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仮面製作中



私に宛てがわれている王宮内の執務棟の一室に入ると、既に今日の仕事の準備が整えられている。執務机の前に座ったところで秘書代わりに使っている、部下の中でもひときわ優秀な文官が目の前に立ち、いつも通り大量の資料や文書片手に朝の報告を始めた。


「昨晩の間に上がって来た報告は三件です。近年不作の続く領地に反乱の兆し有り。それに乗じて軍部より肥沃な土地を持つ隣国を攻めるべきだとの上奏が来ています。それと、側室の間でまた諍いが起きているようです。いかがなさいますか?」


「本当に頭の痛い問題ばかりね…不作には根本的な解決をすると共に食料の支援を増やしなさい。食料を護送する兵士を増員し騎士も加えて理由を付けて長期滞在させておいて。反乱を押さえ付けつつ、不穏分子の炙り出しを。軍部には再三の説明を聞かないようだから、陛下に報告申し上げたと伝えて頂戴。しばらくは大人しくなるでしょう。」


「承知しました。三つ目の案件はどうされますか?」


「側室の諍いなど放って置きなさい。勝手に自滅してくれた方が財政的に助かるわ。お兄様ももう少し考えて手を出して欲しいものね。来る者拒まずなんだもの!…ただ、王子や王女の保護はしっかり行うように黒騎士に再度伝えて。」


英雄色を好む…か。そこが唯一のお兄様の弱点でもあるのかもね?


ニコライが彼にしては珍しく、驚いて目をほんの少し見開いている様子だったので後ろにいる彼を振り返って微笑む。


「おかしいでしょ?一介の王女がこんなに色々決めてると思うと国の未来が心配になってくると思わない?」


「……正直驚きました。今まで見て来た殿下のどの印象とも違って…陛下に信頼されていらっしゃるんですね。自分が聞いても良かったのか悩む内容まで報告を受けていらっしゃって…」


「信頼というか、お兄様には私が裏切らないとの絶対の自信があるんでしょうね。おかげで色んな仕事を丸投げされちゃって困っちゃうわ。ニコライ様にもどんどん仕事を回すから覚悟して下さいね。」


裏切()ない上に、仕事でミスしたりしたら恐ろしいお仕置きが待っているからね。自然と完璧にこなせるようになりましたよ。そうしてどんどん普通の女性から遠ざかって行くという…


ニコライ様にはニコッと笑っておいたけど、内心は薄っすら寒気がして身震いを堪えている状態だ。ニコライ様は知ってか知らずか、微笑みを形作って頷いた。


「本当に仲睦まじくて大変羨ましい限りですが、そろそろお仕事に戻って頂かないと…」


「いやだ、そういうのじゃないのよ。次の報告をお願い。」


偽装工作というか、既成事実作りというか…この場には事情を知る秘書代わりの筆頭文官だけでは無く、他の文官や使用人もいるから。口裏合わせはしていなけど、筆頭文官の印象操作に乗ったって感じかな。


まるで図星であったかの様に頬を染めて、気恥ずかしさから話を逸らした風に装う。


「では、本日のご予定を申し上げます。午前は決裁が上がって来ているのでそれを纏めて片付けましょう。その後、南方の小国群からの使者と昼食会。午後からは慈善訪問とその隙を見て、昨晩の誕生祭にご臨席頂いた諸外国の代表者に御礼のお手紙。終わり次第国内の出席者へもお書きください。夕食は陛下と共に晩餐会となります。列席者は国内の有力貴族と一部の商人となっています。」


「相変わらずギッシリ詰め込んだものね…分かりました。さっそく始めましょう。ニコライ様は決裁書を片っ端から読んでくれる?チェックはされているんだけど、どうしても抜けている部分や変な所が毎回出てくるから。二重で確認しましょう。」


「は。承知しました。」


と、頼もしい返事をくれるとニコライは手近な物を手に取り、素早く文書を読み込んでいった。こちらも作業を始めて、一枚終わるとニコライに渡し、二人ともが確認して問題無ければサインをして王家の紋章を押印する。


指摘してくれるニコライのおかげで見落としの心配無く、スムーズに作業は進んだ。途中、悪意ある文書が紛れ込んでいたりもしたけれど…日常茶飯事だ。


「こちら、どう考えましても通る筈の無い私的な要求だと思うのですが…」


「ん?…ああ、捨てちゃえば良いよ。誰かが金か権力で押し通しただけだから。こんなもの、本気で通ると思ってるのかしらね〜」


「あわよくば、ですか?」


「おろかもの、よね。こんな事で仕事を増やさないで欲しいわ。」


それがようやく終わったかと思えば次は昼食会という名の施しの要請で…その前に身体の凝りを解そうと少し伸びをしていたら、さっそくというかアレが始まった。


「…お疲れ様です。オフィーリア殿下。」


人目が多い時を狙っての額への軽い口付け。ニコライは私にだけ見えるように申し訳なさそうな顔で予告してから顔を近付けた。


「ニコライ様もお疲れ様でした。手伝って頂いてとっても助かりましたわ。」


背が届かないので私は口付けをニコライの額では無く、頬に返す。この光景を何も知らずに見た者からは微笑ましそうな様子が伝わってくる。


いい歳した独身女が浮かれちゃって…とか思われて無いか心配だわ。このくらいお兄様相手にいくらでもしてきたっていうのに…あ、嫌だ。昨日のお兄様の唇に触れた感触を思い出してしまった。あの後お風呂で洗い流してはおいたけど、おふざけが過ぎるよまったく…昨晩はお兄様もだいふお酒が入ってたからな。


「いえ。当然の事をしたまでです。」


はっ。と意識を引き戻されると、ニコライがほんのり頬を赤く染めて返事をしていた。そういえばニコライも手慣れてない感じがあったな…もしも私が初めての口付けの相手だったとしたら申し訳無い。文句はお兄様に言ってくださいな…


そのままの流れで、昼食会の部屋まで手を引いてエスコートしてくれるようだ。こちらはとても安心して身を任せられる慣れた動作だから不思議だと思う。



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