53話 竜エリア
金ゴキを何度も倒した後に下へ降りると、広い草原に山々が見えるエリアがあった。
そして上を見上げるとギャアギャアと鳴き叫んでいる魔物がいる。
辺りを見渡してみると、どうやらここはドラゴンが住む場所のようだ。
「上のはワイバーンか? ならここはドラゴン地帯?」
「そうじゃのう。ここからは危険地帯になりそうじゃな」
「ドラゴンってみんな強いんだよね?」
「……Gよりはいい」
ガラハドの言うように、ここからは今までよりも更に危険な場所になるだろう。
あのドラゴンゾンビですら倒せなかったのだから、本物と出会ったらどうなるか分からない。
なのにアリシアだけはコックローチ地帯よりは良いというのは、やはり精神的に来るものがあったからだろう。
(さすがに金ゴキ退治をやりすぎたか。少し反省だ)
ただドラゴンは精神攻撃よりは物理攻撃に特化してるだろうから、こちらの方が対処はしやすいのかもしれない。
ただ圧倒的暴力の前には為す術も無さそうな気もするが、なんとかクリアしたいものだ。
「ガラハドはドラゴンと戦ったことはあるか?」
「あるぞい。強さは最強格じゃ。どんな奴らでも強いの一言じゃな」
「じゃあ上のあれはどうだ?」
「ワイバーンはそりゃもう強い。じゃがあれはワイバーンよりは小さいから、別の種類じゃろう」
「でも5m以上はありそうだよな。あれで小さいのか」
「本物であれば頭から尾までは10mはあるじゃろう」
「そうなのか。なら王家の飛竜部隊はワイバーンか?」
「そうじゃな。ワイバーンも居るし違う飛竜も居るのう」
なるほど。なら上で飛んでいるのはワイバーンよりは弱いだろう。
あの飛竜部隊の飛竜の攻撃は凄かったからな。
もしあれがワイバーンであったなら、一斉に攻撃されれば一瞬で全滅しそうだ。
そのワイバーンより弱いと言ってもなるべく慎重に進んでいきたい。
そんな思いで進むが、さっそく上から俺達を目聡く見つけた飛竜が一匹襲い掛かって来た。
「さっそく来たぞ。……レッサーワイバーンというようだな」
「ならワイバーンの紛い物じゃ」
そう言うとガラハドは自分が一人進み出て、漆黒の大剣を構える。
それを斜め下に構え、レッサーワイバーンが1人出て来たガラハド目掛け脚を振り下ろした。
ガラハドは避ける事なく一瞬動いたかと思うと、大剣を振り上げていた。
次の瞬間にはレッサーワイバーンがそのまま地面に追突して大きな土煙を上げる。
土煙が晴れると悠然とこちらに歩いてくるガラハド。
その後ろでは真っ二つに切り裂かれていたレッサーワイバーンの姿があった。
「やはり上から襲い来るだけの小物は楽じゃのう」
「ほんとに強くなりすぎだろう。一対一では無敵じゃないか?」
「ガラハドおじちゃんすごい!」
「……脳筋」
ワハハハと笑いながら近寄るガラハドは、返り血の一滴も付いてなく綺麗なものだった。
金ゴキとの幾度に渡る戦闘を経て大幅にレベルアップしたからか、更に強さに磨きが掛かっている。
やはり剣技はまだまだガラハドの方が上か。俺なら返り血の事までは考えられないだろう。
だが身近に達人がいるんだ。その技を盗むまでだ。
「そろそろ行く。ここにいるとまた来る」
「ああ、そうだな。さっさと行くか」
アリシアが急かすのは今の地面への衝突音で俺達がいる事が竜達にバレたからだろう。
なるべく見つからない様にしながら移動しよう。
それからは草原地帯を進みながら階段を探すが見つからないので、きっと山の方だと皆の意見が一致したので、木々が少なく灰色に見える山々が連なる場所へ向かう事にした。
「ここからは隠れる場所が少なくなるから襲い来る竜種に注意じゃ」
「了解。空から来る奴に注意しないと、地上で相手してて更に上からとなったら辛いな」
「うむ。地上は儂とスタークが相手するとして、空からはアリシアとリリに警戒して貰うのが良さそうじゃな」
ガラハドの言う通りに空と地と両方から来られると厳しい。なので空からの奇襲を警戒するのをアリシア達に任せる事にした。
それはなぜかと言うと、アリシアの重力球がドラゴンの翼に当たると地面に墜落していったからだ。
きっとドラゴンは翼で飛んでいるのではなく魔法で飛んでいる。なのでそれを重力球で阻害してやると、あのデカい身体を維持して飛べないのだろう。そのまま地面に墜落していったのだ。
なので空はアリシアとリリの魔法で対処して貰うとして、地上から来る奴らは俺とガラハドが相手取る事にした。
それから注意しながら進むがやはり多少は敵は来るもので、その度に最速で処理していった。
ただ知能が他の魔物よりも高いからか、見付けたから襲うというものではないようなので、思いの外、戦闘はそこまで多くなく進めていた。
「またモグラみたいな竜が来たわい」
「俺の国じゃモグラは土竜って書くんだ。まぁ実際には竜じゃないけどな。だがこいつは竜の成り損ない位はありそうだな」
地面の底から襲い掛かって来るこいつはサンドミニドラゴンというらしく、モグラに非常に似た見た目をしているが、サイズが3mはあるからモグラとは思えない力を発揮して来る。
まぁ穴を掘る音が非常にデカいから接近すればすぐ分かるのが救いだ。
進む隊形は俺とガラハドが前を歩き、その3~4m離れた所をリリとアリシアが歩いている。
これはあまり纏まって歩くとサンドミニドラゴンが穴を掘っているので、罠の落とし穴の様に落ちそうになるからだ。
なので隊列は雪山の登山をするような形になった。
俺が先頭でいるのは一番転移が上手いからだ。1回落ちた時もすぐにリリの側に転移して事なきを得た。
意外と落とし穴が深く、10m以上はありそうだったのでリリを巻き込んで落ちたら大変だ。リリ以外は魔物なので怪我しても大した事は無いが、リリは怪我したら回復ポーションで治るならいいが、治らない場合は一旦地上に戻る羽目になるので、少しでもアリシアのエリアで階段探すのに停滞した時間を取り戻すために、ゆっくりと慎重に移動していた。
「今回は俺がやるか。試したい事もあるしな」
「了解じゃ。任せたわい」
俺は地面から迫りくるサンドミニドラゴンのタイミングを見計らって、地面から飛び出して来る瞬間を狙って魔力を多めに込めた血結晶をサンドミニドラゴンの口を目掛け放り投げて飛び退いた。
バグッと大きな音を立てて地面から出て大きな口を閉じたサンドミニドラゴンは、そのまま地面に戻ろうとしたが、俺は自分の血結晶に無数の針が飛び出すようにイメージを送った。
するとサンドミニドラゴンの口から赤黒い無数の棘の血結晶が飛び出してきて、そのまま地面に縫い付けていた。
ギャアギャアと悲鳴を上げて藻掻くが血の棘が邪魔をして地面に戻れないでいる。
そのまま内臓や脳まで血の棘で刺されていたのか、次第に力を失っていき最後は物言わぬ屍になった。
「おお。中々に凶悪な技じゃのう」
「ああ、殊の外、上手く行った。けどこれは雑魚にしか通じないな」
「む? なぜじゃ? 使えたら大分便利な技じゃろうに」
「いやな。サンドミニドラゴンが口を閉じたら魔力を送って発動させようとしたんだが、それが阻害された感じがしてな。実はワンテンポもツーテンポも発動が遅れたんだ」
もっと強敵になると俺の魔力よりも強い魔力を持っているかもしれない。そうなるとただただ俺の魔力を相手に渡しているだけになりそうだ。
「なるほどのう。そんな上手くはいかないものじゃな」
「だな。まぁ魔力の弱い奴には使えそうだからたまに使っていくか。使いどころが難しいけどな」
今回みたいに口の中や体内に使うならまだしも、外からやっても大した効果は出なそうだ。
それならファイアアローでも撃った方がまだマシだからな。
「さて、もうすぐ次の山に着くな。ここらで違うドラゴンともやり合ってドラゴンがどういうものか身体に叩き込みたいものだな」
「そうじゃのう。アリシア達との連携も少しは練習しといた方がええじゃろう」
ドラゴンもどきとやって簡単に倒していると、それに意識を引っ張られて自分達も雑魚に合わせるようになってしまう。
なのでちゃんとしたドラゴンとやり合って連携の向上に、緊張感や意識を高く保ちたいので、そろそろ獲物を選んで戦う事にしようと話し合った。
そしてその機会はすぐに訪れた。
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