第200話 研ぎ澄ませる
「ハァッ!!」
早朝。
シェリーはいつも通り鍛錬に励む。現在はある程度にはなるが、結界都市内が落ち着いてきたので任務に追われることはない。
心にゆとりを持つことはできるが、シェリーは今日もたった一人で己の剣技に磨きをかける。
すでにベルが亡くなってから数ヶ月が経過。その心が慟哭に支配されることはなかった。ただその心に残っているのは、確かな復讐心だけ。
絶対にベルを殺した魔人を殺す。その明確な殺意を持って、彼女はここ最近を過ごしていた。
あまりにも研ぎ澄まされた殺意。それは日頃から出ているものであり、彼女は完全に軍の中では浮く存在となってしまった。
「ふぅ。ありがとうございました」
丁寧にその場で一礼。
そして基地内を一人で歩いていると、通りすがりの軍人に頭を下げられる。特級対魔師序列一位となったシェリーは、尊敬と畏怖のどちらの意味でも有名となっている。
中にはそのストイックさを尊敬する人間もいれば、あまりの殺意に恐れてしまう人間もいる。今すれ違った相手は、後者だった。少しだけビクビクするようにすれ違うその姿を見て、今更何かを思うところはなかった。
唯一の目的は、魔人を殺すことだけ。
それさえ果たすことができれば、もうどうでもよかった。
そしてシャワーを浴びて、食堂に向かうと一人で食事を取る。だがもちろん、シェリーがずっと一人というわけはなかった。
「シェリー。隣いい?」
「ソフィア。別にいいわよ」
やってきたのはソフィアだった。今まではすれ違いが多かったのだが──それは主に彼女が任務で忙しいせいだ──ソフィアは久しぶりにシェリーのことを見つけたので、すぐに向かいの席にやってきた。
「久しぶりじゃない?」
「そうね。ソフィアとこうして話すのは、久しぶりかもね」
「そういえば、序列一位になったんだね。おめでとう」
「ありがと。そう言ってもらえて嬉しいわ」
微かに笑みを浮かべる。
シェリーが怖がられているのは、ソフィアも知っていた。しかし彼女は知っている。シェリーはとても優しい人間であると。復讐心に駆られているのは、その優しさ故だと。
「特級対魔師の任務はどうなの?」
「そうね。黄昏に行くことが多くなっているわね。でも、別に構わないわ。きっとそれは、私にしかできないことだから」
「……なんか、大人になったねぇ」
「そう?」
「うん。昔はもっと幼い感じもあったけど、今は本当に大人だと思うかも」
「……そうね。今の私には色々とやるべきことがあるから」
その話を聞いて、ソフィアはそれが復讐であることを察した。だからこそ、彼女は次のように言葉にした。
「シェリー。頑張ってね。応援してるよ」
目を見開く。今まではずっと、恐れられていることが多かった。しかしこうして実際に言葉をかけられて、シェリーは自分の胸が熱くなるのを感じた。
「ありがとう。頑張るわね」
「うん!」
きっと成し遂げることができる。シェリーはそう、信じている。