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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

言葉の足らないお姉さんと、それを愛するヤミ少女

作者: よしどら

初めに彼女に出会ったのは、小学三年生の頃だった。

夏休みの頃に図書館で勉強をしていた私は、宿題を全部終わらせてから図書館から自宅に帰ろうとしていたのだが…


「いたっ…や、やめて…!おにんぎょうさん、かえして!」

「やーいやーい!この人形はお前と同じくらい不細工だな!」


知らない少女と少年が、私の大好きなキャラの人形を奪い合っていた。

本当なら無視をする気だったが、流石に好きなキャラを貶される程嫌な事は無い。

そんな事を考えながら、私は近くにあった木の棒を持って少年に対して歩き始めた。


「…おねがい、かえして!」

「ふん。悔しかったら取り返してみろ…って…」


少年が私の方を見つめて、少しだけ怖がった様な表情を浮かべた。

…まぁ、確かに自分の身長よりもかなりでかい人が居たら怖がったりするか。

そんな事を考えながら、私はゆっくりと少年を睨み付けた。

大好きなキャラを貶した罪は重い。


「な…何だよ…」

「…(人形のキャラが)可愛いじゃん」

「……っ!お前には関係ないだろ!?」

「…なんで?私も(その人形が)可愛くて大好きなの。もしこれ以上貶したら…怪我するだけじゃ済まないよ?」


そう言いながら持っている木の棒を振り回せば、少年は少しだけ困った様に少女を見た後に…人形を私に対して投げつけた。

…木の棒を適当な場所に放り捨てて、その人形を両腕で捕まえて微笑むと…少年はべっー!っと舌を出した後に逃げ出す。

それを見て私は呆れた様な表情で少年を見た後に…溜め息を吐いてから目の前の少女に人形を渡した。

少女は頬を朱くしながら小さくゴニョゴニョと呟いた後に…ペコリと頭を小さく下げた。


「…ほら。今度は奪われない様にしなさい」

「……あ、あのあのあの!」

「ん?」


少女が私の手を握り、急に真剣な表情でこちらを見つめた。

それを見て私は小さく首を傾げた後に…私の大好きなキャラの人形を見て成程と心の中で呟いた。


「お姉さんは、どうして好きになったんですか!?」


その言葉を聞いて、やっぱりその通りだったとしたり顔をする。

それを見た少女は少しだけ怖がるが…私は特に気にせずに喋り出す。


「…一目惚れかな。顔とか見た時に…この子だっ!って思って」

「そそそ…しょうなんでしゅか…」


そう言いながら私は、人形に対して微笑んだ。

それを見た少女は恥ずかしそうに視線を左右に向けた後に…私の方を見てまたゴニョゴニョと呟きだした。


「…逆に貴女はどうなの?」

「ふぇ?!」

「……(人形の)何処が好きなの?」


そう言いながら首を傾げながら聞けば…少女は少しだけ焦った様に私の身体や顔を見た後に…更に顔を赤くした。

耳まで真っ赤なのを見て私は周囲を見ると…アスファルトに陽炎が立っているのが分かり、ゆっくりと彼女の手を掴んだ。

その瞬間少女はビクリと身体を跳ねさせたが…特に気にせずに自分の家に向かって歩いていく。


「ひゃわっ!その、い…一体どうしたんでしゅか?!」

「…どうしたって、貴女の顔が真っ赤だから私の家に連れて行くの。申し訳ないけど、私は住所覚えてないから送り迎えして貰う場合は私のお母さんに聞いてね」

「……ふ…ぁぁ…」


そう言いながら私は鉄の門を開け、手が焼ける様な感覚を感じて思わず顔を顰めた。

…そしてそのまま郵便ポストの中に入っている鍵を取りつつ、ゆっくりと鍵を開けて玄関に入った。


「ただいまー。お母さん、居る?」

「…お、お邪魔します…」


小さいのにちゃんと挨拶が言えるのが分かり、私は少しだけ見直した。

かなりのあがり症?みたいだったから言えるのかどうか気になっていたけど…なんて考えつつ、私は靴を脱いで手洗いうがいをし始めた。

…少女がチョロチョロと付いてくるのを見つつ、私は洗面台に届く用の台を持ってきてからキッチンに向かって走った。


「ただいまー」

「おかえりなさい。宿題は終わったのかしら?」

「うん。そうそうお母さん、知らない少女の顔が赤かった」


その言葉を聞いたお母さんが少しだけ驚いた様な表情でこちらを見つめてきた。

…それと同時に洗面室から音が聞こえ、私は溜め息を吐きながらゆっくりとお母さんの方を見た。


「…塩飴とか、あったっけ?」

「……ちょっと待ってね。ポコリとかアカエリアスとかあったかしら…」

「うーん…お茶しかなかった気がする」

「…その子はお母さんと一緒に居なかったの?」


その言葉を聞いて、私は少しだけ考えた後に…首を振った。

それを見たお母さんは少しだけ困った様な表情を見た後に…火を消してから私に目線を合わせてから喋り出した。


「…少しだけご飯の時間遅くなっちゃうけど、構わない?」

「うん。もしあの子が食べてなかったら私の分食べて貰っても良いよ」

「…雪は夏になると食欲無くすわね…」

「冬生まれの雪だからね」


私がそう言いながら微笑めば、お母さんも嬉しそうの笑った後に私の頭を撫でてくれた。

…その後に私はリビングから自分の部屋に行きつつ、今日終わらせた宿題を仕舞う。

そしてそのまま着替えずにベッドに転がれば…心地よい眠気がやってきた。

このまま睡魔に負けても良いかな…なんて考えるのと同時に、扉を静かに開ける音が聞こえて思わず目を開けた。


「…あ、あの」


先程まで洗面室に居た筈の少女が扉を開けてこちらを見ていた。

…そして思わず時計を見つめれば、部屋に帰って来た時間から約十分程時間が経っていた。

それを見て溜め息を吐きつつ、私は首を傾げた。


「何か用…?」

「え、えっと…あっ!この人形は…」


指を差しながら喋ったその一言を聞いて、私は指を差された人形を見つめる。

…そしてそのまま自分の手に持っていた人形を見つめるのを見て、少女の持っていた人形と同じ時期に発売した人形を私も自分の手に取った。


「…い、一緒ですね」

「そうだね。私は(人形が)大好きだから、(同じ人形好きとして)とても嬉しいな」

「……は、はい!私もとっても嬉しいです!そーしそーあいです!」


その言葉を聞いて意味が違うと思うが、身長的に私よりも下の年齢だろうと考え直す。

…しかしそれをしった理由は分かるから、もしこの人の両親に出会ったら子供の前でイチャ付かない方が良いと言おうかな?


「…えへへ…」


幸せそうな表情をしてるならそれで良いかと思い、私は面倒くさくなって考えを放棄した。

…そしてゆっくりとベッドに転がると、少女もそれに習って私のベッドにダイブをした。

そのまま匂いを嗅ぐ様な息遣いが聞こえ、私は顔を顰める。

と言っても怒っているのは目の前の少女ではなく、この子を育てた両親だが。


「……」

「…んっ…お姉さんの匂いします。…………安心しちゃいます」

「…そう」

「お姉さんはどんな色が好きなんですか?」

「……黒、次に好きなのが白」

「因みに歯ブラシの色は何色ですか?」

「緑」


その質問居るかと思いつつ、私は思わず首を傾げた。

…だけど目の前の少女には重要な質問だったらしく、今度は私が何時も使っている枕を抱きしめて匂いを嗅ぎながら真面目な表情でこちらを見つめた。

……この少女、もしかして安心する為に匂いを上書きしてるんだろうか?

私の使ってる道具がどんどん彼女の匂いに変わりそうだと思いながら見つつ、私は諦めた様な表情で少女を見つめた。


「…一途に恋する人と、色んな人に恋する人はどっちが良いですか?」

「……?そりゃ一途に恋する方だけど」

「愚問かもしれませんが、女の子同士でも恋愛は成立すると思いますか?」

「互いが愛し合っていて、周りの罵声を聞かないのなら成立するんじゃない?」

「何時もは何をしてるんですか?」

「図書館で勉強か読書。後は暇な時間を使って寝たりとか」


少女は質問をし続けながらも、枕の匂いが消えた事に安心したのか今度は私を抱きしめて匂いを嗅ぎ始めた。

私は諦めて放置しつつ、それでもこんな状況にしたこの少女の両親を怨み続ける。

その瞬間に頭に小さな痛みが走った気がするが…その違和感を探そうとする前に少女からの質問が飛んできた。


「…私の事はどう思いますか?」

「一人の女子として好き。でもちょっと不思議な子だとは思う」

「……私もです!」


その言葉を聞いて、私も不思議な子として見られているのかと溜め息を吐いた。

…それを見た少女が少しだけ困った様な表情でこちらを見つめるのと同時に…少女は私の匂いを消し切った事に満足感を覚えたのかゆっくりと離れた後に…小さく一礼をした。


「……あはっ…お姉さん大好きです」


そんな不思議な一言が嫌に耳に残りつつ、私は呆れた様な表情でもう一度ベッドに転がった。

それを見て興味を無くしたのか、ゆっくりと私から離れた少女は部屋から出ていき…遠くの方に歩いていった。

…足音が遠くに行ったのを聞いてゆっくりと起き上がりつつ、私は溜め息を吐いてキッチンに戻る。

キッチンにはお母さんが料理を作っている事から、どうやら少女の待遇は決まったらしい。


「おや起きたの?」

「…起こしても良かったんじゃない?」

「いやいや。冬眠ならぬ夏眠(かみん)を取ったのかと思って」


その一言を聞いて少しだけ上手いと思いつつ、ゆっくりと冷蔵庫に入っている材料を確認した。

…それを見て少しだけ嬉しそうに微笑みつつも、お母さんは困った様な表情でこちらを見つめた。


「…あの子の親だけど、丁度休みで連絡が繋がったわ。今から向かってるらしいけど…どうする?一緒に遊んできても良いのよ?」

「……遊ぶ事よりお母さんのお手伝いをしたいから」

「あら。自慢の娘ね」


その一言を聞いて、私は思わず頬が緩んだ。

…それを見たお母さんが嬉しそうに微笑みつつ、でもと前置きをしてからゆっくりと私をキッチンから追い出した。


「お母さん?」

「申し訳ないけど後は煮込むだけだから。今日のお手伝いは終了しました」

「…むぅ」


その言葉を聞いて、私は口を尖らせると…お母さんは少しだけ困った様な表情でこちらを見つめた。

…そしてゆっくりと私の方を向いて、身体をビクリと跳ねさせた。

それを見た私は首を傾げてから後ろを振り向くと…其処には先程の少女が居た。


「…お母さん、どうしたの?」

「ああ…えっと、やっぱり雪以外に子供が居るのは不思議だと思ってね」

「何それ。私は妹とか欲しいんだけど…」


そう言いながら苦笑すれば、お母さんも苦笑して私の頭を撫でた。

…そしてそれと同時に家のチャイムが鳴り、私はお母さんに小さく頷いてからインターホンの受話器を取った。


「どちら様ですか?」

「えっと、此処に来た春の親です…雪ちゃんで合っていますか?」

「はい。そうですが…えっと、お母さんは料理中で手が離せないので私が向かいますね…大丈夫だよね?お母さん!」

「うん。お願いできる?」


その言葉を聞いて私は小さく頷きつつ、ゆっくりと少女…春の手を握って玄関に向かっていった。

…その時にポケットに違和感があったが、私は気にせずに春を連れて玄関の扉を開けた。


「こんにちは雪ちゃん」

「こんにちは…えっと、この子が春ちゃんで合ってますよね?」

「うん、合ってるよ。もしかして遊んで貰っちゃったかな?」


その言葉には曖昧に微笑みつつ、大人しく私の手を握ったままの春を春のお母さんの前に差し出した。

…私はさっさと部屋で眠りたいという想いが通じたのか、春は私に小さくお辞儀した後に…春のお母さんの手を握って帰っていった。

春のお母さんは何度もお礼の言葉を言って、そして何時かお礼をしたいと言ってくれたが…それを断った。


「……」


私としては唯家に避難させただけだし、本来なら無視をする予定だったのだから感謝される筋合いなんて無い。

だけど春のお母さんにはそれが好印象だったらしく、私の頭を撫でながら何度もありがとうと言ってくれた。


「……」


玄関の鍵を閉め、もう一度外に出てしまったからと洗面室に入って手洗いうがいをして…鏡の前に置いてある歯ブラシ入れが視界に入った。

…其処には私が使っていた筈の歯ブラシが無くなっており、新品の歯ブラシが上に置いてある。


「…そういえば毛先がボロボロになってたから買い替えるってお母さんが言ってたっけ」


そう言いながら私はゆっくりと新品の歯ブラシを開けた後に、歯ブラシ入れに差しておく。

…そしてその瞬間に私はお母さんからご飯に呼ばれ、ゴミを分別した後に急いで向かっていった。


--------------------


「…んっ」


そんな永い夢を見ていた事を思い出し、私はゆっくりと起き上がる。

…そして視界に入って来た大量の陽射しを浴びつつ、私は意識を覚醒させた。

此処は…私が何時も居る屋上か。


「……」


結局あの後、私が中学校の入学式終わりにお母さんが殺されてしまった。

…轢き逃げだったらしく、死体は見るも無残な状態で…私はお母さんの死体を見る事が出来ずに葬式に参加をした。

葬式の時は皆を信用出来ず、唯一信用出来たお母さんが死んだ瞬間に……私は溜まっていた涙を流しながらこれからどうしようかを考えていた。

その時に私の寝具一式から私以外の匂いがして、そのまま感情のままにあの少女…春に言ってしまったのだ。


「…あれが失敗だったのか。ううん、今も高校に居る事が出来るんだから成功ではあったんだろうけど」


春は唯、私の事を真摯に受け止めてくれて…そして私を暖かく包み込んでくれた。

泣く事もせず、唯私の背中から腰を撫でてきた春をどうする事も出来ず…私は中学校を辞めて働こうかと言おうとした時に…


-任せて!私が絶対何とかしてあげるから!遺言書とかで遺産は全部雪ちゃんが引き継ぐ事になってるし、住む場所は私がママに交渉するから!


あの時の春の言葉を忘れる事は出来ず、私は今でも春に対して頭が上がらない想いだ。

…最も春からしたら大好きな雪ちゃんを救う為なら当たり前だから…なんて言ってくれたが、それでも救ってくれた春のご両親…白金一家には頭が上がらない。

そんな私がどうして屋上に居るかと言えば…唯サボっていたからだ。


「…正直私としては働きたかったし、一刻も早く独り暮らしをしたかったからなぁ…」


このまま高校中退になれば働く事が出来るだろうと考えつつ、私は溜めていたバイト代を思い出して頬を緩ませた。

…と言っても、居候の立場でバイトをするのは中々…春のご両親からも最後まで反対されたし、春からは更に反対された。

だからこれは、私の細やかな仕返しだ。


「…死んでも遺産は彼らに渡る…のかな?まぁ多分渡るだろうから大丈夫だろうけど…どうして私は死ねなかったのかな…」


私がそんな独り言を呟くのと同時に、建て付けの悪い扉が音を立てて開き…其処には私と同じ高校生の制服を身に纏った春が私に対して近づいた。

…まただ。心の中でそんな事を呟きながらも、私はゆっくりと溜め息を吐きながら春に対して挨拶をする。


「…どうしたの?」

「いえ。雪お姉さんが今日も授業をサボっていると聞いて連れ戻しに来たんです」

「……貴女も授業あるんでしょ?行ったらどう?」

「雪お姉さんが居ない授業なら、私は行く価値なんて微塵も感じませんし…ああ、後虫が一匹でも付いたら大変ですから」


その言葉を聞いて、私は少しだけ呆れた様な表情を浮かべながら春に対して話しかけた。


「別に虫なんて一匹でも十匹でも払えるから安心してよ」

「…嘘です。それだったら雪お姉さんはどうして先輩に話しかけられていたんですか?」

「先輩?……ああ、あの人も(人形が)好きだったから、一緒に盛り上がったんだよ」


私のその言葉を聞いて、春の眼が鋭くなり始めた。

私はそれを見て少しだけ首を傾げながらも、ゆっくりと先輩との会話を思い出した。


「でも先輩、アレを見せてくれるらしくて。私も実物見るのは初めてなんだよね」


その言葉を聞いた瞬間、ガリッっと歯がズレる様な音が聞こえ…私はゆっくりと春を見つめた。

…急にどうしたと思いながら見つめると、春は私の方を見ながら…微笑んだ。


「雪お姉さんは、やっぱり私が居ないと駄目なんですね。後ちょっとで汚れちゃう所でした」

「…?」


急になんだとは思ったが、口を挟もうにも情報が足らないので諦めた。

…そして春は何度も何度も微笑み、そして胸ポケットに入っている何かを触った後に…ゆっくりと寝転がっている私に被さる様に身体を密着させ…そして匂いを嗅ぎ始めた。


「…その癖、未だに治んないね」

「癖だから仕方ないんです。安心する為の癖ですから」

「いい加減治して欲しいかな。教室でされても困る」


そう言いながら私は溜め息を吐くと、春は考えますとだけ言って…私の長い髪の毛をゆっくりと撫で始めた。

…そしてそのまま毛先まで撫でた後に、私の髪の毛をまじまじと見つめる。

その時に偶に口に髪が入る様な感覚があるが、不快になったりしないのだろうか?


「んっ…ふ…ぁ……んっ~!」


と言ってもこの状態の春には話が通じないが。

…私の髪の毛を撫でたり見たりするだけで花咲く様な笑顔を浮かべる春を見つつ、私はゆっくりと空を見上げた。

結局私のお母さんを殺した相手も見つかってない、そしてお母さんの死体が見つかる事も無かった。

だけど死体を見た人が喋っているのを聞いた所では、両目と両手が欠損していたらしい。


「…」


どうして犯人はそんな事をしたのだろうと思いつつ、私はゆっくりと春の頭を撫で始めた。

…最初は嫌だったそれも、今では普通に出来るくらいには慣れてしまったと言っても良いのだろう。


「ああ。雪お姉さんを撫でるのも、撫でられるのも私だけです。これは絶対の権利なんです」


その言葉を聞いて私は少しだけ苦笑しながらも…とある子供を思い出した。

…過去の春の様な少女が居た私は、その子の頭を撫でながら家まで送ったのを思い出した。

あの子は今元気にしているのだろうか…そんな事を思いつつも、今では調べる方法も無いと諦め、ゆっくりと立ち上がった。

その瞬間に春の口に入っていた髪の毛が引っ張られ、何十本単位で抜けていった。


「…いった…って、汚いから早く捨てたら?」

「此処で捨てたら流石に大変な事になっちゃいそうですから、後で捨てておきますね」

「……そう?」


その一言を聞いて小さく頷いた春を見つつ、今度はベタベタと私の身体を抱きしめてから触り始めた。

…その影響で汗を掻き始め、汗を見つけた春が涼を取る為か汗に対して顔を近づけた。


「…ぁぁ。夏限定…ううん。冬でも炬燵の中で出来ますが…それでも自然発生は此処だけの天然物です…」

「……?意味不明な事言ってないで…ってああ」


私の一言を聞いて、今度は春が首を傾げた。

私は思い出した事を春に確認するべく口を開き、質問し始める。


「そういえば最近私の下着とか色々無くなっちゃってるんだけど、春の洗濯物の中に混じったりしてない?」

「……そうですね。気のせいなんじゃないんでしょうか?」


そうなんだろうかと思いながらも、私は少しだけ首を傾げた。

…と言っても無くなるのは一時的な事で、二週間位経つと偶に入ったりしているのだが…私としては最近お気に入りの下着が無くなったりして困ったりするのだ。

もし混じってるのなら出来れば返して欲しいのだが…どうやら知らなそうだ。

……私の黒色の下着何処行ったんだろうなと思いながら、私はゆっくりと校庭が一望できる場所に向かう。

それを見た春も私の方に向かって歩くが、その瞬間風が吹き…下着が一瞬見えた。


「っ!この風は結構変態ですね!」

「変態というかなんというか…というか、黒色なんて好きだっけ?」


私がその質問をするのと同時に、春が少しだけ頬を朱くした状態で下着を触り始めている…気がする。


「はい。“この下着は”好きなんですよ」

「ふーん…」


その言葉は少しだけの嬉しさと、蠱惑的な感情が入り混じった様な声で構成されていた。

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