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第86話 追憶 12



 計画を大幅に修正しなければならなかったが、それでも裏切り者である彼らにはまだアドバンテージがあった。むしろ、彼らの成すべきことは残りは媒体である4人を使用することなのだから、あの襲撃が必ずしも失敗というわけではない。



 しかしあの襲撃の最中ならば、容易に事が運べたのも事実。あの混乱の中ならば、離脱するのも容易かっただろう……と、そんな過程をするも意味はない。現在は、実験に使っていたサンプルが外で発見されたこともあってサイラスとクローディアはわずかに焦っていた。そしてそんな最中に、サイラスはある懸念があった。




「エリーについてだが、どう思う」

「エリー? 優秀だと思うけど、まさか」

「あぁ。ユリア・カーティスと接触した。もしかすれば、気がついたのかもしれない」

「……ありえない話じゃないわね」



 二人ともに一番厄介な相手はエリーだと考えていた。あの研究者は優秀だけでなく、勘が鋭い。研究者だというのに、彼女は自分の直感も尊重する。そんな性質は何よりも厄介。それはわずかな違和感にも自分の思考を当てはめようとするからだ。



「……殺すの?」

「殺すしかないな。状況的に、ここでバレてしまえば全てが終わりだ。かなりのリスクを負うことになるが、ここはやるしかない」

「サイラスがやるのはいいとして、誰に罪を被せるの?」

「ユリア・カーティスだ」

「……また思い切ったことをするわね。一気に終わらせる気なの?」

「そうだ。もう時間はあまりない。こちらとしても、状況は最悪ではないが限りなくそれに近い。結界都市にいるのも、すでに時間の問題。さらにはリアーヌ王女は完全な聖人として覚醒しつつある。そうなってしまえば、我々の正体は看破される。すでに賽は投げられた。ここでやるしかない」

「……そうね。わかったわ……エリーを殺しましょう」



 迷いなどなかった。それはただの合理的な判断。殺すべき時期になったから殺す。そもそもエリーを殺すという計画はもともと存在していた。それを実行する時が今になっただけ、それだけだった。



 そしてサイラスの手によって出張をしているユリアが、エリーのいる結界都市を離れた後の状況を見越して……彼らは行動を起こした。




 ◇




「エリーさん、ユリアです」

「あら? どうしたの?」




 それはユリアに扮したサイラス。すでにユリア・カーティスの魔素形態と固有領域パーソナルフィールドは掌握済み。その姿形を彼そっくりに、いや全く彼と同質にするのは今のサイラスにとって容易なことだった。



「……え?」



 扉が開いた瞬間に間髪容れず、手元にあるナイフで胸を貫く。即効性の毒も塗ってあるそれは、触れた時点で死は免れない。そしてサイラスはそのままニヤリと笑いながら、後方に後ずさっていくエリーの姿を見る。追撃はしない。すでに確信していたからだ。もう……エリーは死ぬのだと。



「……ぐ、まさか……そんな……こんなことって……」

「いやぁ、タイミングバッチリでしたね。危ない、危ない」




 そう。エリーはやはり感づいていた。ユリアの存在、そしてその裏で暗躍する自分たちに。タイミングとしてはギリギリだったが、それでも成功した。もう、エリーの死は確定だ。間違いなく、数分後には死に至る。それはまぎれもない事実であった。



「あな、た……だれ?」

「誰って、ユリアですよ。先日お会いしたばかりじゃないですか」

「嘘ね……確かに外側はユリアくんそのもの。でも……中身が違う……う、ごほッ……」

「へぇ……分かるんですね。やっぱり、その特異能力エクストラは危険だ。本当にちょうどいいタイミングで来たみたいですね」

「……」




 元素感覚ディコーデングセンス。それは魔素を知覚する高位の特異能力エクストラ。所有者は、エリーとリアーヌ王女などがいるもその中でもエリーだけは厄介だった。彼女の聡明さと、その能力が組み合わされば相手の本質を看破するなど容易。


 サイラスは彼女が自分の本質を見抜いていることに驚くとともに、安堵していた。やはり……自分たちが運がいいと、そう思っていた。




「さようなら、エリー」




 最期の言葉はサイラスとしての言葉だった。彼は彼女に対して何も思わなかったわけではない。その能力の高さは、魔人から見ても評価できる。そう思うからこそ、彼は彼女に最大限の敬意を払う。と言っても、その死体をみて感情的になることなどないのだが。



(瞳孔の散大、脈拍の停止……間違いない、死んでいるな)



 エリーの死を確認すると、サイラスはユリアの姿のままその場から去っていく。あえてその証拠を残すために、悠然と進んでいく。



 計画はうまくいく。全てがこちらの思うようになっている。サイラスは笑みを浮かべる。この先に待っていることも、また全てこちらの掌の上だ。そう思って彼は進むも、気がついていなかった。彼女が最後に発動した魔法に。魔法の頂点に位置するそれは、未だにエリーしか使用者がいない。彼女もまた、このような状況を想定して誰にも明かしていなかった。



 禁呪秘跡サクラメント



 その魔法により、彼らの計画は大きく崩壊していく。そのことをまだ、サイラスも含め……誰も知る由はなかった。



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