悪性新生物の撲滅
ディストピア系ショート&ショートです。
思いつきです。
「普通はね、放っておくといいんです、問題ないところで落ち着くものなので」
博士はマップとグラフを拡大した。
「一つの種だけが増えていくと、問題が起こるでしょう? 栄養、スペース、飽和してしまうがために破綻するのですよ」
博士は会場内を一瞥し、画面を切り替えた。
「ところが、この種はうまく対応することができるみたいなんです。だから問題なんです。この種が活動することで生じる代謝産物が増えて、悪影響を及ぼしている」
汚染を示す毒々しいハイライトがマップの至る箇所にマークされていた。
それをみた若い研究者が発言する。
「これだけ汚染されていたら、こいつら自身も持たないでしょう? 環境のバランスが崩れることで、結局破綻するんじゃないですか?」
「それがね」
博士は苦々しい表情でマップを切り替え、広範囲を表示した。
「転移しそうなんですよ」
種の分布を示すマークが、ポツンポツンと遠隔地に示されている。
「本来違う環境には定着しないんですけどね。どうも徐々に寿命が延びているみたいなんですよ。そのうち適応してしまうのではないかと思うのです。少なくとも、そのリスクは、小さくはありません」
会場は重い沈黙に包まれた。
「わかりました」
しばらくして役人が口を開いた。
「この種に特異的に作用する薬品もあります。あまり放置しないで治療することが望ましいでしょうね」
「意見や反論のある方は・・・」
「異議なしのようですね」
3021年4月、順調に進んでいた宇宙開発は、ついに地球と似た無人の惑星での定住技術を実用化できるところまで進歩した。
・・・その翌月、突然猛威を振るった謎の伝染病により、人類は瞬く間に全滅した。
人類は地球のがん細胞だよね、という話と、
人類の活動なんて宇宙からすれば人体の中で細胞とか組織とかがどうこうというレベルの話にすぎないよね、という感覚から、書いてみました。