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RE  作者: 28号
前 第一章
8/44

REel


ハーミズの刃はすんでのところで止められた。

強固な特殊な金属で錬成された杖。

この杖の主はこの世界でただ一人しかいない。


「チッ……。」


ハーミズは己の刃を止めた人間を鬼の形相で睨んだ。


「邪魔してんじゃねぇぞ……サクラッ!」


即座にハルバードを引き、瞬間、その刃をサクラに向けた。

サクラもサクラで無抵抗のままではなく、杖でハーミズを威嚇した。


「うちのスタッフに何をしてくれているんだい、ハーミズ・ルナシス。」


サクラは目覚めないトオルを心配するように見た。

トオルが死んでいないことを確認すると、安心したようにため息をつく。


「……睡眠薬か。慈悲があって助かったよ。」


サクラは構えた杖を下ろした。それを見て多少冷静になったハーミズもハルバードを下ろし、しまう。

緊迫した空気が幾らか解消したことにモンチュは少しだけ安堵したようだ。

眉をひそめ、「店内で喧嘩はやめてくださいよ、請求書送りつけるぜ。」とボヤいた後、奥のバックヤードに篭ってしまった。この不安定な空気に耐えられなくなったのだろう。


しばらく沈黙が続いたあと、この張り詰めた空気にしびれを切らしたサクラに問いかけた。


「サクラ、こいつを生かしておくなんてどういう考えなんだ。」


サクラはこの問いに答えない。

ただ軽蔑したようにハーミズを見つめるだけだった。


「こいつは明らかに()だろう。生かしておくなんて気が狂ってるぞ。」

「野蛮だね、ルナシス。己の()を過信するな。」


ハーミズはその言葉に腹を立てる。まるで己の傲慢を見破られたようで、強い恥を感じたからだ。


「ふざけるな!オレサマは最強なんだぜ。何せ“力”を持っているんだからなぁ。この力の責任は取らなきゃいけねぇ。だからこいつを殺す!殺すのはオレの使命だ……!そうだろう!?」


サクラはハーミズの言葉を噛み締めた。

確かに、力の責任はある。“滅び”の運命に抗うのは我々力持つ者の使命だ。それは確かにそうなのだ。


しかし、トオルはまだ“滅び”に加担する確証がない。

トオルを殺すのは間違っている。

判断が早すぎる。


トオルに殺意を向けるハーミズにサクラは今一度強く咎めた。


「見誤るなっ、ルナシス!」


そしてこう続ける。


「彼の意思は生きている!」


サクラの強い叫びに、ハーミズは先程のトオルの表情を思い出した。


サンドイッチが好きだと言い、子どものようにそれを頬張る彼の表情。

あの一瞬の出来事だったのに、今でも手に取るように彼の表情が目に浮かぶ。


そうだ。今ここで危険の芽を刈り取ったとして。

彼の意思はどこにある?


「……。」


殺意が削がれたハーミズの様子を見て、サクラはようやっと満足に呼吸できるようになった。


「頼むから性急な判断は止めてくれ。

君一人が先走ってもどうにもならないことさ。」

「……そうだな。すまない。」


ハーミズは完全に殺意を無くした。

己の性急な判断のせいで、無実の人を殺す所だった。自身の過ちを深く反省した。


「見たところ……トオルは覚醒すらまだの子なんだ。今は見守るのが吉。わかったね?」

「はあ……。そうだな。」

「本当に、血迷って毒薬を仕掛けていなくて良かった。」


サクラは眠ったままのトオルを抱きかかえる。

ギルドに戻るのだと言う。

ハーミズは気まずそうに一口だけワインを含んだ。


「じゃあ、また会合で。ルナシス。」


サクラがシェイドリリーを後にする。

ハーミズはただそれを見送った。

冷たい空気が漂う空間。居心地の悪さを感じ、ハーミズは苦虫を噛み潰したように顔をしかめた。


「……くそっ。」


“滅び”か“救い”か。彼を見極めなければならない。


ああ、でも……なぜだろう。

そんなことはどうでもいいと思っている自分がいる。

今もまだ、彼の笑顔が脳から離れない。

目の裏に強く焼き付いている。


ハーミズは唇を強く噛み、残ったワインを一気に飲み干した。


====================


窓から力強い太陽の光が差し込む。

ここは俺の自室のベッドの上である。


……清々しい朝が来た。

希望の朝……かどうかは知らないが、澄んだ空気が心地よい朝である。

顔を洗い、歯を磨く。


「……あれ、俺、昨日何してたんだっけ。」


どうにも昨日の記憶が曖昧である。

夜の帝都でチンピラに絡まれて、それから謎のローブの人物に合い、とても美味しいサンドイッチを食べた気がする……。

気がするような。食べたような、食べていないような。


「うーん……おかしいな。疲れすぎて記憶が不安定なのか。」


違和感を覚えつつ、身支度を済ませようとする。


そう言えば、昨日「制服は目立つ。」と忠告してくれた人がいたような……いなかったような……?


「やっぱり何かおかしいよな?」


その時、誰かが俺の部屋をノックした。


「おっはよーう!朝だよー!」


朝から非常に元気な声である。

聞き覚えのある声に心を踊らせながら扉を開け、声の主に挨拶した。


「おはよう、アンディラ。」

「おはようトオル!よく眠れた!?」


アンディラは嬉しそうに微笑みながら、俺がこれからすべきことを説明してくれる。


「トオル、今日からお仕事だから、まずはユニフォームに着替えてね!タンスに沢山ユニフォーム入ってるはずだよ。」


アンディラの案内で俺はユニフォームを手に取った。

シャツにベスト、丈夫な生地のズボンにブーツ。リボンタイをつけてユニフォーム着用完了だ。


「うんうん、よく似合ってるね!」


鏡台で自身の姿を確認したが、正直ユニフォームに着られている状態な気がする。まあユニフォームなんて大方こんなものである。


「じゃあこれから朝食だよ。ご飯食べてないよね?一緒に1階に行こう!」


どうやら朝食はギルドが用意してくれているようだ。これはありがたい。

昨日は夕食で酷い目にあったから……。


「ん……?」

「どうしたの、トオル。」

「……いや。なんか……。」


何か大切なことを忘れている気が、する。

思い出そうとしても喉に突っかかったようで思い出せない。


「大丈夫?きっとお腹空いているんだよ。

ご飯食べれば元気になるよ!」

「ああ、それもそうだな。」


きっとそうだ。何かあったとしても今元気なのだから大丈夫!飯を食べれば元気になる!


俺とアンディラと朝食を食べに1階に降りていった。


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