18話 作り替えろ!
洞窟の中から外の様子を伺う。
誰も来る気配はない。
だが俺はここからは出られない。
「どうする? どうしたらいい?」
俺は考えに考えた。
このままでは一生こんな暗い場所から出られないままだ。
外に出なければ未来はない。ここで生き続けた所でデュラハンと戦った時のような面白い事など、そうそう起きないだろう。
俺は生きたい。 だが死んだように生きるのなんてごめんだ。
外の世界に飽きたらこういう所に引っ込むのならまだ分かるが、一度も出ないままなんて無理に決まってる。
そこで俺は決意した。
「やるぞ…やるしかない!」
光に弱いなら光の耐性を得ればいい。耐性の作り方なんて誰でも知っている。
「光に当たり続けりゃいいんだろ?」
単純な事だ。そしてそれ以外に道はない。
ならばやることは一つ。
俺は洞窟の出口に立ち、日の光に当たるギリギリの所まで来た。
そして俺は日の光に自身の左腕を差し出す前に魔力が殆どない事を忘れていた。
そこで使う事のなかった魔力完全回復ポーションを一口だけ飲んでみると…
「 おお! もう全快かよ!? 」
たった一口飲んだだけで魔力が完全に回復しきったのだ。
さすがは魔力完全回復ポーション。 名前の通りだった。
だが一口だけで全快するものなのか? それともこの身体が魔力と相性がいいのか?
いくら考えても答えは出ないので、今は良いかと次に意識を向ける。
さあ、準備は整った。 ならばひと思いにやるだけだと、思い切り日光に腕を突き出した。
途端に焼けるような痛みが支配した。
「ぐぁあああ!!」
腕からもの凄い煙が上がり、肉の焼けた臭いが一気に充満した。
あまりの痛みに腕を引きたくなるが、ここで引いたらこの痛みの恐怖心で二度と日の光に当たることが出来なくなりそうだ。
このまま肉が焼け落ち骨まで焼けきったら、再生を待ってから、またやる。
それを繰り返せばいつかは耐性を得られるだろうと思い、覚悟を決めた。
だがあまりの痛さにその覚悟が揺らぎだす。
(痛い!! 痛すぎる! 誰かなんとかしてくれぇええ!!)
誰もいないのにそう願ってしまう程の痛みに意識が落ちそうになる。
だがここで意識を失えば身体ごと日の光に当てられ、俺はこの世からおさらばしてしまうだろう。
(ここで死ぬわけにはいかない! 何の為に2度目の人生を手にしたと思ってるんだ! 誰にでもこの幸運があるわけじゃない! 絶対に俺は外に出てやる!)
そうだ、2度目の人生なんて普通ではあるわけがない。それを手にしたんだ。ならば俺はここでは終われないと心に鞭を打ち、左腕の肘から先が燃え上がるのを見ながら意識を保つ。
だが肉が焼けているのは未だに半分ほどでまだまだ掛かりそうだ。
そこからは痛さで記憶が曖昧だ。どのくらいそうしていたのか。はたまた一瞬だったのか。
それすらも分からないほどただただ痛みに耐えていた。
朧げな意識が浮上した時にはようやく肉が焼け落ち、肘から先の骨がほぼ見えた頃だった。
だが痛みは更に増した。そうだ……肉よりも骨の方が痛い事を忘れていた。
ただでさえ耐えきれていない状態だったのに、これ以上となると無理だ。
俺は縋るような思いで魔法袋を開き、今まで使う事の出来なかったエリクサーを取り出した。
(ちまちまやってるから痛いんだ! ならば一気にやればいい!)
きっと真っ赤に充血した血走った目をしながら、左肘から先の剥き出しになっている骨に向かってエリクサーを振り掛けた。
振り掛かるエリクサーはとても綺麗で日の光により、更に美しく輝いている。瓶に入っているよりも美しい輝きだ。
それが骨に触れた瞬間に今までよりも煙が膨れ上がり、それに伴い痛みも更に増大した。
一瞬で意識を持っていかれる。
だが俺は驚異的な精神力でなんとか耐えてみせ、腹の底から叫んだ。
「この身体が駄目なら作り替えろ!! 全てを変えるんだ!!」
叫ぶことでなんとか意識を保つが、それも少しの時間しか持つ事はなく。
もはや自分が何をしているのか分からない状態になってきた。
だが歯を噛み砕くほどに耐えに耐え、口から血が滴り落ちようがそれに気付かず、なおも必死に歯を食いしばり耐えて見せる。
そうする事どのくらいか……朦朧とした意識の中でふいに痛みがなくなっている事に気付いた。
「ぁ……あ……れ…? ……もう…骨も消えたか…?」
俺はもう骨まで焼け落ちたと思い、徐々に意識を取り戻した視界で左腕を確認してみる。
すると…
「…あれ? ……まだ骨があるぞ…? …んん? なんだこれは…?」
そこには確かに未だに骨が存在していたが、前とは違うものがあった。
「なんだこの真っ黒な骨は……?」
そう、俺の白く美しかった骨が、今では日光が当たった所が漆黒の闇のように真っ黒に染まっていたのだ。
なぜ黒くなったのか分からない。だが確かに日光に当たっても痛くないのだ。
試しに右腕を日の光に差し出す。
「うわっちぃぃいい!!」
試しにしては痛すぎるが、右腕ではまだ耐性は得られてなかったのだ。
どうなってると思いステータスを確認するが、特に変化は見られない。
だが確かに俺の左腕の骨は真っ黒に染まっているが、脆くなっている訳でも動かせない訳でもなく、日の光に照らされても痛くなく、むしろ光が反射して美しい闇色を放っていた。
(これはやはり日光に焼かれた所が、部分的に耐性を得たという事だろう)
だがなぜ真っ黒に染まったのかは分からない。しかし確かに耐性を会得しているはず。そうじゃないと説明が付かない。
ならば……
俺は意を決して弱気になる前に衝動的に一気に洞窟の外に走り出していた。
走り出した先は木の影がなく日光が遮られない場所だ。
そこへ脇目も振らずに高速で向かった。
「ぐぅぅううう!!! 全身は無理だこれええぇええぇぇええ!!!」
勢いよく飛び出したはいいが、俺はあまりの激痛にぶっ倒れそうになり一瞬でギブアップした。 そして洞窟に戻ろうとしたが、足がもつれ倒れそうになるのを必死に立て直す。
俺は呆気なく激痛に完全に負けてしまったのだ。
だが戻ろうにも全身に灼熱が纏わり付いてるかの如く激痛に震えており、すでに立っていられない。
俺は痛みから逃れるために地面に転がり回る。 だがそんな事ではこの地獄は終わらない。
まるで永遠に地獄の業火に焼かれているかのようにひたすらに身体を焼き焦がしてくる。
俺は意識も失いかけながら、早くこの状態を終わらせてくれという気持ちになり、朦朧とした意識の中で、残っていたエリクサーを全身に振り掛けた。
それが止めとなり、身体から大量の煙が立ち上り目の前が真っ白に染まった。
そして俺は意識を失った。
意識を取り戻した時には俺は何をしているのか分からなかった。
(…こ……こは……? ……どこ……だ?)
徐々に意識が覚醒していき、自分が地面に横たわっているのが分かった。
どうして俺はこんな所で寝てるんだ?と思いながら立ち上がる。
(あれ? ここはどこだ? ……洞窟……じゃないよな?)
辺りを見渡すがどうも樹木が生い茂っており、外にいるような気がした。
そこで俺はハッとした。そうだ!俺はどうなったんだ!?と自分の身体を調べてみると…
(おおぅ? 全身が骨だけに……)
今まであった肉体が消えており、そこには骨のみとなった身体があった。
そしてそれは異様なまでに真っ黒に染まっており、全身が漆黒の骨と化していた。
(どうなったんだこれは…? やはり耐性を得たという事でいいのか……?)
触ってみるがやはり炭化して脆くなっている訳ではない。
どうなったんだといくら考えても答えは出ない。だが確かに俺は日の光を浴びている。
その事実に少し呆然とするが、そこでふと気づく。
そうだ、俺は生きている。この世界でまだ生きている。
その事に俺は歓喜の声を上げていた。
だが骨になってしまったことで声が出ず、カタカタとなるだけだった。
それがひどく懐かしい気がしてそこから更に笑い続けた。
(あまりの痛さに意識はなくなったが、こうして生きているという事は賭けに勝ったという事だろう)
その証拠に上を見上げると木々の間から日の光が差し込み、俺に降り注いでいた。
光を浴びてももう痛くも痒くもない。これはと思い耐性のスキルが付いていないかステータスを確認してみた。
すると…
(……おお? …特に増えてないか…? ん? なんだ?)
光耐性は出来ていなかったが、進化した筈の種族が変わっていた。
(おかしいな…確か俺は血剣屍喰鬼・亜種になったと思ったんだが、今だと血剣屍喰鬼・珍種になってるぞ?)
確かに亜種だったと確認した筈だ。だが今では珍種になっている。
(それにしてもなんだよ珍種って……)
そう思いながら種族を見つめているとメッセージが出てきた。
【血剣屍喰鬼・珍種は光の耐性を会得するために、真っ黒く変異した珍しい個体。エリクサーの効果により骨は光の完全耐性を、肉体は中程度の耐性を獲得しました。】
そのように目の前のメッセージが伝えてくる。
(エリクサー……腕も身体もヤケクソで振り掛けたあれか……だが結果的に耐性を得られたという事か)
そこで気付いた。もしエリクサーがなければ耐性なんて得られなかったのではと……
思わずその事実に背筋がゾッとした。
危なかった……これは己の幸運に感謝するしかない。
エリクサーなんてダンジョンの上層部でそうそうに出る物じゃないし、それを骨を溶かすために振り掛けようなんて普通は思わない。
様々な幸運が俺をこうして生かしてくれている。
俺はまだまだ生きていていいんだと実感した。
ならばと今は肉体を取り戻そうと待ってみると、いくら待っても再生される兆しがない。
なぜだ? と思っていると魔力が空っぽになっていることに気付く。
もしや魔力を全て使い切って耐性を得たのか? そうだとしたらもし魔力が足りなかったら…
そんな可能性を想像して、またもや背筋に怖気が走った。
試す前に魔力を回復しといて良かった。やはり何かをする時は万全を期すのが良いということだな。
本当に俺は幸運によって生かされているだけなんだと実感した。
ならばこれからは幸運なんかじゃなく、自らの力で全てを勝ち取ってやる!
俺は決意を新たに再び暗い洞窟に舞い戻っていった。
当初に考えていた設定をようやく書けました。
一番最初の設定はスケルトンが日光を浴び、黒く焼かれて耐性を得る。
これだけでした。 それを色々と膨らませて書いています。
次の話で第一章完結です。
第二章からは仲間が増えます。 多少なりともダーク路線も必要かなと思うので少し重い話もありますが、お楽しみ頂けたら幸いです。