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彼氏に振られたよ。


「彼氏と別れた…」


「あ、そう」


小雪が深い溜息をつく一方で、小春子はスマホをいじって目もくれない。


「で?原因は?」


「なんかぁ、突然『もう正直しんどい』って言われたぁ」


「へえ?」


少し興味を持った小春子は、長い髪を耳にかけながらちょっとスマホを杖において、コーヒーを飲む。

小雪はコーラのキャップを緩めたり緩めたり締めたりした。


「意味わかんなくない?????」


「その彼氏ってあれでしょ?毎日毎日ライン送ってくる人でしょ?」


「そう!はじめはさ、私もかわいいなって思ってたよ?でもさ、いきなり『部屋がすっきりした!』って何にもない部屋の画像送ってくるから、『どうしたの?引っ越し?』ってきいたら、『先輩の引っ越し!』って送ってきたりするんだよ!?こんなんばっかりなんだよ!?」


「あーそれ前も言ってたね。正直見知らぬ他人の引っ越しなんて死ぬほどどうでもいいよね。なんだっけ、結局そういうラインしんどいって言ったの?」


「言った!どう反応していいかわからないって。そしたらさ、これだよ!?」


小雪はスマホを取り出して小春子に見せる。


「『小雪ちゃん、俺いろいろ考えたんだけど、正直まだ結婚って考えられなくて。小雪ちゃんは嫌なこといやっていうけど、俺自身小雪ちゃんが嫌やと思ってることを帰るつもりもなくて。だからもう別れたほうがいいと思うんやけど、どう思う?』って!!」


「ちょっとアイスとってくるね」


ヒートアップした小雪を置いて、小春子はアイスクリームを冷蔵庫から出してくる。


「ちょっと、ハーゲンダッツじゃんそれ」


「新しい味でたの」


「私の分は?!」


「あると思う?」


冷蔵庫の前から小春子は冷たい視線を小雪に送る。


「あると思う!」


迷うことなく断言した小雪に、小春子はふふっと笑う。


「はい、あんたの分」


「ありがとう!」


そうして二人の間には、しばらく無言のアイスタイムが訪れる。


「やっぱりさ、ハーゲンってほかのアイスと違うよね」


「そうね。いちごとか抹茶とか、特にね」


「あのイチゴ感ってなんなんだろうね。私昔めちゃくちゃ高い中華食べに行ったことがあるんだけどさ」


「ああ、『身の丈に合わない女子会』だっけ。大学の先輩と後輩と一緒に高い料理食べに行くだけの女子会でしょ」


「そうそう。それでね、そこの最後のデザート何だったと思う?」


「中華だったら胡麻団子とか?」


「ノンノン!なんと、ハーゲンダッツだったんだよ!しかもね、陶器の器にはいってるの!陶器もハーゲンダッツのカップの絵柄がついてんの!」


「へぇー、そんなのあるのね」


ひとしきりハーゲンダッツの話に花を咲かせた後、小春子がまたスマホいじりに入った。


「ってかさあ、あんた結婚したいって言ったの?重くない?」


「ああ、それ……。だってさ、私たち婚活パーティで出会ったんだよ!?しかも私だって結婚したいなんて言ってないし!二人の将来にそういうのを描いていけたらいいなって思ってる、って言ったの!真剣交際のつもりだよって言ったの!」



「重くない?」


「重くないよ!!!!!」


「いやさ、あんたが客観的に見て重いかどうかじゃなくて、彼からしたら重かったんじゃないの?」


「・・・・・・・そうなんだけど」


「それであんた素直に分かれてあげたの?」


「違うよ!いきなりこんなライン送ってきて、はい終わり、なんて20歳過ぎた大人同士のすることじゃないじゃん。突然のことで意味わかんないから、直接会って話そうっていった」


「そしたら?」


「そしたら、『俺はもう会いたくなくて。もう正直しんどい』って!」


「ああ、そこに来るの、その言葉」


「『どう思う?』って聞いときながらなんなの!腹立って、ラインでお別れとか失礼すぎるやろってライン送ったら!」


「送ったら?」


「ブロックされてた!」


「え?じゃあそこで終わりなの?」


「そう!」


「ないわー。幼稚すぎるじゃん、その男。そんなんなる前にわからなかったの?」


「なんかさ、結構最初のころのデートで、『俺デートとかしたことあんまなくて、こんなんで大丈夫かな?』って聞いてきたことはある」


「ダサ」


「ダサいとか言わないで!その時はなんか素直な人に見えたの!」


「いやいや、素直でしょうよその人は。素直に会いたくなくてブロックするぐらいなんだもん」


「ちょっと変な人なのかなとは思ったよ?でも初心なのがかわいくて」


「『キスとかしちゃってもいい?』って聞いてきたんだよね、その人」


「うん」


「ダサいわ。本当にダサい。傷つきたくないっていう気持ちがすごく見えててダサい」


「そんなに言わないでよ」


「だって、その最初のころのデートって前に言ってたイケアデートでしょ?ただただイケアで家具みて食事して帰るだけの。それでデートってこれでいいかって聞いてくるの、逆にすごいわ。なんなの?デートって何だと思ってるの」


「でも一生けん命考えてくれたことじゃん」


「いいや!そいつは考えてないね!普通さ、本当に考えてるなら検索でデートスポットぐらい調べるでしょ?それがイケアってことは、そいつが行きたかっただけだよ」


「そうかな」


「そうだよ!別れて正解!だいたい、ラインでそんなお別れしてくるやつとなんて、付き合う価値ないから!自分にだけ素直なんじゃん、そいつ。そいつの素直さでもやもやする人がいる時点で、それは素直っていうより自分勝手!」


バン、と小春子が机をたたく。


ふう、とお互いため息が出る。


「……明日から仕事だ」


小雪は机に突っ伏しながらそういう。


「笑点まで見て帰っていい?」


「別に。おしゃれイズムまでいてもいいわよ」


「あ、私どっちかっていうと初耳学なんだよね」


「あんたほんとに失恋で傷心なの?」


小春子の言葉に小雪はぶーぶーと不平を漏らす。


小雪の言葉に小春子が言い返し、時々脱線していく。





話は尽きない。




ふたりの話はどこまでもくだらない。




そんなくだらない話が折り重なっていく日々。




何処へ向かうのか、何が待っているのか。



そんなことは誰もしらない。


気ままに、思いつくままに。


ただ話をする。


誰もがそうして日々を紡いでいるはずのかけがえのない日々なのに、特に何もない。


何の物語なのかも誰も知らない。


どんな結末なのか誰も知らない。








小雪さんと小春子さん。





二人はただ話をする。








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