第172話 サキュバスの国
翌朝。
僕ら四人はさらに歩みを進める。
そして急に霧が濃くなってきた時、キャサリンがこう言い始めた。
「きっともうすぐよっ!」
「そうなの?」
僕がそう尋ねると、彼女は声を弾ませてさらに続ける。
「えぇ! この霧は結界の一種なのっ! きっともうすぐよ!」
「……」
僕、先輩、リアーヌ王女は視線を交わすとそれぞれが警戒態勢に入る。特に僕と先輩はどこから奇襲されてもいいように準備をする。僕もすでに魔法を展開するだけの準備は整えている。
一秒後に戦闘が始まってもいいように、意識をただただ高めていく。
そして僕たちの視界に入ったのは、森だった。でもそこの奥には、しっかりとした建物が存在していた。外見で言えば、エルフの村に近いが……この雰囲気はどこか違うもののように感じた。
「あ! みんなだー!」
キャサリンは仲間を見つけたのか、そのままパタパタパタと走り去って行く。
「ん? キャサリンじゃない!」
「え!? 生きてたの!?」
「あんたいつまでも帰ってこないと思っていたら!」
「もう! てっきり死んでいると思ったわよ!」
サキュバスと思われる集団の中に向かうキャサリン。そして彼女は頭を掻きながら、こう答えるのだった。
「あ、あはは〜。実は人間のところに迷い込んでいて……」
「えぇ……人間のところって、あんたも不用心ねぇ」
「待って。あそこにいるのって、人間じゃない?」
「ほんとだ。でもあれって……」
全員の目がこちらに向くと、リアーヌ王女が僕と先輩の前に出ていく。
「初にお目にかかります。私はリアーヌと思うします」
「エイラよ」
「ユリアです」
フルネームを言うことなく、リアーヌ王女が淡々と言葉を続ける。
「私たちは人間を代表してきました。もし良ければ、サキュバスの女王に謁見したいのですが」
毅然とした態度でそう告げると、そこにいるサキュバスが慌て始める。
「え!? 人間!?」
「ちょっとキャサリン! これはどう言うことよ!」
「裏切り!? キャサリンが裏切ったの!?」
「うわーんっ! もうお終いよぉ……!」
それぞれが慌て始め、泣き始めるサキュバスもいた。そんな中でキャサリンは頑張って声を上げる。
「ちょっと! その、この人たちは……大丈夫よっ! 私にも優しくしてくれたし!」
「本当なの?」
「でも見てあれって」
「えぇ。男、男よ」
「なかなかいい顔じゃない。私、イケるかも!」
「ちょっと可愛い系だけど、確かに唆るわねぇ……」
その絡みつくような視線に僕は嫌な予感を覚える。
その瞬間、エイラ先輩の足が僕の足を思い切り踏みつけた。
「いったッ! ちょっ!? 何するんですか!?」
「別に? ただユリアが油断しないように、そうしただけよ」
「くぅ……理不尽だ……」
そして僕らはこの喧騒の中、なんとか女王の元へ案内してもらうことになるのだった。