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第43話 錯綜



 その後、最後にリアーヌ王女からのお言葉をいただき今回のパーティーは終了した。僕たちはかなりの注意を払っていたが、どうやら無事に終わりそうだ。と言っても、最後まで気を抜くことはできない


 そして全員が会場から出ていくのを確認していると、こちらに近づいてくる人がいた。白金の艶やかな髪に、黄金の双眸そうぼうを併せ持つその人は、リアーヌ王女だった。



「ユリアさん、ご無沙汰しております」

「リアーヌ王女。お久しぶりです。お変わりはありませんか?」

「えぇ。あの時の襲撃は王城にずっといましたので、大丈夫でした。しかし多くの人が亡くなりました……」

「……はい」

「分かってはいるのです。王族の命は尊く、失われれば結界の維持などもできなくなる。私もそのうち、結界維持の方に回ることになるでしょう。しかし、それで私の命が優先され、他の方が亡くなると知ると……どうしても、遣る瀬ない気持ちになってしまうのです」

「……」



 確かに王族の命は最優先で守るべきものだ。彼、彼女らもまた、特級対魔師と同様に人類の希望である。この七つの結界都市を維持しているのは、王族のおかげなのだから。そのため、一般の人と王族の命……どちらを優先すべきかなど決まりきっている答えだ。僕だって、そのような選択肢を突き付けられれば王族の命を優先する。それが合理的で、理性的な判断だからだ。命が全て尊いなどとは言わない。でも、それでも、感情では割り切れない部分があるのが人間だ。


 きっとリアーヌ王女はそのことを気に病んでいるのだろう。




「申し訳ありません。少し余計なことでしたね。ユリアさん、またお会いしましょう。では失礼します……」



 そう言って彼女は去っていく。が、僕は気がついた。最後の別れ際に僕の手に何かを握らせたのだ。リアーヌ王女は視線をちらっと僕の方に向けるとニコリと微笑んでそのまま歩みを進めていく。



 手の中にあるのは紙だ。何か書いてあるのだろうか。そう思っているとちょうどシェリーが近づいてくる。



「ユリア、楽しそうに話していたわね」

「……シェリー。別に楽しんでいるわけじゃないよ。ただ話しかけられたから、応じていただけだよ」

「ふーん。でも今回は王女に鼻の下伸ばしてなかったわね」

「……前のことは忘れてくれ」



 前回、初めて会った時はそのあまりの美貌に思考が停止するほどだった。でも今は慣れている……というよりも、考えるべきことが多くてそれどころではない。だから今回は普通に接することができた。下心で行動できるほど、今の僕には余裕があるわけではない。



「ユリア。任務は終わりだって。帰りましょう」

「ちょっと先に行ってて。僕は少し用事があるから」

「? 分かったけど……」



 釈然としない様子だったが、シェリーはそのまま会場から出ていく。そして僕は先ほどポケットにしまった紙に目を通す。あの行動からして、他の人に見られたくないものだと僕は理解していた。



『この後、外れにある公園に来てください。お話ししたいことがあります』



 その文字を目にすると、僕はすぐさま会場から出ていくのだった。




 ◇




「……あら? 早いですね、ユリアさん」

「王女を待たせるわけにもいきませんから。護衛の方は?」

「ベルについてきてもらっています。ほらあそこに」


 じっと目をこらすと闇に紛れるようにして、ベルさんがそこに立っていた。僕と目が合うとぺこりと頭を下げる。


 そして二人でベンチに並んで座ると、彼女は口を開いた。



「裏切り者の件で、お話があるのです」

「手がかりが? でもどうして僕に?」

「この件、間違いなく軍の上層部にまで手が伸びています。上に報告するのは、危険だと感じたので信頼できる人間にだけ話をしています」

「僕は信頼できると?」

「はい。現状、信頼できる特級対魔師は、ベル、ユリアさん、エイラだけです」

「さ、3人だけ……?」

「後の人間は、信頼できるだけの情報が揃っていません。残り10人は全員疑うべきです」

「そう……ですか……」



 信じたくはない。特級対魔師の中に裏切り者がいるなんて。でも可能性としては、ないわけじゃない。むしろいたとしても、驚くべきことじゃないのかもしれない。それでも僕はショックを受けてしまう。人類の希望である特級対魔師を……信じることができないなんて……。



「ユリアさん。おそらく、裏切り者はまた行動を起こします。私もなんとか探っていますが、相手もかなりの手練れ。証拠は全く残っていません。あれだけ大掛かりなことをしたのに、です」

「……なるほど。確かリアーヌ王女は特異能力エクストラで魔素を知覚できるんですよね?」

「そうですね。それで色々と痕跡を探していますが……全くと言っていいほどないのです。でもこれは逆に不自然。あまりにも綺麗に消えている。私はそう考えています」

「綺麗に消えている……なるほど……」



 綺麗に消えている? やはり何か痕跡を残すほど、緩い行動をしているわけではないようだ。



「ユリアさん。あなたは明後日から、他の都市に出張になります」

「出張ですか?」

「はい。一応名目上は、他の都市も知るべきだということになっています。それに特級対魔師は出張が多いので、特別珍しいことではありません。第六結界都市から、第一結界都市を数週間で回るぐらいのことです。その後は再び、第七結界都市での勤務になるでしょう」

「どうしてその情報を?」

「ベルに調べてもらいました。ベルは話すのは苦手ですが、すごい優秀なのです。強さばかり目立ちますが、諜報部でもやっていけるほどです」

「それは驚きですが……僕の出張に何かあるのですか?」

「裏切り者は、あなたを狙っているのかもしれません。あなたは特別です。黄昏に2年間もいて、生き残った唯一の人類。さらにはあの襲撃を止めた。相手からすれば、あなたはとても目障りでしょう。それに、他の特級対魔師の情報はそれなりに出ていますが、あなたの場合はまだ謎な部分が多いでしょうから」

「……今後は自分の情報は漏らさないほうがいいでしょうね」

「そうですね。適度に漏らすのはいいですが、絶対的な能力や切り札は隠しておいたほうがいいでしょう」



 僕にはまだ使っていない能力が幾つかある。あの黄昏で身に付けたものは確かに残っているが……しっかりと隠すべきか。



「今回の出張で、おそらくユリアさんは残りの特級対魔師全員と軍の上層部に出会うことになるでしょう。しかし、努努ゆめゆめ、お忘れにならないように。裏切り者はいるのです。そしてあなたを狙っている可能性もある。今回の出張、理由は尤もらしいです。ユリアさんは他の結界都市を知りませんから。新人の特級対魔師には当然の行動です。しかし、これは相手の策略かもしれません。黄昏での移動中を狙われる可能性もあります」

「……分かりました。肝に銘じておきます」

「私がお伝えしたいのは以上です。わざわざお時間、ありがとうございました」



 リアーヌ王女はそう言うと、ベルさんに向かって手を振る。すると周囲にあった結界が解除される。防音と人払いの結界。入った時にはあると気がついていたが、ベルさんはこんなこともできるのかと、僕は素直に感心していた。



「お……終わりました……か、リアーヌ様」

「はい。話すことは全て話しました」



 そう二人が話していると、ベルさんが僕の方を向いて話しかけてくる。



「ゆ、ユリアくん……こ、今回の……出張だけど……ちょ、ちょっと良くないけど……その……同行者を……つける……こと……にしました。私の推薦で……な、なんとかねじ込めた……ので……」

「? 出張に誰かついてくるのですか?」

「……シェ、シェリーちゃん……だよ。と、特級対魔師……は動かせない……から、現状で……私が一番……信頼してて、強いと……思う人を……選んだの……」

「シェリーはそこまで成長しているのですか?」

「う……うん。ちょ、ちょっと驚いてる……私も。もしかすると……14人目の特級対魔師……に、な……なるかも……とりあえずは……私は教えることは……教えたから……きっと力に……なってくれると……思うよ……」

「了解しました。ご助力、ありがとうございます」



 僕は頭を下げると、彼女たちにお礼を告げるのだった。


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