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RE  作者: 28号
前 第二章
31/44

仮面の下には

【注意】少々過激な表現があります。


リモートコントロールは完全に成功しているらしく、俺とアンディラは子どものように城の回廊を走り回っていた。


「うっひょー!!」

「すっげぇ、トオルみてよ!ほら!」


アンディラは回廊で談笑している兵士たちの頭に指をのっける。


「つの。」

「ぶふっ……。」


普段ならなんて事ないギャグなのに、アンディラの真顔と現状のせいで思わず吹き出してしまう。


「この魔法すごいねー。本当にボクたちのこと見えていないんだ。」

「ほんとにな。すごいよな。」

「なんで他人事なのさー!?」


実感がないから他人事なのは仕方がない。

正直、リモートコントロールの力だって本当はどういうものなのかわかっていないのだから。


「まあ、いいや。今日はこの城に遊びに来たわけじゃない。二人を見つけて何をしているのか探ることが目的だ。」

「そうだった。忘れてた。」


俺らは広い回廊のど真ん中で立ち止まる。

……これだけ堂々と活動しても誰にも気づかれない。非常に贅沢な気分だ。


「アンディラ。二人がどこにいるのか検討つかない?」

「うーん。サクラさんは会議してると思う。そろそろ復興も終わるし、トゥヌスをどうするか考え始める頃合いじゃない?ヘイディズの偉いオッサン達と次の一手について考えてんじゃないかな?」

「なあサクラさんって何者?国の重鎮?」

「そうだね。軍の参謀だよ。」

「えぇー!?」


軍の参謀……ということは、あの人はヘイディズのブレーンということか!?俺はそんな偉い人の部下だったのか?


途端にサクラさんについて考えたくなくなる。

なんて人が近くにいるんだ。というか絶対前世はサラリーマンのオヤジなんかじゃない!信じたくない!


俺は咄嗟に話題を変えた。


「じゃあハーミズは?」

「さあ、わからないね。」


アンディラは即座に首を振った。


「トオルの魔法でわかったりしないの?」

「……魔法を使いこなせていたらわかってたはずなんだけど。スマン、流石にわからない。」

「謝らないでよ!こちらこそトオルに頼りすぎだね。ごめん!」


ハーミズはギルドメンバーかつお触り禁止案件である。そんな人がこの城で何をしているのだろうか?そもそも、ハーミズがこの城にいるかどうかもわからないが……。


その時だった。


「てめぇら、ふざけんじゃねえぞ!」


聞き覚えのある怒鳴り声が聞こえた。


「ねえ、アンディラ。この声って……。」

「うん。この品のない声はヤツだよ。」


運が良いのか悪いのか。

俺たちは無事にお目当ての人物を見つけられたようである。


「どうする……?」

「うーん。」


鬼気迫る声に躊躇いが生じる。

間が悪いのは確かだろう。


ズキン


「うっ……。」

「ゲッ、タイムリミット!?」

「そう、みたい。」


アドレナリンのおかげで身体の負担を感じていなかったが、負担は負担。そろそろ限界みたいだ。


「仕方ない!また屋根に昇ろう。踏ん張りなよ、トオル!」

「わかった!」


魔法が切れる前に俺たちは急いで屋根に昇る。


「よいしょー!」


アンディラの助けもあり、俺たちは何とか屋根に昇ることができた。それと同時に魔法が切れる。


パンッ


膜が割れ、核が俺の元から離れていく。


「ど、どう?大丈夫?ギリギリセーフ?」

「ああ。ギリギリセーフだ。」

「良かったぁ!」


俺たちが城に侵入したことがバレたらどんな罰が待っているのだろう?王宮に侵入した罪なんて、最悪死刑かもしれない。

そう思うとバレなくて本当に良かった。


「……こうなるとサクラさんを見つけるのは今は難しそうだね。ルナシスを覗き見しよう。」

「賛成。」


俺らは覚悟を決め、ハーミズの声がした方に向かった。


====================


ハーミズがいたのは兵舎近くの訓練場だった。

広大な空間に数百人の兵士がズラリと並び、ひたすらに木剣を素振りしている。


……動きから見るに、これは全員素人か?


「てめぇら何サボってんだ!」


まさに怒号。だがそこに感情はない。

ひたすらの殺意。それしかない。

遠くから見ていてもその殺意の激しさが伝わってきて身体が震える。ハーミズは例の通りフードを被っているのに、あの迫力である。非常に恐ろしい。


「なるほどねぇ。ハーミズの仕事は新兵育成だったのかー。」

「新兵?」

「そそ。」


アンディラ曰く、先日の騒乱で大勢の兵士が殉職してしまったため、急いで戦力を動員する必要があるらしい。


「せめて不足分は補填しないとって考えなんだと思う。」

「……。」

「サクラさんはハーミズが新兵の指導をしていることを知ってほしくなかったんだよ。信用されてないってことじゃなくて、そういう事実は一人でも知っている人間が少なくあってほしいっていう意図だと思うんだ。」

「……確かに。ハーミズ・ルナシスを重用しているっていうことは、国民は良く思わないかもな。」

「ルナシスは危険人物だしね。」


それはともかくとして。

見る限り、招集された新兵は誰も彼もが訓練一つ受けたことがない素人だ。木剣の素振りすらまともにこなせていない。それどころがやる気をなくして座り込む兵士もいる。


「……あちゃあ。こりゃ酷い。

あの角のブロック、サボりはじめたよ。」

「露骨すぎんだろ……。もっと上手くサボれよ……。」

「そういう問題ではない。」


上から見ていると余計に際立つ。

なんて酷い有様だ。ハーミズの怒号も頷ける。


ハーミズが突如、彼愛用のハルバードを構え、サボっていたブロックの兵士らに向けて投擲した。


「……ん!?何、なんであの質量の武器を投げれんの!?こわっ!」

「ハーミズが怖いのは、デタラメに投げてる訳じゃなくて、しっかり狙って投げていること。そして、その投擲したハルバードに追いつけるほど素早い移動が可能ってこと。」

「あんなバケモンと組手してんの?」

「まあ、うん。」

「キショい。怖い通り越してひたすらキショい。ルナシスもトオルもキショい。」

「それ貶してる?貶してるよね?」


ハーミズは見事投擲したハルバードをキャッチ。サボっていた兵士諸君に処刑宣告もとい喝を入れる。


「てめぇらゴミ共が手を休めるなんざ五億年早いんだよ!使えねぇウジが!」


空間一体に響き渡る。もはやエコーすらかかっている。


次々と疲労で倒れたりサボっている兵士たちを物理的に制裁していく。


「手を休めるんじゃねえ!」


ゴッ


「ふざけんじゃねぇぞ!何腕止めてんだ殺すぞ!?」


ガスッ


「何寝てんだよ、まだおねんねの時間じゃねえぞ!腕を止めるな!」


ゴッ ゴッ


素人に対する指導とは思えない。

畏怖と圧力。

圧倒的な恐怖。


これはもはや訓練ではなく力による一方的な虐待なのではないか?


疲労で吐瀉物を撒き散らす兵士もいる。そういった兵士に向かってもハーミズは制裁を加えている。


「クソッタレ、甘ったれんな腕を止めるな!」


ゴッ


あまりに俺の知っているハーミズと違う。

いや、このハーミズを知っている。


俺に冷えた殺意をむけたハーミズだ。


「なんか、怖いな。」

「うん。悔しいけど、怖い。」


普段ルナシスを嫌うアンディラですら同様の感想を述べた。あまりの鬼気迫る様子に冷や汗が垂れる。


「ボクたちと話すルナシスはもっとバカでアホで子どもっぽかった。でも今のルナシスは全然違う。まるで感情がないみたい。鬼か悪魔そのものみたいだよ。」


顔をしかめ、そう呟くアンディラ。


しかし、俺たちはハーミズを咎める気はなかった。


「けど、間違ってはいないんだよね。」

「あぁ。」


ハーミズはひたすら、“腕を止めた者”に制裁をしている。


戦場において、動きが止まること即ち“死”だ。


疲れようと、痛かろうと、辛かろうと、腕を止めたらすぐそこに死が待っている。

それが命のやり取りであるし、戦争というものである。


ハーミズはどんな状況下にあっても腕を止めないことを身体に叩き込んでいるのだ。


「あーヤダヤダ。やっぱりあいつ気持ち悪いよ。」

「……アンディラ。」

「戦場に出ても死なないように、戦場で身を守る術を教えるために“殴る蹴る制裁をする殺しかける”だなんて、並の人間ならできないよ。いつものルナシスと違いすぎて、なんか、二重人格みたいで……怖い。」

「……。」


今もハーミズは倒れ伏せた兵士を殴り、立たせ、素振りを続けさせている。


俺も心の中では気持ち悪さを感じていた。

それはハーミズにでは無い。


“あの程度、当たり前だ”と思ってしまう自分が気持ち悪いのだ。



殴られて、蹴られて、のたうちまわって、血反吐を吐いて。

そうしてやっと手に入れられる命なのだ。


ニコニコ笑って当たり前のように生きながらえているなんて、そんな甘え許されない。


みんな苦しめ。

そして、死ね。



「苦しくてもなぁ、痛くてもなぁ、お前が疲れて目を瞑って倒れた時点で死ぬんだよ!敵の的になって終わりなんだよ!だから腕を止めるなよ!動き続けろ!止まるな!死に急ぐな!」



今、俺は何を考えていたんだ?


酷く残酷なことを俺は考えていたのではないか?


心臓が、動悸が痛い。


何を、何を、何を考えていた。


わからない。一瞬の空白だ。

だけど、とてつもなく酷いことを考えていたはずだ。


怖い。気持ち悪い。


こんな醜い気持ち、悟られたくない。

俺はどうしようもない吐き気を必死に抑え込んでいた。


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