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第57話 Drinking



「いや〜、酒がうめぇ!!」



 黄昏の支配する時間が終わり、夜となった。あれから僕たちは4人で黄昏に赴いて、いつも通りに狩りをした。


 そして現在、ロイさんの提案で外食をすることになった。僕と多分シェリーもそうだが、特に外で食べるということはしない。基地の中にある食堂で十分だし、特に食に対して楽しみを見出していないからだ。特に僕の場合は、黄昏に2年間いた時は楽しむものではなくて生きるための作業として食事というものを行なっていただけだ。そういうこともあって、僕は食に対して関心があまりない。


 ぶっちゃけ、カレーさえあればいい。カレーは色々と混ざっているし、それに味もどこにいっても安定している。カレーは万能食とまでは言わないが、僕にとっては同じものだった。しかし、こうして目の前に並ぶのは豪勢な食事の数々。


 なんかよく分からないものもある。チーズを鍋に大量に入れて、パンやソーセージ、ジャガイモなどいろいろなものをつけて食べるやつ。ロイさんとヨハンさんはそれを食べながらお酒を飲んでいる。



「やっぱこれだよなぁ〜」

「ロイさん、ゴチになりま〜す」

「テメェは出せ……と言いたいところだが、今日は全員に奢ってやる」

「よっしゃ!」



 二人ともテンションが高く、僕とシェリーは少し置いていかれている。お酒を飲める年齢ではないので、当然アルコールの摂取はしない。結界都市では食料や飲料に関しては、特に心配することはない。プラントというものが各都市に設置されており、そこでの生産量は需要を上回っている。安定した供給が当たり前となっているのが今の時代だ。


 だからこそ、こうして食を娯楽として楽しむこともできている。ただそれは、ここ50年くらいの話で過去には色々と食料に関して問題があったらしいが……僕たちはそれを知ることはない。本当に今までの人の努力には感謝したいところだ。




「ロイさん、いいことでもあったんですか?」



 僕はなんとなくそう尋ねてみることにしてみた。



「……まぁ、後輩が育っているからな。先輩として奢るのは当然だろ」

「ユリアく〜ん、それは無粋ってやつだよ〜。ロイさんは君とシェリーちゃんを気に入ってるんだよ」

「「え?」」



 僕とシェリーはぽかんとする。それもそうだ。今までそんな素振りは全くなかった。黄昏で戦っている時も、強い口調で命令されていたし……。



「おい、ヨハン。テメェ、余計なこと言うんじゃねぇ!」

「じゃ、気に入ってないと?」

「別にそうは言ってねぇ……ま、今回は餞別だ。これからに期待してな」

「……」



 二人のやりとりを見るに、ヨハンさんの言葉は正しいようだった。ロイさんも色々と不器用な面があるんだなぁと思っていると肩に急に重さを感じる。それに頰にツンツンと指が当たっている感覚もある。




「ユリア〜、あははは、ユリアが二人いる〜」

「え?」



 見るとシェリーの様子がおかしかった。顔が赤くなり、妙に色っぽい。え……これはまさか……。



「あ、ユリアくんごめ〜ん。シェリーちゃんにお酒回しちゃった〜」

「ちょ、ロイさん!」

「ユリア〜、ねぇ、ユリア〜、こっち向いてよ〜、ねぇ〜」

「た、助けてください! ロイさん! ヨハンさん!」

「……女の相手は分からねぇ」

「いいじゃん、いいじゃん、ユリアくんの男気みたーい! あははは!」

「私もみたーい!! あはははははははははは!!」

「……」



 地獄だ。ロイさんはそれほどではないみたいだが、ヨハンさんとシェリーがひどい。いやヨハンさんは割と常識の範囲内に収まっていると思う。でもシェリーはずっと僕にべったりと寄りかかってくる。椅子の距離感もほぼゼロだ。それに腕を絡めてきているのもあって、その……胸が当たっている。僕は彼女の耳にそれをこそっと伝える。



「……シェリー、当たってるよ」

「ん? 何がぁ〜?」



 さらにぎゅっと近づいてきて、豊満なそれを押し付けてくる。



「お、若い二人いいね〜! シェリーちゃんも大胆じゃん!」

「えへへへ……へへへへへ、なんか楽しくなってきた! もっとちょうだい!!」

「よっしゃ、これあげるよ〜。アルコール度数30はあるよ〜」

「ヨハンさん、やばいですよ!」



 と、僕の制止虚しくシェリーはさらにグビグビと酒を流し込んでいく。



「ぷはぁ……! おいしー! ねぇ、ユリアも飲みなよ!」

「いや僕は遠慮しておくよ……」

「何!? 私の酒が飲めないの!?」

「急にキレるの!? 情緒不安定すぎでしょ!」

「不安定じゃないもーん。安定してるもーん!」

「いやそれは酔っ払いの言い分だよ……」

「何!? 文句でもあるのかぁ!」

「帰りたい……」



 その後、僕は酔っ払いの相手をすることの真の意味を知ることになった……。




 ◇




「すぅ……すぅ……」



 僕はシェリーを背負って宿舎へと戻っていた。ちなみにロイさんとヨハンさんはまだ飲むようで、別のお店に行ってしまった。一方の僕は潰れてしまったシェリーを背中に乗せてゆっくりと歩いている。完全に熟睡しているのか、背中からは彼女の微かな寝息が聞こえてくる。



「はぁ……なんて日だ……」



 思わずそうぼやく。あの後、シェリーはずっと僕の腕にしがみついたまま暴虐の限りを尽くした。それは僕にとって本当に心臓に悪い体験だった。口に出すのも憚られるほどに……。願わくは、シェリーがこの記憶を完全に失っていることを願うばかりだ。



 そうして僕は、背中に確かな重みを感じながらその歩みを進めていくのだった。


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