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第40話 違和感


 得てして、出来事というのは唐突に起きるものだ。


 何もなく平穏無事に過ごす毎日。そんな時であっても、起こるときは起きる。そんなものだ。と、別に僕は何か教訓めいたことを言いたいわけではない。でも、今回の話を聞いて僕はどうにも運命めいたものを感じていた。



「変死……事件ですか」

「らしいわね」

「死因は?」

「出血多量によるショック死らしいけど……」

「けど?」

「ないのよ」

「何がですか?」

「傷跡とそれに……臓器が」

「摘出されていたんですか?」

「死体を解剖して見た結果、臓器を抜き出した形跡はないそうよ」

「……じゃあ、どうやって」

「だから、変死事件なのよ」

「このタイミングってことは」

「例の裏切り者の件と、無関係じゃないでしょうね」



 エイラ先輩と僕は第七一特殊分隊のブリーフィングルームで話し合っていた。今は僕と先輩しかおらず、他の隊員を待っている状況だ。そんな矢先に先輩が持ってきた話は、深刻な内容だった。


 変死事件。この結界都市において、犯罪は存在する。殺人事件もゼロではない。だが、変死事件は珍しいというか……初めて聞いた。出血性のショック死だというのに、傷跡はなく、さらには臓器もない。つまり犯人はただその人間を殺したわけではない。何か特殊な方法で死に至らしめたのだと理解できる。


 先輩と色々と話していると、他の隊員の人たちが入ってくる。



「さて……全員集まったな。今回は黄昏に行く前に、情報共有だ。すでに知っている者もいると思うが、変死事件が第七結界都市で起きた。死因は不明。死体には外傷がないが、大量の血液と臓器が無くなっていた。切断された箇所もないというのに、だ。犯人は未だ不明」

「大佐、何も証拠はないんですか?」



 ベイツ中尉がそう尋ねるが、大佐は渋い顔をする。



「……ない、な。何もわからない……というのが現状だ。ちなみに死亡推定時刻は昨日の夜中の2時ごろだ。ということで、夜中は不用意に出回らないように。ただ都市を警邏する仕事もあるやもしれん。憲兵部の仕事だが、武力介入が必要な場合は我々も出動する。準備だけはしとけ。いいな」

『了解』



 話はそこまでで、僕たちはいつも通り黄昏へと赴いた。



 ◇



「……」



 今日の戦闘は複合短刀マルチプルナイフを使う予定だ。僕は胸ポケットからそれを取り出すと、いつも通り先ずは普通の不可視刀剣インヴィジブルブレードを発動。そして目の前にいる魔物を一閃。やはり発現行程が今までよりも早く、それに扱いやすいと思った。不可視刀剣インヴィジブルブレードはその形を保つ、または変化させるのに魔素を必要とする。大量には必要ないが、じわじわと減っていくイメージだ。でもこの複合短刀マルチプルナイフは魔素の伝達効率がいいのか、いつもより少ない魔素でいつもと同じか、それ以上の不可視刀剣インヴィジブルブレードを発動できている気がした。



 そして僕はこのナイフの真価を解放する。



「――炸裂バースト



 すると、正面にいる魔物に突き刺さるようにして無数の刃が拡散するようにして広がっていく。現在は人型の魔物であるグールと戦っているのだが、効果は抜群。不可視の刃が一気に数体のグールに突き刺さると、そのまま痛みからか悲鳴をあげる。



 僕はその隙を逃すわけもなく、炸裂バースト状態を解除してそのまま突撃。勢いのまま、首を刎ねた。



「ふぅ……」

「ユリア、調子いいわね」

「先輩。そうですね、新しい武器がいい感じなので」

「それが技術開発部でもらったやつ?」

「はい。複合短刀マルチプルナイフと言って、ナイフに無数の棘の様な突起が埋め込まれているんです」

「あぁ……それであんな風に穴が空いていたのね」

「そうです」



 二人でそう話していると、大佐が今日はここまでというので僕たちは危険区域レベル3から第七結界都市に戻ることになった。



「あれ、シェリーとベルさんだ」

「そうみたいね」



 無事、軍の基地に戻ってくると演習場でシェリーとベルさんが訓練をしていた。と言っても二人とも微動だにしない。何をしているんだろうと、僕と先輩は思わず見入ってしまう。



「ハアアアアアッ!!」

「……」



 一閃。シェリーは腰に差している太刀をそのまま引き抜き、抜刀。だが次の瞬間にはベルさんの太刀に受け止められていた。



「え……先輩、今の見えました?」

「見えてないわよ」

「ベルさんってやっぱすごいんですね」

「まぁ性格とか抜きにすると、さすがの序列2位って感じかしら」



 現在のベルさんはこの前会った時のような自信のなさはない。そう言っても逆に自信に溢れているかと言われれば、そうでもない。ただただ静かで、静謐な佇まい。その目には何の情念も宿っていない。暗く、何も映さないような目つき、全てを飲み込むような独特の雰囲気。この距離でも感じ取れるほどだ。シェリーはどれだけの圧力の中で向き合っているのだろう。



「じゃ、私はいくから。またね、ユリア」

「はい。お疲れ様です」



 先輩は立ち去ったようだが、僕は気になるのでもう少し見ることにした。



「その……だいぶ……良くなったね……シェリーちゃん……」

「いえ、まだまだです……こうしていつもあっさりとやられていますし……」

「そ……そ、の……元気……だし……て、剣筋はかなりよく……なってるよ? や、やっぱり……刀にして……正解……だよ」

「ほ、本当ですか!?」

「わ、私は……お話しするのは……苦手だけど、う、嘘は言わない……よ?」



 二人で何やら話し込んでいるようだ。邪魔するのも悪いし、そろそろ行こう。そして僕もまた、この場を後にするのだった。




 ◇



「お、ユリアじゃねぇか」

「ニック。奇遇だね」

「そうだな。どうだ、一緒に風呂でも」

「いいね」



 ちょうど汗を流そうと思っていたところだ。ニックの誘いはベストタイミングだった。ここでの生活も慣れてきて、それなりに他の人たちとも関係を築くことができていた。それにニックは何かと僕に目をかけてくれているのか、こうしてよく色々なところに誘ってくれる。



「ふぅ……今日はどこまで行ったんだ?」

「レベル3まで行ったよ。ま、いつも通りだね」

「さすが、一特だな。レベル3がいつも通りか……」

「ニックたちは普段はどこまで?」

「俺たちはいいとこレベル2だな。3は何度か行ったことはあるが、やっぱりまだダメだな。実力不足を感じるぜ」

「なるほど……確かにレベル3はかなり強いからね」

「ユリアでもそう感じるのか?」

「うーん。一対一なら負けることはないけど、やっぱり黄昏での戦闘は集団戦が多い。僕の戦闘スタイルが近接特化だから、どうしてもね。四大属性魔法が使えたら、もう少し戦闘の幅も広がると思うけど使えないからね」

「確か黄昏症候群トワイライトシンドロームの弊害だったか?」

「多分ね。原因ははっきりしてないけど、黄昏に行ってから使えなくなったから…多分そうだと思う」

「なるほどなぁ……いや、特級対魔師は無敵の存在だと思っていたが、色々とあるもんだな」

「ま、僕もただの人間だからね。限界はあるよ」

「はは、違いねぇ」



 大浴場でニックと隣り合って現状を色々と話し合う。こうして談笑するのもすでにすっかりと習慣になっていた。そのあとは変死事件のことを話した。



「変死の件、聞いたか?」

「うん。裏切り者が関わっているかもね」

「だよな。そう思うが……」

「ここにきて表に出るのは悪手……だよね?」

「そうだ。今は隠れる時期だろう。ただでさえ、軍全体が警戒しているんだ。ここで行動を起こすのは合理的じゃねぇな」

「別の人物か、それとも敢えてそうしたのか……それとも」

「そうせざるを得ないとか?」

「はぁ……ま、今のままじゃ結論は出ねぇな」

「そうだね」



 僕たちはこの件を軽視していたわけではない。だが、これは始まり。いや……そもそも終わっていない。あの時の襲撃の爪痕は……人類にまだ深く残ったままなのだ。


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