!」


「でしょ?」


切った春菊をボウルに入れ、にんにくのチューブをぎゅっとしぼる。マヨネーズももりゅもりゅと駆けて、最後に鯖缶を入れる。


ねりねりと混ぜ合わせながら小春子ははっと気づく。


「私の部屋がダサかったってこと?!」


「ちがうよ!そうだけど違う!」


「どっちよ」


「ちがうの!だってさ、どんなに頑張っても海外ドラマに出てくるような家には住めないじゃん。結局ちぐはぐでどこに何を置いても暮らしにくい間取りも多いでしょ?結婚して新築マンション買ったとしても、めちゃくちゃ『日本の家』って感じで、無難な感じ。海外ドラマみたいなインテリアにあこがれる私としては、もう悪事に手を染める以外ではあんなインテリアの家に住めないんだよ」


「あ~、たしかに。海外ドラマに出てくる家って、なんていうか、天井の高さから違うよね」


「そうなんだよ!さすが小春子!」


「でもさ、日本のドラマに出てくる主人公の部屋とかも、なんかぜいたくじゃない?」


「あ~それはね、そう!」


「新卒一年目なのに結構いい家住んでたりするじゃん。後、大学生で妙に整ったインテリアの部屋とか。豪華でもおしゃれでもないんだけどさ、無難に整えるのも結構お金かかるでしょ?」


「そうそう。だいたいお金ないころって、実家から持ってきた毛布とかさ、何かしら系統だってないアイテム持ってるもんじゃん。なのにぜんぜんそんなのない部屋とかね、親が金持ちなのかバイトめちゃくちゃやってるかだよ」


「この間さ、ホラー映画見たんだけどさ」


今度は小雪がしょっぱい顔をする。


「なんの話?なんで今ホラー映画なの?」


「いや、主人公が地方出身大学生で、東京に住んでる設定なの」


小雪はこたつの上のティファールのボタンを押した。


小春子はさばと春菊の和え物ができたので、ネギをフライパンで炒めていく。

塩を振ってさっと炒めた後は、ごくごく弱火にして蓋をする。


「その住んでる部屋で何かがいる気配がするっていうお決まりの流れなんだけどさ、そういう映画って家の中がメインだから部屋の様子が映ってるでしょ?で、最初は気にならなかったんだけど、よくよく見てみたらさ、部屋は2つあるな、キッチンはカウンターだな、トイレは温水洗浄便座だなとか。で、なんとなく図にしてみたらさ、ファミリータイプの3LDKに住んでたんだよ」


「なんでだよ!大学生!」


「特にそのことには何も触れずに映画が終わった」


「演出ですらないんだ」


ポン、とティファールのお湯が沸く。

マグカップにこぽこぽとお湯を注ぎ、お茶のティーバッグを入れる。



「ドラマの主人公を見てさ、大学生ってこういう暮らしなんだ、って思ってた時期があたしにもあったわ」


お茶をすすりながら、小雪がしみじみという。


ネギはぷつぷぷと熱が通り、ネギの水分が沸騰している。

ちょうど甘みが引き出された証拠なので、小春子は火を止めた。


「ドラマの主人公って、だいたいぜいたくだよね」


「そうね」







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