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ただ広いだけの世界で何を知る  作者: 道端小石
一章 お姉さんと真逆の双子
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森にて

「やだ!こ、来ないでぇ!?!?」


自分のものとは思えない甲高い声が夜の森に響く。とはいえ周りに誰もいないので、完全に無意味な行為だなと、ふと思うけれど、反射的に叫んでしまう。それでも足を止めずに、地面を蹴って、蹴って、蹴る。


ちらりと、淡い期待を抱いて後ろを見たがーー


「グルルル……」


低いうねり声は健在だった。


「ですよねー!」


そう、あの後しばらく歩いて、喉が渇いたので水を求めて森に入って見れば巨大な狼と遭遇。そのままはい、さようならと言う筈も無く、急に命賭けの鬼ごっこがスタート。


ギロリとした赤い目は、はっきりと私を捉え、黒の巨体が少し、また少し近付いてくる。勝ち目の無い戦いだけど、かれこれ30分は逃げ切れたし、よくやったんじゃないか。すごいぞ私!


恐怖で零れそうな涙によって、視界が歪んだのが原因だったのだろうか。自分で自分を虚しく讃えていたその瞬間、石につまずいた。おまけに、抱えていた本のせいでろくに手もつけずに倒れてしまった。そんな最悪のハプニングのせいで、鬼ごっこは終わりを迎えようとしていた。


「や、やだ……!まだ何も分かってないのに!絶対逃げてやるも、ん……きゃぁ!?」


待ってましたと言わんばかりに狼は大きく口を開く。私は迫力のあまりにまさかの腰を抜かしてしまった。さっきから最悪の事態ばっか。泣きたくなって来るが、それでも諦めない、諦められない。狼と目を合わせながら、一歩、また一歩と後退りする。


しかし、そんな悪足掻きなんて勿論通用しなかった。目の前が白みがかった朱に染まる。私は思わず目を閉じた。なんでかは分からない。






いつまで経っても食べられることも、噛み砕く音が脳いっぱいに広がる事はない。どうしたのかとおそるおそる目を開くと、狼は他の狼にやられたかのような爪痕を残して血を流していた。そして、私の目の前には、人が立っていた。


片手にはランタンを持ち、もう片方の手に鈎爪を付けた女の人が、蒼い目で私を見つめていた。


「おねーさんが間に合ってよかったね。後ちょっと遅かったらキミ、死んでたよ。」


耳の上の、左右に分かれた癖っ毛が揺れていた。ツインテールというやつだ。


「あ、ありがとうございます……!」


ランタンに照らされた金髪は、この暗闇の一等星だと思った。


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