第42話 護衛任務
リアーヌ王女。こうしてお目にかかるのは二度目だが、何度見てもその姿は人間離れしているとしか思えない。ちなみに彼女はクローディアさんたちが護衛をしてここまで連れてきたらしい。
そして僕らは現在、パーティー会場入りしておりすでに護衛任務は開始していた。
「ユリア、例の術式いけるの?」
「はい……練習しましたから。発動自体は問題ありません」
「そう、ならいいけど」
エイラ先輩と隣り合って話しているが、決して顔を合わせない。僕たちはずっとこの会場の様子……特にリアーヌ王女の様子を窺っていた。ドレス姿で談笑しているようで、今のところはなんの問題もない。
でもそれ以上に……僕は昨日の件を引きずっていた。先輩もまた、黄昏症候群に侵され続けている。それは僕と同等程度に。病院での検査などをしているも、未だに謎。それに体調不良などもなく、むしろ身体のコンディンションは上がるばかり。戸惑いがない、といえば嘘になる。
しかし、それでも僕たちは……この黄昏に向き合っていかないといけない。
「じゃ、配置に戻るから」
「はい」
そう言って僕と先輩は別れた。先ほど話していたのは、通信魔法の術式についてだ。新しく導入された新技術である通信魔法。これは魔法陣を通じて、音を伝えるものだが現在では軍で正式採用となり、それぞれの対魔師が使えるようになる事が義務となった。と言っても別にそれほど難しいものではなく、学生でも容易に使えるものだ。ただ僕の場合は、魔法に対する適正に偏りがあるから心配していたけど普通に使用することができた。
しかし、最近は魔法に関しても妙な違和感が付きまとう。それは悪いものではなく、むしろ良い兆候。全てのコンディンションが最高に整っている感覚。だが僕はそれを手放しで喜ぶ気にもなれなかった。なぜなら、僕の黄昏症候群とそれに関係性があると思えて仕方がないからだ。
「……」
周囲をじっとみる。今のところ、おかしな様子はない。
ちなみに今は魔法陣をかなり小さくして常時、展開している。周りから見ても一見すれば分からないほどだ。
『全員、配置についたな。概要は変わらない。だが、何か起こるかもしれないという自覚は持っておけ』
「……了解」
そして僕は再び会場に目を通す。全員がドレス、スーツまたはタキシードを着ており、それなりに華やかにしている。ちなみに僕たちは軍から支給されたスーツを着ている。
ここにいる貴族、それにリアーヌ王女はあの第一結界都市での襲撃を経験している。だというのに、全員がそれなりに明るく振舞っている。きっと親族が死んだ人も多いだろう。だが今回のような会合で気落ちしていても、前に進むことはできない。それを自覚していて、そう振る舞っているのかもしれない。と言ってもそれは考えすぎかもしれないけど……。
「その……ユリア・カーティスさんですか?」
「……はい。そうですが……何かご用ですか、お嬢様?」
近寄ってきたのは僕と同じぐらいの歳の女性だった。絹のような綺麗で長い茶髪を一つにまとめ、鮮やかな淡いピンクをしたドレスを着ている。それに化粧もしているのか、妙に大人っぽく見える。
今回のようなケースは邪険にはするな……と言われている。特に僕、エイラ先輩、クローディアさん、ベルさんは特級対魔師として明確なポーズを示している側面もある。4人もの特級対魔師がいるのだから、この場は安全なのだと。
「その……私のこと、覚えていませんか?」
「……申し訳ありません。もしかして、どこかでお会いしましたか?」
「第一結界都市で逃げ遅れているところを、助けていただきました」
「……こちらとしてもあの状況では手一杯だったので、顔までは覚えていませんでしたが……ご無事でしたら何よりです」
「その……カーティスさんは確か15歳ですよね?」
「はい」
「私と同い年なのに……すごいです。特級対魔師になって、それもすぐにあの襲撃をどうにかするなんて。尊敬します……本当に……」
「いえ自分は……あの時は必死だったので。それに私だけの力ではありません。多くの対魔師の協力があって、事を鎮めることができたのです」
「謙虚なところも素敵……」
「……」
お礼を言いに来たのは分かる。だが妙に顔が火照っているというか、こちらを見る視線が熱いものになっているのは気のせいだろうか。
「こら、お仕事の邪魔をしてはダメよ」
「……お母様」
「申し訳ありません。この子ったら、突然いなくなったと思ったら……特級対魔師様の所に来ているなんて」
「いえ、自分は構いません」
その後、何故か話は盛り上がり、娘をもらってほしいとかなんとか言われた。こ、これがエイラ先輩が辟易する気持ちか……確かこれは辛いものがある……。そしてなんとかその場を切り抜けると、ちょうどベルさんが僕の様子を見に来ていた。
「……ゆ、ユリアくん……だ、大丈夫……?」
「ベルさん。すみません、仕事はしっかりとしますので」
「いえ……そんな……で、でも……エイラちゃんがす……すごい睨んでるか……ら……それに、シェリーちゃんと……ソフィアちゃんも……」
「えっと……そうみたいですね」
知っていた。僕に注いでいる視線が複数あることも、それが良くないものであることも。きっとしっかりと仕事をしろと言いたいのだろう。先輩だけでなく、シェリーやソフィアも今回の任務に駆り出されている。同い年の軍人としてしっかりしろと発破をかけてくれているのだろう。確かに、しっかりせねば。
「じゃあ私は……これで……その、が、頑張ってね……!」
「? はい。分かりました」
何を頑張るのか……あぁしっかりと任務に集中しろということか。ふぅ……僕もまだまだだな。そう思って改めて僕はこの任務に集中するのだった。