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血塗れ残虐王の影武者



南方の小国群との昼食会。それは毎回決まって向こうからの”要請”が付き物だ。残虐王と呼ばれるお兄様の治世で、何故そんな横暴とも言える行為を繰り返せるのか。それは小国群のある勘違いによって最近調子に乗ってきているからだった。


「オフィーリア王女、まずは婚約がお決まりになったとの事、おめでとうございます。」


小国群の使者達の代表者のすぐに分かる上辺だけの言葉と、たかが王女と軽んじた態度に、笑みを深めた。互いに目は笑っていない。


「ありがとうございます。」


「それで、その…陛下にもお祝いを申し上げたいのですが、こちらにはいらっしゃらないのでしょうか?我々は王女様の誕生祭にも出席致しませんでしたので、国へ戻る前にお話をさせて頂けたらと思っていたのですが…」


彼らは私の誕生祭に出席しなかったんじゃなくて、出席させて貰えなかった。実はそこが彼らが増長する理由にも繋がっている。


彼らの国はこれといった特産も無い弱小国で、お兄様を始めとするこの国の者には相手にする価値も無いと思われている。これまで数十年とそういう扱いを受け、その為に周囲の国と違い、滅ぼされる事も無かった小国群は、段々と勘違いしていった。――自分達は何をしても攻められる事は無い――と。


「申し訳ありませんが陛下はとてもお忙しい身ですので…お話なら私が代わりにお聞きしますのでどうかご心配無く。」


「そうですか……では、陛下にどうかよろしくお伝えください。」


お兄様は面倒なばかりで何も生まないどころか何かを要求される事が確定しているこの昼食会を私に押し付けて、今頃は城下へお忍びで出かけてるんじゃないかしら。そこで目をつけた女性を連れて帰る事もしばしばある…


それと、陛下に伝える事は何も無い。この程度の重要性の低い事をいちいちお兄様に報告してたらキリが無い。


「ええ。それで、お話とは?」


「ご存知の通り我らの国々は国土が小さく、自国だけで食料を賄い切れないのですよ。ですから少々ご支援頂けたらと思いまして…」


またそれか…自国だけで賄えないなら、貿易で食料を買う為に売れる特産品を作るか、人口を減らす方策を練るべきなのに。あろうことか他国に無償で提供せよと。これをたかりや施しと呼んで何が悪い。


「その件でしたら残念ながらご協力する事は出来ないと申し上げた筈ですが。我が国も近年不作の続く地があり、そこを差し置いて他国への支援というのは難しい状況なのです。どうかご理解下さい。」


「そこをなんとか!貴国は大国なのですからどうとでもなるでしょう!それに、我らは姫を何人も陛下の側室に差し出したのですよ!少しはその恩恵があってもいいでしょう!」


お兄様……まあ、今回ばかりはお兄様は悪くないんだけど。王女をお兄様の側室にというのは向こうから言い出した事だからね…それをエサにした上に、この国の民より自国を優先せよ。というのは虫が良すぎる話だとは思わないのか…


「姫君達は丁重に扱っておりますし、輿入れの際には潤沢な支度金をお送りしましたよね?申し訳ありませんが、これ以上は我が国としても致しかねます。」


「ですからっ!それでは埒があきません!陛下と直接お話させて頂きたい!姫達を寵愛なさっている陛下ならば分かってくださる筈です!」


…多分お兄様にその不遜な態度で直談判したらあっという間に攻め滅ぼされるだけだと思うけどね。ただでさえ何も無い国に戦争を仕掛けるのは割に合わないのに、今は不作で暴動が起こりかねない事態だ。正直勘弁して欲しい。


「先程も申し上げた通り、陛下はお忙しいのです。この件に関しましては私が陛下より一切の判断を委ねられていますので。」


「こっちが下手に出たらいい気になりやがって!女のくせに生意気なっ!お前は大人しく王の上にでも跨ってりゃあいいんだよ!」


暴言…っていうか、それ、完全に失言ですからね?ほんと勘違いも甚だしいわね…この情勢でも、お兄様が聞いたらいくらなんでも放っては置かないわよ?


さて、どうやって穏便に抑えようかと考えていたら、背後に立っていたニコライが動いた。凄まじい怒気と共に空気を切り裂くような速さで剣を抜き、例の発言をした使者の首に突き付けた!そのままの動作で刺し貫こうとしたので、慌てて驚きで固まっていた体を動かし、なんとかギリギリで使者が死ぬ前にニコライの手を抑える事ができた。


「…ちょっと、ニコライ様!殺したら駄目でしょ!?戦になったらこっちが赤字なのよ!」


「っ!申し訳ありません。つい癖で…」


癖ってなんなのよ…お兄様みたいな事するんだから、ヒヤヒヤしたじゃない。それにしても、ニコライらしくない短絡的とも言える行動ね。


内心首を傾げつつ、殺されそうになった恐怖で慄えている使者に向き直ってまずは話を収めることにした。


「あぁ…こちら、私の夫となるニコライ・シャドミウス様です。私を案じるあまり手が滑ってしまった様です。こちらもお怪我をさせてしまいましたので、今回の非礼は不問とします。今日はこれで終わりにしましょう。それでは…」


使者は死にはしなかったものの、刃が少し触れてしまった様で首から血が垂れていた。それを利用して今回の件を相殺してしまおうという魂胆だ。これでニコライからお兄様に話が行っても問題無いだろう。


…お兄様は戦争や殺戮を趣味のように思っている節があるから。国に利益を齎すなら止めはしないけど、今回はそうじゃないし、今はちょっと時期が悪いのよね。


「……本当に申し訳ありませんでした。私のせいで殿下にご迷惑をお掛けしてしまいました。」


部屋を出て歩き始めると、深刻そうな顔をしたニコライが深々と頭を下げて来た。私も立ち止まってニコライの肩を掴んで頭を上げさせる。


「良いのよ!実は結構有り難かったから。お陰でお兄様に短気を起こさせずに済むわ。逆にニコライ様があんなに怒って、守ってくださったのはちょっと驚いたけれどね?」


「いえ…殿下の護衛は私の任務ですので…ですが、少しやり過ぎた様です。あの様な口汚い言葉で殿下のお耳を穢す輩に無性に腹が立ってしまって…」


「ニコライ様…ありがとうございます。」


やり方はどうかと思うけど、気持ちは嬉しい。自分でも腹が立たなかった訳じゃないからね。ちょっとスッキリしたよ。お兄様が同じ様な事をしてくれたとしても、また面倒な事を…としか思わないんだけどね。


…あれ?そう考えるとお兄様とニコライってやってる事が似てるんだな……あ!そういえばあんまり意識してなかったけど、ニコライはお兄様の影武者だったんだ。さっき癖って言っていたし、ずっとお兄様のフリをしていたら、とっさの時に取る行動が似てもおかしくないか。


そうなるとちょっと気をつけなきゃ危ないわね。お兄様は破天荒である意味問題児だから、ニコライもその気があるのかも。



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