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第69話 The Nature of Truth



「はぁ……はぁ……はぁ……」



 リアーヌは王城の地下を走っていた。彼女は能力が真の意味で解放されてから、行くべき場所があると悟った。ベルと別れ、そして一人で地下への入り口を見つけた。そこに行くまでには痕跡も残しておいた。念のため、誰かがこの地下に救援に来られるようにと。おそらく、ユリアの黄昏眼トワイライトサイトがあれば大丈夫だと思うが、良い方に転ぶか、それとも悪い方に転ぶのかはリアーヌも分からない。それでも彼女はこの地下の入り口に魔素の痕跡を残すことを選択した。



 そして彼女はただ一人で走っていた。この膨大に広がる地下空間を。今までこんなところがあるなんて聞いたこともない。だが彼女は知った。この王城の地下には尋常ではない魔素が満ち溢れていると。それは今まで保有していた特異能力エクストラが達していないため、気がつかなかった。それはユリアの特異能力エクストラも同様である。



 巧妙に隠されていたそれに気がついたリアーヌは、その場所に向かって走っていた。すでに時は遅いのかもしれない。それでも彼女は走るしかなかった。そしてやっと辿り着いたそこは、ただ暗く広がる空間だった。真っ暗で何も見えない。そう思っていると、周囲には灯りがあったのか次々に光を放っていく。そして円状の空間だと認識する。さらには、目の前に扉があることも。この先に、この先に何かがあるに違いない。リアーヌはそう確信して、扉に手をかけるも後ろから声をかけられる。



「王女、それ以上はダメですよ」

「……やはり、あなたでしたか」



 振り返る。そしてそこにいたのは、リアーヌが予想した通りの人物だった。













「クローディア……あなたが裏切り者なのですね……」

「うーん。厳密にはちょっと違うけれど、まぁそうですね」

「どうして……どうしてこんなことを……」

「……どうして? そんなこと決まっているじゃない」



 クローディアはニヤッと嗤うと、そのまま言葉を続ける。



「……この世界を暴くためよ。それにもう分かっているんでしょう? 私の中身がどうなっているのか……」

「……黄昏症候群トワイライトシンドローム、レベル0。それは正しいけれど、そうではない。だってあなたの体は、魔族そのものなのだから……そもそも、黄昏に侵されることなどはないのですね」

「ふふ、ご名答……ふふふ」



 リアーヌは知っていた。いや、分かってしまったのだ。解放された特異能力エクストラである、天眼セレスティアルアイによって。それは彼女が持っていた元素感覚ディコーデイングセンスをはるかに上回る能力。王族の中には、この天眼セレスティアルアイを発現するものがいると伝承では伝えられていた。しかし、前回の発現者は人魔対戦時だった。それ以来、つまりは150年近く天眼セレスティアルアイを有するものはいなかったのだ。



 だがしかし、こうしてリアーヌは手に入れた。その悍ましい能力を。天眼セレスティアルアイはこの世の全てを暴く。それは比喩表現ではない。黄昏眼トワイライトサイト元素感覚ディコーデイングセンス、それらもまたこの世界を知覚する能力であるも、それは部分的なものでしかない。あくまで世界の表面を理解しているに過ぎない。



 一方で、天眼セレスティアルアイは世界の内部まで知覚できる。人間に関していえば、その内部構造まで正確に把握できる。魔素形態、固有領域パーナルフィールドもまた、その目で知覚可能。



 そしてリアーヌは天眼セレスティアルアイでクローディアを改めて視る。そこに映るのは……人間のそれではなかった。いや厳密に言えば、人間である。だが……魔族でもある。二つが混ざり合っている状態。そしてそのことには彼女は心当たりがあった。



「あの噂は……本当だったのですね」

「ふふ、知っているの?」

「人間は魔族には敵わない。それは人間という存在があまりにも脆いから。ならば……脆弱でない人間を作ってしまえばいい……そんな世迷言がまさか……」

「でもね、私は完全な成功体じゃない。ねぇ、分かっているんでしょ?」

「……」



 リアーヌは唇を噛み締める。その問いの答えはすでに手に入れていた。いや、彼女の天眼セレスティアルアイはすでにあらゆる情報を手に入れていた。



「さて……そろそろかしらね」



 クローディアが虚空を見上げると、そこに魔法陣が展開される。そしてそこから吐き出される人間たちがいた。



「ぐ……ッ!!」

「ここは……」

「……え?」



 落ちてきたのは、ユリア、エイラ、シェリー。そして最後に出てきたのは、サイラスだった。



「サイラス、状況は?」

「まぁ悪くはない。それで、他の特級対魔師たちは?」

「さぁ。今頃は黄昏で彷徨ってるんじゃない? それでも時間は保って数時間ね」

「それだけあれば十分。さて……君たち四人には生贄になってもらおうか」




 ◇




「――世界縮小ピクノーシス


 

 クローディアがその魔法を発動すると同時に、その場に全員が眩い光に包まれる。その中で異質な存在がいた。それはエイラだった。他の特級対魔師たちはすでに黄昏危険区域レベル5へと飛ばされた。


 世界縮小ピクノーシスとは転移魔法の一種で、世界と世界の一部を繋ぐことができる魔法だ。しかし、相手の固有領域パーソナルフィールドへの介入が必要となる。それが起因となって、対象を任意の位置に転移させることができる。


 そして今回は人間の固有領域パーソナルフィールドを有するものには、危険区域レベル5へ飛ぶように。そして、彼女と同じ存在であるものは王城の地下に飛ぶように。そう設定してあったのだ。



 また同時刻。すでに地下の最深部へとたどり着こうとしていたユリア、サイラスと戦っているシェリーもまた世界縮小ピクノーシスの光に飲まれていた。効果範囲は別にクローディアの側に限られない。事前に対象へと魔素を打ち込んでおけば、世界縮小ピクノーシスによる接続は可能になる。もちろん、その発動は魔素を一回打ち込めば一回だけ。連続で使用できるものでもない。だがそれで十分だった。



 クローディアの目的は、あの四人を地下に呼ぶ出すこと。それで全てが終わる。終焉を迎える。



 そうして、状況は最終局面に移行する。




 ◇




「ぐ……う……」



 気がつけば、僕は地面に這いつくばっていた。いったいここは……。


 僕は確か、リアーヌ王女を追いかけて走っていたはずだ。しかし急に目の前が明るくなったと思いきや、魔法陣に飲み込まれ……ここに飛ばされたのだ。



「先輩、シェリー、リアーヌ王女……」



 そして僕は近くにいる人たちに気がついた。でも何よりも気がかりなのは、クローディアさんとサイラスさんだ。なぜ二人は距離を取ってそこに立っている? まるでそれは……僕たちと敵対しているような……。



「さて役者が揃ったわね。サイラス、拘束できる?」

「あぁ」



 そして僕たち4人はワイヤーによって拘束される。宙吊りになり、そのまま自由を奪われる。


 

 なんだ……どういうことだ……どうして、どうしてこんなことに……。



「先輩、シェリー、リアーヌ王女ッ!! 大丈夫ですかッ!??」

「う……うぅう……」

「ぐうう……」

「ユリアさん、逃げて……逃げてください……うぅぅ……ぐうう……」



 先輩とシェリーはすでに意識がなかった。一方でリアーヌ王女は話すことができるようだったが、その声はか細い。何か負傷でもしているのだろうか……。



 とりあえず、今はこの状況をどうにかしなければ……。




「ユリアくぅん。あなたのせいで計画は大幅に変更。でもね、最期にこれができれば満足なの。だから大人しくしていてね?」




 その言葉を聞いて僕は理解した。この二人が……裏切り者だったのだ……。




「あなたたちが裏切り者だったのかッ!! 二人で、二人でずっと人類を騙し続け、混乱に陥れ、人間を殺すために今までッ!!!」



 怒り。僕は憤怒に支配されていた。この状況。すでに言い逃れはできない状況。裏切り者は、クローディアさんとサイラスさんだったのだ。いやもうこの二人に尊敬の念などない。クローディアとサイラスの二人が、人類を……あの襲撃を引き起こし……多くの人間を死に追いやったのだ。



「ちょっと静かにしてね〜。準備があるから。サイラス、テキトーに話でもしてあげたら?」

「……別に話すことなどないがな」



 クローディアは何か準備しているのか、地面に魔法陣を描いている。そうしている間、サイラスがこちらに近寄ってくる。



「……大丈夫。君たちはセフィロトツリーの一部なるんだ。完全に死ぬわけじゃない」

「お前が、お前たちが人類を……それにエリーさんを殺したのか……」

「エリー? あぁ、奴は真実にたどり着いた。だから殺した」

「どうして……どうしてそんなことをッ!!」

「愚問だな。真実を知った人間はいてはならない。我々の計画の支障になる。障害は取り除くに限る。そうだろう?」

「そんな……そんなことが許されるわけがないッ!!」

「許す、許さない、か。もはやそんな次元ではない。我々が事を成す、それだけだ」

「何を……何を言っている……それに、お前たちが……お前たちが人間を……それに、ダンのこともッ……あの人とは、お前たちのことだったのかッ!!」



 ダンが最期に言っていた言葉。僕はそれもまた思い出していた。



「ダン? あぁ……あの人間か。いい実験体ではあったが、それでもやはり人間は魔族にはなれない。黄昏症候群トワイライトシンドロームはあくまで病であり、魔族に至れるものではないと分かった。それだけでも彼に価値はあった。そうは思わないか? それに君を黄昏に追放する際には非常に役立ってくれた。当時は彼の判断に任せたが、結果としては成功。それに、金を積めば簡単に動く。まぁ、呪縛カースを刻んで最低限、情報は漏らさないようにしていたが、彼はいい駒だったな」

「追放する際に役立った……?」



 あれはダンの独断じゃないのか? 彼が、彼たちが生き残るために僕を見捨てただけじゃないのか?



「ふむ。冥土の土産に教えてやろう。君を黄昏に放ったのは覚醒を促すためだ。より黄昏の深部に行くように、色々と手配させてもらった。気がつかなかったか? あの時の結界が学生レベルのものではないと。方向感覚を狂わせる結界など、一級対魔師レベルでないと生成は不可能だ」

「……まさか、まさか、まさか、まさか、まさか」



 最悪の仮定が、脳内に過ぎる。



「そう。君は意図して黄昏に追放され、今に至る。と言ってもその能力の高さはこちらとしても想定外だったが……おかげで第一結界都市襲撃は失敗。あの時の結界もまた、君とエイラはすり抜けてしまった。やはり覚醒者はさらなる覚醒を促すと勉強になったな……しかしまぁ、本命はこうして達成できている。あの失敗の件は別に恨んでいない。むしろ、君には感謝している。色々とこちらも学ぶことができたからな」

「何を……何を言っているんだ……」



 意味が分からない。僕がここに至るまでの過程が全てこいつらの掌の上だったとでもいうのか? 全てが、あの全てがここに至るまでの過程……そんな、そんなバカなことが……。



「ん? クローディア、あいつを呼んだのか?」

「いえ……もしかして来てる?」

「あぁ。近づいてきてるな」

「まぁ別にきてもいいけどね。それに最期なんだから、会うのもいいじゃない? ユリアくんには会いたがっていたし」

「それもそうか。まぁ……ことが済めばいい」



 二人がそう話していると……コツ、コツ、コツと足音がする。そして奥の方からやってきたのは……やってきたのは……。



 僕は宙吊りになりながら、その姿を上の方から捉えた。真っ白な長髪に黒いコートを着ている。身長は高く見えるがそれは履いているブーツのせいかもしれない。だが今はそんなことよりも……気になることがあった。



 あれは……知っている。いや、知っているというのはおかしい。僕はその顔を毎日見ている。そう、毎日……いやずっとずっと、幼いことから見てきたあの顔は……。




「あはははぁ……来ちゃったぁ」

「クレア。待機命令が出ていたはずだが?」

「サイラスってば、かたーい。別にいいでしょ? それにこの人に会いたかったしね。いいでしょ?」

「仕方ないか。クローディア、構わないか?」

「ん? いいんじゃない。だって二人は……」



 その言葉を聞いて戦慄する。なんて言った、今……。



 いや、聞き漏らしてはいない。間違いなく僕の耳はその音を理解できる言葉として認知した。だがあまりにも突拍子もない言葉に、僕は理解を手放していた。



「……ふふ、初めまして。私の名前はクレア。うん、間違いない。だってこんなにも……似ているんだもの……ふふふ。ねぇ、今どんな気持ち? ねぇねぇ、どんな気持ちなの? ねぇ……お兄ちゃん」





 その言葉を聞いて、クローディアの言葉がもう一度再生される。




『ん? いいんじゃない。だって二人は双子なんだし』




 双子。僕とここにいる少女は双子。それは疑いようがなった。この顔はずっと鏡で見てきた自分の顔と……瓜二つなのだから。



 錯綜する状況。そして僕は、この世界に本当の意味で向き合うことになる。

 



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