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第163話 異種間コミュニケーション



「おお。意外と綺麗な部屋ね」

「意外とって……まぁ適当にくつろいでよ」

「わーい!」


 すると彼女は一直線にベッドに向かっていき、そのままダイブする。



「おー! すごいすごい! ベッドってこんなにも跳ねるのね! やっぱり人間の文明ってすごいわね!」

「サキュバスって、実際のところどうなの?」

「うーん。なんて言えばいいのかしら。別段遅れていると思えないけど、やっぱり人間の方がレベルは高いと思うわ。それに何よりも、食べ物が美味しいし!」

「ははは、まぁそこは大事だよね」

「そうよ! それにしても、本当にどうなることかと思ったものよ。結界の中に彷徨っていると、まさかの人間に遭遇するし。それに訳のわからないほど強そうな奴がゴロゴロといるんだもの。私はまだ若いからよく知らないけど、確か人魔大戦で敗北してからこの都市に逃げ込んだのよね?」

「まぁそうだね。それから150年してやっと大地の一部を取り戻せたってところかな。最近はエルフとも正式に和平条約を結んだしね」

「へぇ〜、そうなんだぁ」

「サキュバスは人間に対して敵対心はないの?」

「別に他の種族と争う気は無いわね。そもそも私たちは戦闘にに特化している種族でもなければ、人間みたいに高度な文明を生み出す知能もないし。エルフと一緒である種中立の立場ね」

「なるほど。でももしかしたら、サキュバスとも交流することになるかもね。今の人間は何かと領土を広げたいという雰囲気があるから」

「まぁ魔人じゃ無いなら、別にいいわ。でもあいつらは別」

「魔人にあったことあるの?」

「一度だけ。あいつらはあれね。病気ね。殺戮することに快楽を覚える最悪の種族よ」

「そうだね……僕らの仲間も、たくさん魔人にやられたさ」

「私たちもよ。魔人に殺されたサキュバスは、結構いるの」



 意外、と言ってはなんだがやはり魔人は他の魔族でも容赦なく殺すようだ。というよりも、そもそも魔族側は仲間意識というものが希薄だ。いやむしろ、無いと言ってもいいかもしれない。


 自分たち以外の種族は抹殺する。


 その理念をもとに行動しているのが奴らだ。何か目的もあるようだが、友好的になれるとは夢にも思っていない。



「ふわぁあああ……なんだか眠くなってきちゃった」

「そのまま寝ていいよ。僕はソファーで寝るから」

「ありがと〜。今日は色々とあって疲れたし、ご飯もたくさん食べたし、もう寝るわね」

「うん。おやすみ」

「おまむみ〜。ぐううう……」



 と、すぐに寝息を立てるキャサリン。よっぽど疲れていたのだろうか、すぐに眠ってしまった。


 そうして僕もまた、少しの時間だけ眠りにつくのだった。



 ◇



「う……ううううぅぅん……」

「あ、起きた?」

「もう朝なの?」

「そうだよ」

「眠いわ……それに朝は嫌いなの……」

「あぁそうか。サキュバスって夜行性だっけ?」

「うーん……厳密には違うけど……やっぱり夜の方が活動的なのは……間違いないわ……」

「そっか。まぁもう少し寝ててもいいよ」

「ありがと……ぐうう……」



 キャサリンはそのまますぐに二度寝に入る。僕はその間に色々と溜まっている洗濯物とかを洗いに宿舎の中を移動する。


 そうして共同の選択場にやってきて洗い物をしていると、ニックがニヤニヤとしながら近づていくる。



「おっす。ユリア」

「ニック。おはよう」

「で、昨晩はどうだったんだ?」

「え? なんの話?」

「あのサキュバス、お前の部屋にいるんだろ?」

「そうだけど」

「抱いたのか?」

「は!?」

「なんだ、まだなのか」

「いやだって、あんなに幼い子は無理でしょ!? というよりも、僕ももとよりそんな気はないし」

「でも相手はサキュバスだろ? なんもなかったのか?」

「うん。普通にグースカ寝てたけど」

「なんだよ。何もねぇのかよ……」

「期待に添えなくてごめんね〜。ま、流石にそれで異種間コミュニケーションはまずいでしょ。エルフならともかく、サキュバスはまだ敵対する意志があるかもしれないから」

「ま、そうだけどな」

「うんうん」



 そうニックと会話をしていると、もう一人聞き慣れた声が後ろから聞こえてくる。


「へぇ……ユリアの部屋にあのサキュバスがいるの本当だったんだ」

「……せ、先輩? ど、どうしてここに?」

「リアーヌに聞いたの。あのサキュバスどうするの、って聞いたら今はユリアの部屋に泊まってるって」

「いや、そんな別に他意はないですよ? ねぇニック……っていないし!」



 音速。いや、それは光の速さを超えていた。ニックは光速でこの場から離脱していたのだ。まさかの僕も、先輩がこんなところに出現するなんて思っていなかったので、普通にビビってしまう。


 というよりも笑っているのに、その双眸だけがじっと僕を見据えているこの状況に心が震える。昨日のリアーヌ王女もそうだったけど、女性ってなんなの? この雰囲気がデフォなの? 



 そんな風に思っていると、僕は先輩に促される。



「部屋、行っても?」

「お好きにどうぞ……」



 ということで、僕は先輩を引き連れて自室に戻ることになった。



「こらっ! あんた起きなさい!」

「ぎゅむ……!」



 ベッドから放り出されるとキャサリンは地面に叩きつけられる。


 あぁ……可哀想に……でも、何もできない僕を許しておくれ。先輩には頭が上がらないんだ……。



「あんた。ユリアに何もしてないでしょうね?」

「いてて……って、あなた誰よ!」

「特級対魔師のエイラ・リースよ。サキュバスのキャサリンとやら」

「うぐ……まさかの特級対魔師……」

「で、何もしていないでしょうね?」

「せ、先輩。別にキャサリンは何もしてないですよ? 昨日は一緒にご飯を食べて、別々の寝床で寝ましたから」

「ねぇユリア」

「はい」

「私はね、こいつに聞いているの。今はあなたの意見はいらないの。わかる?」

「承知いたしました……」



 フォロー終了。もう僕にできることは残されていなかった。



「ユリアの言う通り、別に何もしてないわよ!」

「本当に?」

「本当よ!」

「でもあんた、サキュバスよね?」

「そ、そうだけど……」

「襲ったりしていないの?」

「うぐ……その実は……」

「実は?」

「私はまだ処女だから……色々と分からなくて……その……はい。なんかごめんなさい。サキュバスなのにこの歳で処女で、ごめんなさい……」

「え、その……いや別にいいのよ。私だって、そう言う経験はまだだし……」



 いたたまれない。


 なんとも形容しがたいこの雰囲気。


 しかも、キャサリンと先輩が処女と言う情報を手に入れてしまった。僕はこの空間にいていいのだろうかと自問自答していると、先輩が僕の方をキッと睨んでくる。


「ユリア、今聞いたことは忘れないなさい。いいこと?」

「先輩が処女ってことですか? それともキャサリンが?」

「両方に決まってるでしょ! ばか!」

「あ……そうですよね……」

「で、ユリアはどうなの?」

「は?」

「女二人だけに言わせる気!?」

「えぇ……」

「言わせると言うか、完全に自爆じゃないですかぁ……」

「いいから!」

「まぁ僕もまだ経験ないですよ。そんな暇ないですし」

「ふーん。そうなんだ。ま、別に興味ないけどね」

「えぇぇ……」


 先輩は再びプイッと僕とは逆側に顔を向ける。


 なんだかひどく理不尽なことをされている気がする……。



「あ! こんなことはどうでもいいのよ! リアーヌにキャサリンとユリアを連れてこいって言われてるんだった! 行くわよ、二人とも!」

「わかりました」

「うん」



 そうして僕らはリアーヌ王女の元に向かうのだが、こそっとキャサリンに話しかけられる。



「ユリアって……苦労してるのね……」

「なんの話?」

「王女様といい、エイラといい……大変ね……幸運を祈るわ……」

「? まぁありがとう?」

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