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第162話 二人でお散歩



「……」

「……」



 外に出てきた僕らはとりあえず移動を開始する。互いに黙って、というよりもキャサリンの警戒心がかなり強い。ずっと僕の方を見て、適度に距離を開けて歩みを進めている。



 僕はとりあえず彼女をこんな格好で結界都市内、それにエリアを歩かせるわけにもいかないので中央区の服屋に向かっていた。




「ちょ、ちょっと!」

「どうかした、キャサリン?」

「あんたどこに向かってるの? 方向逆じゃない?」

「今は君の服を買いに行こうと思ってね」

「なんで?」

「そのほうが人間の都市内で生活しやすいだろう? それにサキュバスがいると一般の人に知られると色々と問題だしね」

「別に認識阻害の魔法くらい使えるけど? 今も使ってるし」

「でも魔素は無限じゃないし、何かの拍子で解除されるかもしれない」

「ふーん。ま、そういうことならいいけど……私は買い物をするために何も出さないわよ?」

「お金は僕が出すからいいよ」

「ふーん。ふーん!」



 なぜか、「ふーん」と強調するキャサリン。


 でもとりあえずはいうことに従ってくれるようで良かった。


 そうして僕とキャサリンは服屋の前に到着。中に入ると彼女は目をキラキラさせながら、店内を見て回る。



「うわぁ……すごい! すごい! こんなにもいっぱいあるなんて!」

「人間も最近になってようやく大量生産する余力が戻ってきたからね」

「へぇ……あ! 私これがいい!」

「……なるほど。わかったよ」

「わーい!」



 無邪気にはしゃぐ姿を見て、ほのぼのとした気持ちになる。もしかしたら娘ができた気持ちはこんな風になのかもしれない……と思いながら僕はサッと会計を済ませて、早速それを渡す。



「はい。どうぞ」

「ありがとー!!」

「どういたしまして」



 僕への警戒心は薄れてしまったのか、完全に普通の子どものようになっている。僕としてもコミュニケーションは円滑に取れたほうがいいのだが、この変わりようにはちょっと驚いてしまう。


 やはり女性には種族問わずに贈り物がいいのか。なるほど。


 とまぁ、そんなどうでもいいことを考えている間にもキャサリンはすでに買った服を着ていた。



「どう!?」

「うん、よく似合ってるよ」

「だよね〜。私ってば、超プリティだもんね〜」



 大言壮語な言い分だが、まぁ……あながち間違ってもいない。


 キャサリンが選んだのはポンチョと言われる衣装だった。一見すれば雨合羽のようにも見えるが、ちゃんと色彩もピンクで統一され、さらには頭のツノを隠せるようにフードもついている。


 機能的だし、おしゃれで可愛い。


 その評価は僕も同意するところだった。



「よし。これでもう魔法は使わなくっていいわね!」

「そうだね」

「でもなんであんたは使ってるよ? 人間ならなおさら認識阻害なんて、必要ないでしょ?」

「まぁ僕はちょっとした有名人だから……ははは……」

「へぇ。そうなの。具体的に聞いても?」

「うーん。言ってもいいのかなぁ……でも別に知られて困ることでもないしなぁ……」

「勿体ぶらないで早く!」

「えっとその……僕は特級対魔師序列零位なんだ」

「なにそれ……?」

「対魔師って知ってる?

「魔族に抵抗して人間でしょ? リアーヌに聞いたわ」

「その中でも序列があるんだ」

「へぇ」

「でも僕はその中でも一番上、って感じかな」

「は!?」

「え?」

「あんた人類で一番強いってこと!?」

「一概には言えないけどね。戦う相手との相性とかもあるし。ただ総合力で言えば、人類で5本の指に入るだろうね。ま、近接戦闘に限るけど」

「……」

「ど、どうしたの?」

「私……殺されたりしない?」

「いやそんな無差別に殺しをする人間じゃないよ」

「……本当に?」

「ほんと、ほんと。別に殺戮に快楽は覚えないから」

「そんな事言って……実は……?」

「いや、ないから」

「そう。ならいいけど! でも納得がいったわ」

「なんの話?」

「私、逃げようとしたでしょ?」

「うん」

「その時に捕まえられたのは、そういうことだったのね……って」

「まぁそうだね。特級対魔師ならあれぐらいの速度は普通だね」

「ひいいいい。人間怖いわ〜。下手したら魔人と同等なんじゃない?」

「まぁそれは……どうだろうね」



 そんな雑談を繰り広げながら、僕らはなぜか飲食街に進む。


 これを機にキャサリンに色々と食事でも奢ろうかなと思案していたからだ。



 といっても、店の中に入るのではなく屋台で済ませることにした。いくら服装で誤魔化しているとは言え、一箇所に留まるのは危ないからね。



「ん! 美味い! 美味すぎるわ!」

「そう?」

「このたれよ! これが甘いのに、少し塩辛くて……でもそれが逆にハーモニーを奏でているというか……いや、本当にこれは形容しがたわね……」

「いやめっちゃ、形容してるけど?」

「ふむふむ……ユリア! 次のお店に行くわよ!」

「はいはい……」



 なぜか僕への呼び方もユリアになり、まるで僕を部下のようにして進んでいくキャサリン。



「おや、お嬢ちゃん。可愛いねぇ」

「そうでしょ!」

「うんうん。きっと将来は綺麗な女性になるだろうねぇ……」

「ありがと! それで、これ一つください!」

「はいよ」



 僕が渡したお金を使って一人で買い物がしたいということだったので、僕は遠目からその様子を見守る。ちなみに今買っているのは焼きとうもろこしだ。タレの匂いに釣られたらしい。



「毎度。また来てな、可愛いお嬢ちゃん」

「うん! って、あれ……おじさん、間違えているわよ。二本もくれるなんて」

「それはお嬢ちゃんの可愛さへのサービスさ」

「おじさん!」

「ま、いいってことよ」

「ありがと!!」



 にこりと微笑んで、そのままスキップしながら僕の方へとやってくるキャサリン。



「へへーん! おまけでもう一本もらっちゃた! 私が可愛いから! 私が可愛いから!」

「良かったね、キャサリン」

「うん!」



 頭を撫でてやると、歯を出してニカッと笑う彼女。


 完全にこの街に馴染んでいるのだが、まぁ……それもいいだろう。僕だってなにも争うごとが好きなわけではない。確かに強さは持っているかもしれないが、それがいつか必要なくなる世界を生みだすために戦っている。



 だからこんな笑顔が溢れる街にいつかきっと、なればいいと。そう思った。



 ◇



「う……ぷ……やばい、食べ過ぎたわ……吐きそう……」

「大丈夫?」

「いや……ちょっとやばいわ……」

「しょうがない。よっと」

「……きゃ! なにするの?」

「もう日も暮れたし、今からエルフの村のエリア9に行くのはちょっと大変だから。今日は結界都市内に泊まろう」



 僕はキャサリンをお姫様抱っこする。彼女も初めは少し嫌がっていたが、暴れると本当に吐きそうなのか、大人しくなった。



「うーん……今からだとどうしようか。やっぱりリアーヌ王女の部屋に泊めてもらうか……でもなぁ……万が一のことを考えると、それはやめたほうがいいかぁ……うーん、他の女性となると特級対魔師がいいだろうから……」

「ねぇ」

「なに?」

「別に私はユリアの部屋でもいいけど?」

「え、本当に? 僕も別に構わないけど……その、嫌じゃないの?」

「べ、別に嫌とかないし!? 今日は色々とお世話してくれたから、信頼したとかないし! まだ私はあんたのこと警戒してるんだからね! 勘違いしないでよね!」

「う、うん……」



 僕の腕に抱かれながら、そんなことを言っても完全に意味がない。そもそも警戒している相手にお姫様抱っこされるのはいいのか、と突っ込みたいがそれは野暮ってもんだろう。



 そうして僕はとりあえず、この件をリアーヌ王女に報告してからキャサリンを自室に招くのだった。



 ちなみに僕に懐いているキャサリンを見て、リアーヌ王女の目が笑っていなかったのは……本当に怖かった……。

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