第192話 出発
「さて、三人で進むが。フォーメーションはユリアとシェリーが前衛。俺が後衛でカバーする」
「分かりました」
「はい。それでいいと思います」
今回は本格的に黄昏危険区域レベル5を攻略するわけではなく、調査が主な目的だ。そのため、あまり深入りをすることはないが十分に注意する必要があるここから先は、文字通り魔物の質が異次元だからだ。
黄昏によって強化された魔物。その中でも、弱肉強食のこの世界を生き残り続けた魔物だけが存在を許されている場所。
それが、黄昏危険区域レベル5より先の世界。
まずは僕が先頭になって歩みを進める。レベル5にいるということで、黄昏の濃度はかなり濃い。並大抵の対魔師では、この中をまともに動くこともできないだろう。
「ユリア。サクサク進んでいるけど、大丈夫なの?」
「まだこの辺りは大丈夫だと思うよ。問題は、もう少し先からだと思うけど……」
と、その言葉を行った瞬間には目の前にさっそく魔物を発見した。
群れで動いているようだが、間違いなくそれは蜘蛛。しかし、通常の個体とは異なり、全身の色は紫黒に染まりきっていた。それは何よりも、黄昏の光を浴び続けている証拠だろう。
「蜘蛛ですね。どうやら特殊個体のようですが、あれはかなり強力な毒を持っています。少しでも皮膚に触れれば、ドロドロに溶かされてしまいます」
「う……何だか、見た目もすごいわね」
「あぁ。確かに、あの色はすごいな。それに纏っている黄昏の質も段違いだ」
「さて、どうしましょうか。ここまま戦ってもいいですが……」
それには、ギルさんが答えてくれた。
「いや。ここでやるのは得策じゃないだろう。群の数もかなりのものだしな。それに今回は調査が目的だ。戦闘は最低限にしておくべきだろう」
「そうですね。分かりました」
「うぅ……気持ち悪いわねぇ……」
シェリーは終始、あの見た目の蜘蛛に怯えていた。おそらく、戦闘になればシェリーほどの実力があれば難なく切り裂くことができるのだろうが、生理的に無理なのだと言っていた。
三人でそのまま、先に進んでいくとさらに黄昏の光が濃くなっていく。僕とシェリーはなんてことはないのだが、ギルさんは少しだけ辛そうだった。
「ギルさん。大丈夫ですか? 少し休憩を……」
「そうだね。お言葉に甘えるとするか。少し、黄昏に当てられたようだな」
「はい。そうしましょう。シェリー、休憩にしよう」
「分かったわ」
そうして近くにある木にもたれ掛かると、バックパックから水筒を取り出す。そして水を流し込むと、周囲をじっと見つめる。
僕が以前来たときと、それほど変わりはなかった。
しばらく休憩したのち、僕らはさらに歩みを進めるのだった。