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第61話 Lamentation



 シェリーは現在、基地の前に他の一級対魔師と共に配置されていた。命令は抽象的で、誰も外に出すな……というものだった。理解できない命令、それでも上の指示に逆らうわけにはいかない。それに彼女は違和感を覚えていた。それはこの第一結界都市にあまりにも強い魔素が集中しているのだ。今まではこんなものは感じ取れなかった。だというのに、今のシェリーは漠然とだがその感覚を有していたのだ。



「おい、今日の命令って……」

「さぁ。なんだろうなぁ……」



 周りにいる対魔師たちもそんなことを話していた。シェリーだけではない。他の人間もまた、違和感を覚えているのだ。それに、もう一つ懸念事項があった。それはこの場所に集められている対魔師が、二級対魔師と一級対魔師しかいないのだ。それに全員が黄昏機動部隊の人間だ。おかしい……何か中で起こるのだろうか……そうとしか思えない状況。だが、シェリーはただここで待つしかなかった。



(ユリア、今頃どうしているのかしら)



 先刻、ユリアと別れてからシェリーは彼に会っていない。特別、不安に思っているわけでもない。理性ではただ別の任務で分かれているだけだ。そう考えているも、今の状況とユリアの現状が嫌に交錯する気がする。そんなシェリーの予感とも呼ぶべき思考は、悲しくも後に現実となるのだった。




 ◇




 今日は基地の会議室に来るように命令があった。しかし謎なのは、概要を伝えられていないということだ。黄昏に行く、誰かと面会する、など事前情報が全くないのだ。正直いって、今までこのようなことはなかった。だというのに、僕は謎の召集を受けた。でもここで不気味だからといって、行かないわけにはいかない。



 そして僕は会議室の扉を開けた。



「……え?」



 そこにいたのは……特級対魔師たちだった。僕が今まであってきた人たち、それが全て揃って……? いや、エリーさんがいない。ともかく、特級対魔師の人たちがほぼ全員も集まっているのは異常だ。



「さて、ユリアくん席に着いてほしい。すぐに会議を始めるからね」



 そう促されて僕は席に着く。そして隣にいる先輩に少し話しかけてみる。



「先輩、どうしてここに」

「まだ概要は聞いてないけど……まぁ、よくないことみたいね。それに色々と分かったらしいわね。じゃないとこの召集はありえない」

「そう……ですか」



 色々と分かった。それはまさか、裏切り者の件が分かったのだろうか。それに疑問に思ったのだが、特級対魔師たちがこうして一つの部屋に再び集めるのはいいのだろうか。以前のように、全員が結界に閉じ込められるかもしれない。少々、油断しすぎているんじゃないのか? 



 だがそれは杞憂に終わることになる。



「さて、特級対魔師の諸君。急な召集に応じてくれて感謝する。また、例の結界の件だが、すでに解析が終了した。あれは数百年前に使用されていた魔法だが、発動にはかなりの時間を要する。そう……年単位の時間を。魔素の量もそうだが、やはり魔素形態を構築するのがかなり困難だ。それに対抗する手段もすでに、ある。ということで、今回は改めて集合してもらったが……本題はそれではない」



 スッとサイラスさんの視線が鋭くなる。そして次の瞬間、出てきた言葉は大凡信じられないものだった。




「……特級対魔師、序列10位のエリーが殺された。死因は出血性ショック死。抵抗した形跡はなく、ナイフで心臓に一刺し。数分後に絶命したようだ。現在はさらなる死因特定のために解剖に回されている」

『な……ッ!!?』



 僕だけではない。他の特級対魔師たちも驚きの声を上げる。



「おいおいおい、サイラスよぉ……冗談だろ? エリーは確かに研究メインだったが、あいつは結構やれるやつだった。戦闘技能も低くはねぇ。それが抵抗もせずに、心臓に一刺し? そんなバカなことがあるのか?」

「ロイ……これは事実だ。そしてその殺人、犯人の特定ができている」



 次は声は上がらなかった。すでに犯人の特定が済んでいる、と言うことは……裏切り者に繋がる手がかりが得られたということだが……僕は素直に喜べなかった。エリーさんが死んだ? 僕は数日前に話をしたばかりだった。エリーさんと出会った時間は短いが、それでも僕は彼女のことを尊敬していた。黄昏を研究するその姿勢にはただただ感服した。だからこそ僕も知り得る限りのことを全て話した。きっと、エリーさんならこの黄昏の謎を解いてくれるかもしれない……そう思っていたのに……殺された? そんな、そんなバカな……。



 ぎゅっと拳を思い切り握る。すでに僕は怒りでどうにかなりそうだった。あの襲撃を引き起こして、さらに特級対魔師を殺した? 特別、油断をしていたわけではなかった。でもそれは自分のこと、自衛に関してだけだ。諜報部や他の特級対魔師の人たちが動いているのだから、僕の出る幕はない……そう思っていたけれど、こんなことは到底、許容できるわけがなかった。



 しかし、状況はそんな考えとは裏腹に最悪の方向に進んでいるのだった。



「ユリアくん……君はエリー殺害の容疑者となっている。エリーの研究室への出入りした時刻と、殺害時刻が被っている。それに他の研究員も君の姿を捉えている……話を聞かせてくれるかな?」

「……え?」




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