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第127話 作戦概要



 エルフの村を去ろうとしていた矢先、誰かがこちらにやってくるのを感じ取った。あの姿は……アリエスだった。



「アリエス、どうしかした?」

「ユリアさん……そのなんて言ったらいいのか。本当に、何から何までありがとうございました。私……ユリアさんに出会っていなかったら、きっともう諦めて死んでいたと思います。だから、本当に……私に勇気を、生きる勇気をくれてありがとうございます。それが言いたかったのです」

「……そうか。それなら、僕も良かったよ」

「ユリアさん……」

「え……」



 なんだか見つめる目線が妙に熱い気がする……そう思っていると後ろから声がするのだった。



「ねぇ、私たちがいるの忘れていない?」

「えっとその、忘れていないですよ先輩……」

「……」



 先輩はじーっと僕を見つめていた。イヴさんもまた、髪をくるくるとしているも、時折ちらっと僕を睨むような視線を向けてくる。



 ――う、妙に怖いな……。



 もちろんそんなことは気にしないが、とりあえずアリエスに別れを告げてすぐに向かわないと。



「アリエス。今回の作戦が終わったら、人間の街を案内するよ」

「はい……楽しみにしていますね」

「じゃあまた……」

「はい。ご武運を……」



 満面を笑みを向けてくれたが、そこにはもう以前ような翳りはなかった。




「……」

「先輩」

「何よ……」

「その……アリエスとは別に何もないっていうか、その……」

「別に? ユリアがエルフの女といい感じになっていようが関係ないし? 別に気もしてないし? ふん……」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ」



 第一拠点に着くまでずっと先輩はこんな調子だった。そして拠点にたどり着くと、そのままスタスタと足はやに作戦本部に向かってしまう。



「ユリア君は……あれだね」

「なんですか、イヴさん」

「頭が……上がらないね。将来は……女の尻に敷かれそう」

「う……まぁそうかもしれません」

「ふふ……」

「な、何がおかしいんですか?」

「別に? まぁ……ちょっと……可愛いなぁ〜と思って……」

「可愛いですか……」

「うん……ま、ともかく私たちも……行こうか」

「はい」



 僕は改めて自分の頰を軽く叩く。色々とあったが、これからの戦いはきっと重要なものになる。それに今回の作戦での、初めての大規模な戦闘になるだろう。改めて気持ちを切り替えると、イヴさんとともに作戦本部へと向かうのだった。




 ◇





「全員揃いましたね。では、今回の作戦の概要に関して説明いたします」



 特級対魔師、それに各部隊の一級対魔師たちも揃うと僕らはリアーヌ王女からの説明を受けるのだった。



「現在、我々が拠点にしている箇所はこの3箇所です」



 モニターに映し出される現在の状況。それを元に、リアーヌ王女は話を続ける。



「第一拠点、第二拠点に関してはかなり作業が進んでおり、現在は多くの対魔師が常駐しています。しかし先ほど、第三拠点が魔物に襲撃されました」



 ほぼ全員が息を飲む。おそらくこれを元から知っていたのは数名なのだろう。もちろん僕たちもその情報は全く知らなかった。エルフの村は第二拠点のすぐそばに作ってあるが、第三拠点は割と離れた場所にある。解呪をしている間に第二拠点に来なかったのは不幸中の幸いだがやはり……亡くなった対魔師はそれなりの数出てしまったようだ。



「現地からの連絡によると、第3小隊がなんとか撃退に成功したようですが負傷者は十数名。死者は5名ほど出たそうです」



 死者5人か。まだ少ないと思うけれどやはりいつも犠牲が出た時にはやるせない気持ちになる。この戦いでは必ず犠牲が伴うことは理解していた。それをわかった上で、僕たちは軍人となりこの黄昏で戦うと誓ったのだ。このくらいで動揺していてはキリがない……そう思うも、やはり僕は割り切れていない部分があった。



 おそらく今回の襲撃は、僕らが解呪した件と関わりがあるのだと考えていた。タイミング的に第二拠点を襲撃しようとしたけど、第三拠点で防がれたというのが全貌だろうか。



「今回の襲撃、おそらくはエルフの村での解呪とタイミングが同時でした。おそらく呪縛カースが発動しないことに不信感を覚えての行動かもしれませんが……その動きによって、相手の所在地がつかめました。こちらをご覧ください」



 リアーヌ王女が指先を示すと、モニターの1箇所に真っ赤な点が浮かび上がる。



「観測したのは、1時間前です。襲撃の直前なのですが、おそらくここが敵の本拠地ではないかと。さらにこのモニターでは立体的な位置を示すことはできませんが、私の感覚ですとこれは地下の可能性があります」



 地下、か。魔物がいなかったのは、すべて地下に移動していたからなのか?


 それにしても、そもそもどうして相手は地下にいたのか。どうして今更攻撃を仕掛けてきたのか。呪縛カースの性能は詳しくはわからなかったが、それほど精度の高いものではなかったのか。



 などなど、疑問は尽きないも今やるべきことは決まった。



 敵の拠点を叩く。これに尽きる。




「それでは今回の作戦をお伝えします。第一小隊が先陣を切り、そのまま地下に入り込み巨大蠍ヒュージスコーピオンの討伐を。他の隊は漏れてくる魔物の討伐をお願いします。大雑把に言うとこのようなものですが、さらに詳細をお伝えすると――」




 そうしてそこからさらに詳細な内容が伝えられた。僕ら第一小隊の突入する時間。さらには第一小隊が万が一失敗した場合のバックアップ、または他の隊が機能しなくなった時の対処法。様々なケースが想定され、そのたびに何をすべきなのかを伝えられた。もちろん戦場は適宜変化するものだ。こちらの想定通りいくことはないと考えたほうがいいだろう。しかしその時こそ、あらかじめどう動くのかと分かっていれば戦場での生存率も高まる。



 僕らは全体のブリーフィングを終えて、休むことになった。と言っても作戦開始時間は今から12時間後だ。今が19時なので、作戦は翌日の7時からということになっている。



 こうして黄昏での初陣が本格的に始まることになる。この時の僕は何も心配はいらないと、これだけのメンバーが揃っているのだ。負けるわけがない。そうどこか楽観的に思っていた。だがその認識は誤りだということを、嫌という程刻み込まれることになるのだが……それはまだ知る由もなかった。




 ◇




「ベル、ちょっと待って」

「なんですか、リアーヌ様」



 ベルが作戦司令部を出て行くと、リアーヌが後ろから声をかける。



「これを、あなたに」

「ペンダント、ですか?」

「はい。今日はあなたの誕生日でしょう? ベルが10年前にくれたものを、模倣してみたの。よく似てるでしょ」



 リアーヌがそう言ってポケットから引き出すペンダントは、確かにベルが10年前にあげたものと酷似していた。



「まるで……お揃い、ですね……」

「えぇ。時間を作って、少しずつかけて作ったのだけれど、どう?」

「とても気に入りました……今すぐつけても……?」

「えぇ。つけてあげる」



 リアーヌはベルの後ろに回ると、少しだけ腰を落とした彼女の首元にペンダントをつける。そしてベルがそれをつけたのを確認すると、リアーヌはにこやかに微笑むのだった。



「誕生日プレゼントはこれだけだけど……戻ったら、二人でケーキでも食べましょう?」

「……リアーヌ様の手作りですか?」

「もちろん! 今度はいい栗が手に入ったから、栗のケーキにしようと思うの」

「ふふ……それはとても楽しみです……」



 ベルは甘味はあまり得意ではないが、リアーヌの作るケーキだけはなんであっても好きだった。将来はケーキの専門店を出したいと言っているリアーヌ。その夢をいつかサポートするのも、ベルの夢である。



 ――二人で大きなケーキ屋さんを作りましょう!



 それは幼い頃のリアーヌと誓った夢であり、二人はそれを真剣に叶えようとしている。だからこそ今は早く黄昏から世界を解放しなかればならない。そうして……世界が平和になったのなら、二人で一生にケーキ屋さんを経営しよう。それが彼女たちの夢であり、誓いであった。


 リアーヌがケーキが好きなのは当然だが、ベルもまた好んで戦闘をしているわけではない。もし、もしこの先に対魔師以外の道があるならばリアーヌと一緒に甘味の道を極めるのもいい……そうベルは思っている。



「ベル。私、待っているから」

「はい……絶対に……戻ってきます。私が嘘をついたこと……ありますか?」

「いえ、ないわ。あなたはいつでも、約束を守ってきた。絶対にあの黄昏から戻って来た。だから今回も待ってるわ。いつものように、ね」

「はい、リアーヌ様」



 そうしてベルはリアーヌの元を去って行く。腰に差している朧月夜に触れながら、ベルはそのまま戦闘へと意識を切り替えていく。



 その双眸に宿る灼けるような炎は、確かなベルの意志を表していた。



 一方のリアーヌははっきり言って、心配でたまらない。確かにベルは対魔師の中でも最高峰に強い剣士だ。おそらくユリアに匹敵するか、それ以上か。肉体的なピークは過ぎているというのに、最近のベルの闘気は凄まじいものだがある。それは戦闘に関してほぼ素人のリアーヌでも分かっていることだった。



「ベル、武運を……」



 リアーヌはそう告げると、ベルと反対方向に歩みを進めていく。ベルは最強の剣士であり、約束を違えたことはない。必ず戻ってくるのだと、そう信じて――。



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