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RE  作者: 28号
前 第一章
10/44

ブラックな職場


“悪い人”の召集は完全にシステム化されていて非常に効率的に行われていった。


「このスフィアを使って、まずは“悪い人”たちにコンタクトを取る。

念じながら手をかざすとその人を写し出してくれるよ。」


アンディラが大きな水晶玉のようなものに手をかざすと、なんと水晶玉の色がドロドロと濁っていった。そして人の形のようなものを写し出す。


「さて、繋がった。トオル、この人に呼びかけてみて。」


今写し出しているのはバックれ回数二回目の“悪い人”だ。さすがは危険人物。この人もレスラーのようないかつい男である。


「あー、あー。えっと、ジェームズさん、聞こえてます?聞こえてますよね?」


すると水晶玉の中のレスラーよろしくいかつい男がビクッと肩を震わせた。この反応は……明らかに聞こえているな。畳みかけるようにしてさらに声をかける。


「なんで呼び出されているかわかりますよね?

今すぐギルドに来てください。」


するとジェームズは頭を抱え、膝から崩れ落ちた。


「ひぃ、い、い、い、いやだ!ぜってぇに行かねぇ。俺は絶対に行かねぇ……!」

「そうおっしゃられても、そういうキマリです。」

「いやだいやだいやだ!!!」


まるで囲まれた犯人に向かって投降を促す刑事のようだ、と俺は思う。正直、これはかなり疲れる。

アンディラはごねるジェームズを見て嫌悪感を顕にしたため息をついた。


「と、まあこんな感じに素直に応じてくれる人は皆無なんだよね。だから大人しく、速やかに強制的にここに召喚します。」


そしてアンディラがコンコン、と人差し指で水晶玉を叩いた。

すると、なんと空間がゆがみ、そのゆがみからジェームズが現れたではないか。


「この一連のシステムはサクラさんが作ってくれたんだよ。それまでは一々悪い人の所まで直接会いに行ってたんだ。」


怯え震えるジェームズを後目に、アンディラはどんどん“悪い人”たちをギルド内に召喚していく。まとめてシバくつもりなのだろう。


そして“悪い人”リスト全員を召喚し終える。

また一気にむさ苦しい空間に逆戻りだ。


「さーて、全員のお迎えが完了したね。」


アンディラが男たちをギロりと一瞥する。

男たちの様子は三者三様で、怯えて何もできない人もいれば、今にも怒り沸騰のキレたナイフな人もいる。これらを一斉に相手取るアンディラの手腕は尊敬に値する。


「君たちは任務を放棄した罪がある。

その罪を裁く権限がボクらにはあるから、君たちを今すぐ処刑しても良いんだよ。でも、それだと慈悲がないでしょ?だからチャンスをあげる。任務に行きなさい。そしたらこの罪はチャラ。また元の生活に戻れる。良いこと尽くしだ。さあ、任務に行こうか?“悪い人”の皆さん。」


すると怒りが爆発したであろうチンピラがアンディラを怒鳴りつけた。


「はぁー!?ふっざけんじゃねぇ!なんでオレサマがてめぇに従わなきゃならねぇんだよ!任務ぅ?クソッタレ、いい加減にしやがれ!」


チンピラに呼応するようにして何人もが声をあげる。ああ、治安がどんどん悪化していく……。

俺があまりの圧に尻込みしていると、それを目ざとく見つけたチンピラが俺に絡み出した。

おそらくアンディラには勝てなさそうだから、勝てそうな俺に突っかかってきたのだろう。必然ではあるが短絡的でもある。


「てめぇもこのクソアマとグルなんだろう?

クソが……ぶっ殺してやる!それでオレサマは自由になるんだよ!金と宝石を盗みまくて豪遊するんだよー!」

「うわっ。」


やはり、と言うべきか。キレたチンピラが俺に殴りかかった。俺の身体を軽く覆うほどの巨体がいきなり突っ込んできたのだ。多少なりとも驚くのが普通だ。

アンディラの方をチラ、と見ると「お手並み拝見!」とばかりに口元だけ笑っている。


やっぱりこの職場はブラックだ……!


「そいっ!」


呼吸を整え、そして頃合を見計らって巨体をいなす。


「はぁ?てめぇ、避けやがっ……」

「ハッ!」

「グゥッ……!?」


ゴッ


バランスを崩した男のみぞおちに肘をねじ込む。

ここは人間の急所だ。股間を狙われなかったことを感謝すると良い。


「ヒュゥー、やるねぇ!」


痛みで震える男を見て、アンディラが嬉しそうに手を叩いた。良い笑顔である。

俺は呆れたような目でアンディラを睨んだ。


「絶対に、絶対に俺がやるよりアンディラがやったほうが効率が良い!」

「えぇー?でも、これ業務なんだから、トオルもできるようになってもらわないと。」

「俺は一般人だ!」


軽く言い合いをしていると、再び別のチンピラたちが襲いかかってきた。


「チクショーッ!」

「なめやがってー!」

「てめぇー!」


多勢に無勢だ。なぜ皆アンディラを狙わずに俺を狙うのか……!


襲いかかってくる男をまずは避ける。


「チッ。」

「この……!」


避けられた男たちはさらに頭に血が上る。

それ即ち、正常な判断ができていないということ。

喧嘩はどれほど冷静に攻撃を処理するか、いつこちらの攻撃を叩き込むかが鍵になる。

このように、一対多数、更に自分がパワー負けしている時はよりこの傾向が強くなる。


冷静に見極めろ。

チャンスを生み出すんだ!


男の読みやすい攻撃を何回か受け流す。

力を分散させる、または利用し崩す。

崩した巨体を利用する。


「ハァッ……!」


男の巨体と巨体をぶつける。


「ウガッ!」

「グオッ……!」


俺が直接殴るより、この巨体を利用した方がよっぽどダメージが入る。さらに、巨体が目くらましになり絶好のチャンスとなる。


「悪いな、こっちも仕事らしいんでね。」


そのまま僅かにうまれた大きな隙に目がけて強力な蹴りを繰り出す。


ドゴッ


巨体が二つ、完全に沈黙する。

俺に喧嘩を売ったチンピラは残り一人。

その一人は俺がターゲットを自身に向けたことを自覚し、急激に怯え始めた。

俺の見た目に騙されて油断していた、又は弱いと思っていたのだ。この男はきっと、俺に喧嘩を売ったことを後悔しているだろう。

俺は一対多数の構えから、一対一の構えに移行する。


「さて、どうする?」

「あ、ああ、ああああああああぁぁぁ……!!」


今更引くにも引けないのだろう。

目も当てられないような隙だらけのパンチで俺に向かってくる。

アンディラは笑いをこらえることなく、この現状にひたすら笑っている。


パンチの動きの向きを利用し、そのまま男を床に倒す。肩をねじ曲げ、あらぬ向きへと締める。


「ぐぁ、あ、いた、タタタタ……!あああ……!!」

「任務に行ってくれますか。行ってくれますよね?」

「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!」

「そうか、そりゃ残念だ。」


俺はそのまま男の急所をひっぱたき沈黙させる。


ゴギャッ


「ぐぁ……!」


暴漢と化したチンピラの沈静化に成功した。

……正直、非常に疲れた。毎回こんなことをしなければならないのか?と軽く絶望する。


しかし、ここにいる俺らギルドスタッフに反感を持っていたであろう“悪い人”たちの戦意を完全に失わせることもできたはず。

地道にシバいていけば、いつか平和な職場になる……と、信じる。信じないとやっていけない。


「お疲れ様。想像以上にやれるからビックリしちゃった。」

「嘘つけ、ずっと笑ってたじゃないか。」

「驚きすぎて笑ってたんだよー。」


アンディラが暴漢を縄で縛り上げ、怯えた“悪い人”たちに優しく問いかける。


「さあ、任務に行きましょうか、皆さん!」


====================


任務をバックれる人間のパターンは主に二つ。


一つは先程の暴漢のパターンだ。

縛られることを嫌い、ギルドに反感を持っている人物だ。

確かに縛られることは誰だって嫌いだ。しかし、ギルドとはいわば“懲役刑”だ。縛られるには縛られるだけの理由があることを忘れている。

まあ、だからこその暴漢なのだが……、


二つ目は怯えていた“悪い人”のパターンだ。

大体が、遂行が難しい任務に恐れをなしてバックれたパターンである。

ジェームズなどはこのパターンだろう。二つ目のパターンは少々気の毒だが、遂行が難しい任務があてられるのは罪が重い人間だったり、かなり危険な人物だったりするみたいだ。同情の余地はあるが致し方ない。

実際、ジェームズは連続殺人犯である。


“悪い人”の処理が終了すれば、今度は任務が完了したギルドメンバーの手続きをする業務がある。


「え?な、なんでだよ!なんでこんなに報酬がすくねぇんだよ!ちゃんと納品しただろうが!?」

「依頼物の納品だよね?これ、半分壊れてるよね?これで納品するつもりなの?正気?」

「キィーーッ!うるせぇ!黙れ!俺は報酬を貰うんだよぉっ!」

「おだまり!」


横でアンディラの鉄拳が飛び、暴漢が床に倒れ伏している。それを笑いながら見るギルドメンバーら。治安、民度、共に最低の極みである、


任務完了の手続きでも暴れ出す人を沈静化し、しかるべき処罰を下すことも業務の一つ。


「……あの、トーマスさん、納品数サバよんでますよね?」

「……チッ。バレたか。」

「もう一度、お願いしますね。」

「はぁ……、わぁったよ。もう一回な、もう一回。」

「お待ちしていますね。」


暴れない紳士なギルドメンバーももちろんいる。

全員紳士になってくれれば良いのに、と完了手続きを続けていて思った。……ああ、また横でアンディラの鉄拳が飛んでいる。


これが俺の職場か……と憂鬱な気分になるばかりであった。


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