第178話 作戦会議
「具体的な話ですが、まずは食事を提供しましょう」
リアーヌ王女がそう提案する。
確かに……それはいい案だろう。キャサリンはこの結界都市にある食べ物に非常に関心を抱いていた。と言うか、僕のお金など気にせずに自由に食べまくっていた。
それはきっと、サキュバスの国では人間たちが食べるような食事が用意されていないからだろう。
だからこそ、きっとそれはサンドラ女王たちにとってもいい方向に働くかも知れない。
「お金はどうするのよ」
「それは私が出します」
先輩がそう尋ねると、リアーヌ王女はすぐに答えた。
「ふーん。まぁ、接待費だと思えばいいかしらね」
「エイラの認識であっています。一応、上には接待としていくらか経費を出してもらえることになっていますので。現在、エルフを迎えた人類はさらに手広く亜人種を勧誘しようとしています。来るべき、戦いの日のために」
真剣な目つきなるリアーヌ王女。
ベルさんを亡くした僕たちの心は、まだ完全に癒えてはいない。その心はどこかポッカリと穴が空いたような……そんな感じだった。
ふと思い出してしまう。
ベルさんの優しい笑顔を。
遠慮がちだが、彼女は本当に優しかった。そして誰よりも気高くて、強かったあの人。
そんな彼女のことは、みんなが大好きだった。だから僕らは、その意志を継ぐためにも前に進み続けないといけない。
「ユリアさんは何かありますか?」
「僕ですか? いえ特には。というよりも、僕はまだ参加しないといけませんか?」
「はい。あちらからのご指名もありますので」
「え……ご指名?」
ご指名……ということは、向かうから僕にまだいて欲しいと言われたのだろうか。いや別に何もしていないはずなのに、どうしてこんなことに……。
「サンドラ女王ですが、ユリアさんのことを大層気に入っているようでして」
「え……それってどういう意味ですか?」
「さぁ。どうでしょうね。ふふ」
笑うリアーヌ王女。それはどこか悪戯めいたものというか、完全に楽しんでいるというか……。
「せ、先輩! 助けてくださいっ!」
「知らない。自分で頑張れば?」
「せ、先輩いいいい……」
プイっと横を向いて目を逸らす。
最近はどうにも、先輩の機嫌が悪いというかあまり親身になってくれない気がする。
ともかく。向こうから指名ならば、行くしかないだろう。むしろ行かないことで、何か軋轢でも生じたら大変だ。今回の件は人類にとっても重要なのだから。
「よし。それではまずは、この案でいきましょう。あとは臨機応変に行くということで」
「え!? もうちょっと詰めるべきでは!」
「実は元々決まっていたのです」
「……僕たちが話し合った意味は?」
「一応、お話を聞いておこうと思いまして」
何食わぬ顔で、告げるリアーヌ王女。
はぁ……本当に敵わないなぁと思いながら。
僕らは観光案内を始めるのだった。